第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述58

代謝2

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:塩塚順(虹が丘病院 リハビリテーション科), 忽那俊樹(北里大学東病院 リハビリテーション部)

[O-0439] 透析患者の老健入所による,骨,ミネラル代謝の改善効果について

リン値とカルシウム値の変化の調査

園英則, 上杉睦 (介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部)

Keywords:透析, 介護老人保健施設, 代謝

【はじめに,目的】
生体のミネラル調節で腎臓は重要な役割を持ち,慢性腎臓病ではミネラル代謝異常,リン(P)値の変化の是正が重要である。高リン血症は骨や副甲状腺の異常だけでなく,血管の石灰化等を介して透析患者の生命予後に影響を与える。透析患者のP値の目標値は,異所性石灰化を避けるために低く保つことが重要であるが,低すぎても死亡リスクが高い報告がある。また,骨代謝には運動が影響するためカルシウム(Ca)はPと併せての観察が必要である。介護老人保健施設(以下老健)は透析患者に運動療法や栄養管理を包括的に長期間提供できる施設である。今回,老健入所による骨,ミネラル代謝の改善効果について,P値,Ca値の変化を中心に入所後の血液検査値を調査した。
【方法】
対象は慢性期透析患者72名(男性32名,女性40名),年齢(歳)78.3±9.0,身長(cm)154.2±9.0,透析期間(年)8.0±7.4,当老健に3ヶ月以上入所した利用者であり,入所時のP値より,基準以上(高P群)10名,基準内(基準内P群)45名,基準以下(低P群)群17名の3群に分類した。運動療法では理学療法士の評価より,歩行運動,マシントレーニング,自転車エルゴメータ,筋力強化運動を中心に,非透析日に週3~5回,20~40分/回程度実施した。栄養管理は管理栄養士がエネルギー,蛋白質,カリウム,リン,塩分等を調整した透析食を提供した。測定項目は血液検査値(透析前値:P,Ca,BUN,Cr,K,CRP,Alb,Hb,BS,TP,Na,Cl,TC,中性脂肪,HDL-C,LDL-C),体重(ドライウェイト),機能的自立度(以下FIM)を測定した。測定は入所時,1ヵ月ごとに行った。なお,脂質代謝は入所時と2ヵ月後の値を調査した。統計解析(IBM SPSS Statistics 22)は一元配置の分散分析とScheffeの多重比較法を用いた。また,脂質代謝とFIMは対応のあるt-検定,Wilcoxonの順位和検定で比較した。
【結果】
以下,入所時,1ヵ月後,2ヵ月後,3ヵ月後の順に結果を表記する。P値(mg/dl±SD)は高P群では6.6±0.9,5.3±1.4,5.3±1.2,4.9±0.9に減少し,入所時との比較では1,2,3ヶ月間すべてに有意差を認めた(p<0.05)。基準内P群では4.4±0.7,4.1±1.1,4.2±1.1,4.3±1.3であった。低P群では2.6±0.7,3.1±0.9,3.5±0.6,3.8±0.9に増加し,入所時との比較では2,3ヵ月後に有意差を認めた(p<0.05)。Ca値(mg/dl±SD)は高P群では8.7±0.7,9.1±0.8,8.5±0.7,8.6±0.9,基準内P群は8.5±0.6,8.5±0.5,8.4±0.5,8.4±0.5,低P群は8.4±0.8,8.2±0.8,8.3±0.6,8.3±0.5でいずれも有意差はなかった。Alb,TP等は有意差を認めず安定した結果であった。FIMでは基準内P群の入所時,3ヵ月後の結果は,総合得点で92.8±21.8,96.5±21.3,運動13項目で65.6±18.3,68.8±17.4に有意に向上した(p<0.05)。
【考察】
老健入所によりP値は高P群では減少し,基準内P群では安定し,低P群では増加する結果となり,入所後3ヵ月後には全ての群で基準値内に適正に保たれた。P値が改善した要因には栄養管理の効果が主と考えられるが,P値の変化にも関わらずCa,Alb,HbおよびTP等が安定した結果には,運動療法の継続による骨代謝やミネラル代謝の効果も考えられる。また,代謝が安定したなかでFIMが向上したことは運動療法の効果と考える。さらに,透析患者ではProtein energy wasting(PEW)が問題となるため,食事制限のみではなく運動療法と栄養摂取の併用が重要である。近年,透析患者の運動習慣の有無が生命予後に影響することは明らかとなっている。透析患者に対する理学療法では身体機能の向上のみでなく代謝改善の効果も考慮する必要がある。また,透析療法では血液検査を頻回に実施し医師が治療方針を検討するため,理学療法士は検査結果の変化を把握し,運動療法を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
透析患者の代謝コントロールには透析療法,運動療法,栄養管理の包括的なアプローチができる老健の入所が効果的である。今後,透析患者が老健施設を有効に利用できる環境整備が重要である。