第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述46

生体評価学1

2015年6月6日(土) 08:15 〜 09:15 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松原貴子(日本福祉大学 健康科学部)

[O-0345] 一次運動野領域への経頭蓋直流電流刺激が電極直下および同側頭蓋内血流動態に与える影響

高井遥菜1,2, 椿淳裕1, 菅原和広1, 宮口翔太1, 小柳圭一3, 松本卓也1, 大西秀明1, 山本智章4 (1.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 2.医療法人社団秋桜丸川病院, 3.地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院, 4.医療法人愛広会新潟リハビリテーション病院)

キーワード:経頭蓋直流電流刺激, 近赤外線分光法(NIRS), 脳血流動態

【はじめに,目的】
経頭蓋直流電流刺激(tDCS)は,頭皮上から脳に1~2 mA程度の微弱な直流電流を通すことにより,静止膜電位を変化させ,脳の興奮性を調整する非侵襲的脳刺激法である。tDCSは陽極刺激では興奮性,陰極刺激では抑制性の極性特異的な効果を及ぼすことが報告されており,現在は脳卒中をはじめとしたリハビリテーション分野にも応用されている。一方でtDCSの作用機序に関しては未だ不明な部分も多い。特に,脳血流動態に対する影響については,MRIによるものが殆どであり,刺激中の経時的変化について検証したものは希少である。そこで,本実験では,近赤外線分光法(NIRS)を用いて,刺激中の電極直下および周囲の運動関連領野の血流動態を経時的に捉えることを目的とした。
【方法】
健常成人6名(年齢:22.2±1.0歳)を対象に,右一次運動野(M1)に刺激電極中心を合わせた1 mA20分の実刺激(陽極刺激/陰極刺激)と擬似刺激の3条件のtDCSを行った。刺激プロトコルは,3分間の安静の後,20分間のtDCSを行うものとし,その間の酸素化ヘモグロビン(O2Hb)をNIRSにより計測した。同時に,NIRSデータに影響するとされる頭皮血流(SBF)と心拍1拍毎の平均血圧(MAP),心拍数(HR)についても計測を行った。今回,tDCS電極の直下の血流を捉えるため,50 mm×70 mmのtDCS電極にNIRSプローブ挿入用の直径5 mmの穴を8個あけたNIRS計測専用電極(電流密度:0.000299 mA/mm2)を作成し,これを刺激に用いた。もう一方の電極は,左の前額部上に貼付した。関心領域は,補足運動野(SMA),右運動前野(PMC),右M1,右一次体性感覚野(S1)とし,これらを覆うように全34のNIRSチャネルを配置した。また,刺激電極の直下にNIRS送受光プローブをもつチャネルに限定した領域についても解析を行った。各データは,安静3分の平均値からの変化量を算出した後,30秒毎に平均した。統計処理は,全パラメータに対し,それぞれ「刺激条件」×「時間」の二元配置分散分析を行った後,Tukey HSD法による多重比較検定を行った。
【結果】
刺激中のO2Hb変化のピーク値(単位:a.u.)は,陽極刺激,陰極刺激,擬似刺激の順に電極直下で4.7,2.8,1.4,PMCで2.8,2.3,1.8,SMAで1.5,0.9,1.3,M1で4.1,2.9,1.5,S1で4.0,2.6,1.2であった。刺激条件要因に時間要因を含めた経時的変化を,領域ごとにTukey HSD法で比較した結果,電極直下では,疑似刺激に対し陽極刺激,陰極刺激が(p<0.01),陰極刺激に対し陽極刺激が有意に高い値を示した(p<0.01)。PMC,SMAにおいては疑似刺激と陰極刺激間に有意な差は認められず(PMC:p=0.933;SMA:p=0.163),これらに対し陽極刺激が有意に高い値を示した(p<0.01)。M1は,疑似刺激と陰極刺激間は有意な差にはならないものの電極直下に類似した差のある傾向を示し(p=0.051),これに対し,さらに陽極刺激が有意に高値であった(p<0.01)。S1は,電極直下同様,擬似刺激に対し陽極条件,陰極刺激が(p<0.01),陰極刺激に対し陽極刺激が(p<0.01)高値を示した。いずれの領域においても,時間要因に差はなく(p=0.091~1.000),時間要因と刺激条件間に交互作用も認められなかった(p=1.000)。SBF,MAP,HRに関しては,各要因において条件間に有意な差は認められなかった(p≧0.05)。
【考察】
本結果ではM1への1 mA20分の陽極刺激中は,関心領域全体でO2Hbの増加が認められた。刺激条件間を比較すると,電極直下領域およびM1,S1は類似した変化があった。これは,電極の大きさが3343 mm2と,刺激目的部位に対しやや大きかったことによりtDCSの効果がS1領域にも及んだ可能性が考えられる。Zhengら(2011)は,動脈スピン標識MRIを用いた研究において,tDCSの電極直下の領域で,刺激中に陽極刺激,陰極刺激共に脳血流が増加し,その大きさは陰極刺激よりも陽極刺激で大きかったと報告している。本実験結果も,これを支持するものであった。一方,刺激部位以外の領域については,一次運動野への陽極刺激は周囲の運動関連領野間の連結を強化するのに対し,陰極刺激では反対に半球をまたいで遠位の領域との連結を強化するとの報告があり(Stagg et al., 2013),本研究はこれを反映したものである可能性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
tDCSの効果について,刺激中の血流動態を経時的にを明らかにすることができた。これにより,効果的な刺激設定や,有疾患患者様へのリスクを探ることなどへ展開することができる。