第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述58

代謝2

2015年6月6日(土) 12:30 〜 13:30 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:塩塚順(虹が丘病院 リハビリテーション科), 忽那俊樹(北里大学東病院 リハビリテーション部)

[O-0444] 片麻痺を伴うT2DMにおける睡眠中の体動と運動療法は脈波伝搬速度に影響を及ぼすか?

人工知能を用いたヒューリスティックエラーを回避する解析手法の試み

木村朗 (群馬パース大学)

キーワード:T2DM, 睡眠, 高齢片麻痺者

【はじめに,目的】
いわゆる生活期の高齢片麻痺者の健康管理は再発重症化予防やQOL向上において必須である。片麻痺を伴うT2DMにおける血管機能の身体不活動に伴う増悪予防に着目した睡眠・休養・活動の調整は,クアントおよび理学療法士が看護や他の医療・福祉職湯と連携する上で重要な事項である。我々は,この連携を妨げる要因として,各専門職が共通認識に基づく有効なアウトカムが未設定である可能性について報告した。本研究の目的は,睡眠・休養・活動の調整が生活期のT2DMを合併する高齢片麻痺者の血管機能において,運動療法と併せて身体不活動に伴う脈波伝搬速度の増悪に影響を示すか否かを人工知能を用いたヒューリスティックエラーを回避する解析手法を用いて明らかにすることであった。
【方法】
研究デザインは前向きコホート研究における,探索的要因による群分け比較を行うサブ解析であった。参加者(N=16名)は,発症より3年以上経過し介護老人保健施設を利用する高齢片麻痺患者であった。
解析対象者はT2DM者2名,非T2DM者が14名。男性4名女性12名,平均年齢は82歳,体重は47kgであった。
研究参加組み入れ基準は1.T2DMにおいて血糖がFBG145mg/dlを超えず,3ヶ月間新たな投薬をせずに高血糖を生じていないこと。2.研究開始評価時点の1ヶ月間の一日の身体活動量(PA)の平均が1200-1400Kcalにあること。3.自立して立位可能な者。とした。
主要評価項目は脈波伝搬速度(PWV)。
エンドポイントはベースラインに対して3か月時点で5%以上の悪化を示すこととした。
24時間のABPM(BPro(Healthstat),Tanita製身体組成計による筋量,電波レーダーによる睡眠時体動時間(Omuron,HSL101),Actigraphによる身体活動量を測定した。
解析は,ブレフマンによる集団機械学習手法ランダムフォレスト法(rF)を行った。睡眠・休養・活動の各変数の値をrF,人工知能による教師付分類を行った結果に従い,有意なgini係数をもつ変数条件を特定し,中央値もしくは,二値情報により群に分類した。この分類による群間のアウトカムの成績を求めた。さらに,T2DM者を含む場合と,含まない場合で,分岐ルールにgini係数を用いてモデルを求め,要因と血圧,年齢を調整しGEE一般化線形構造方程式GEEを用いて,効果量と危険率を求めた。解析にはrFはR言語を,GEEはSASv9.1およびIBMSPSSv21を用いて算出した。
【結果】
エンドポイント事象を判別分析する弱学習器モデルで抽出された要因で最もginiが2を超えて高いものには,T2DMを含んだ場合にREM期第二ステージの体動時間の総和と,健側筋量が抽出された。GEEは,中央値の60分間以上と,健側筋量が5.5kg以上の条件で分割した群(条件該当群)と該当しない群(非該当群)間のPWVにおいて有意な差を認めた。T2DMを含まない場合睡眠・休養・活動の時間比において,同条件間でPWVにおける有意差を認めなかった。条件該当群のPWV中央値は2365(95%CI:2054-2676),非該当条件群で1476(95%CI:993-1959)であった。睡眠時体動時間は4つのステージ,すべて単独では有意な差を示さなかった。またT2DMを含まない場合,95%CIが有意なカットオフ値は見いだせなかった。
【考察】
睡眠・休養・活動の調整が生活期のT2DMを合併する高齢片麻痺者の血管機能において,運動療法と併せて身体不活動に伴う脈波伝搬速度の増悪に影響を示すことが示唆された。人工知能を用いたヒューリスティックエラーを回避する解析手法は,従来の統計解析手法よりも,精度の高い推定が可能であり,ビッグデータ解析のみならず,このようなサイズの解析にも有効であることが確かめられた。特にREM期から覚醒に至る睡眠周期の中で軽度な睡眠時体動時間の多寡と筋量の組み合わせが身体不活動性に伴う血管機能低下に影響を及ぼす可能性が示唆された。これらに介入するために睡眠状況における身体活動に働きかける新たな理学療法技術の存在を探索する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
片麻痺を伴うT2DMにおける血管機能に睡眠時体動の情報を生かすことの重要性が示され,従来とは異なる,理学療法の役割が見出されたことは意義がある。睡眠状況における身体活動に介入するための新たな理学療法技術の存在を探索する必要を強く示唆することから,本研究方法の実装性は理学療法開発方法としても有用性がある。