第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述60

神経・筋機能制御1

2015年6月6日(土) 12:30 〜 13:20 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:久保田雅史(福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0451] 脊柱後弯症者の体幹伸展筋に対する電気刺激療法と運動療法の併用による影響

シングルケースデザインによる検討

中村潤二1,2, 生野公貴1,2, 庄本康治2 (1.西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.畿央大学大学院健康科学研究科)

キーワード:電気療法, 脊柱起立筋, 円背

【はじめに,目的】
高齢者の増加により,臨床において多くみられる脊柱の変形は,転倒リスクの増大,ADLやQOLを低下させることが報告されている。脊柱の後弯変形は,椎間板腔の狭小化や椎体骨折などの他に体幹伸展筋群の筋力低下も一因とされており,筋力増強運動を行うことで,脊柱後弯姿勢が軽減するといった報告もある。一方,筋力増強に関しては,電気刺激療法による効果が報告されている。従来の筋力増強のための電気刺激には,筋収縮を誘発する強度が用いられるが,疲労や不快感が生じやすく,十分な筋収縮を誘発することが困難な症例も経験する。先行研究では,感覚閾値の強度の電気刺激であっても筋力増強効果が得られることを報告しており,患者負担が少ないという利点がある。しかし先行研究の多くは,下肢の筋へ実施されており,体幹の筋力低下に対する電気刺激療法の報告は乏しい。そこで本研究では,脊柱後弯を呈する1症例の脊柱起立筋に対して,感覚閾値の電気刺激療法と運動療法を併用した際の影響を検討することとした。
【方法】
対象は,急速破壊型股関節症により,左人工股関節全置換術を施行された80歳代の女性で,20年前から脊柱後弯姿勢を呈していた。術後19日目に回復期リハビリテーション病棟に転院し,術後58日目から介入を開始した。歩行は歩行器にて自立されており,物的介助なしでの歩行は両上肢を大腿においた状態であれば見守りであったが,「腰に力が入らずに曲がってしまう」といった訴えがあり,腰部痛もみられていた。研究デザインには,シングルケースデザインのABデザインを用い,各期間を2週間とし,60分間の介入を週に5日間実施した。A期には運動療法を中心とした標準的理学療法を実施した。B期には標準的理学療法に脊柱起立筋への感覚閾値強度の電気刺激を併用した。電気刺激には,低周波治療器(ESPURGE,伊藤超短波社)を用い,L1からL5レベルの両側の脊柱起立筋に自着性電極を貼付した。刺激波形は対称性二相性波,刺激強度は感覚閾値の1.5倍の15mAとした。パルス幅は1ms,周波数は100Hzとし,刺激時間は60分間とした。評価は,等尺性体幹伸展筋力と等尺性膝伸展筋力をハンドヘルドダイナモメーターにて測定し,静止立位保持時間,静止立位における体幹前屈角度,物的介助なしでの10m歩行時間,Timed up & go test(TUG),連続歩行距離とその際の腰背部痛を11段階のNumerical Rating Scale(NRS)にて2週毎に測定した。体幹前屈角度は立位姿勢を矢状面から15秒間動画撮影し,1秒ごとにImage J(米国国立衛生研究所)を使用して測定した。
【結果】
体幹伸展筋力は介入前,A期,B期でそれぞれ6.6kgf,7.9kgf,10.7kgfとなった。左膝関節伸展筋力は11.3kgf,10.4kgf,11.7kgfで,右膝関節伸展筋力は15.8kgf,14.4kgf,18.8kgfとなった。立位保持時間は39秒,44秒,76秒となった。体幹前屈角度は45.9±1.6°,42.5±1.3°,39.7±1.6°となった。10m歩行時間は32.3秒,28.5秒,21.3秒となった。TUGは40.4秒,34.5秒,24.6秒,連続歩行距離は20m,27m,40mとなった。NRSは3,3,0となり,B期開始後には「腰の痛みやだるさを感じなくなった」といった内省報告が得られた。
【考察】
A期に比べてB期に,体幹伸展筋力の改善がみられたことから,感覚閾値の電気刺激を運動療法に併用することで,体幹伸展筋の筋力増強効果も得られることが示唆された。また体幹伸展筋の筋力が増強したことが,立位や歩行能力に影響した可能性があり,併用治療の受け入れは良好であった。電気刺激にはパルス幅の長い高頻度の電気刺激を用いた。このような電気刺激は感覚閾値であっても,上位中枢からの下行性入力を増大させ,筋出力を増大させるとされ,今回の筋力増強は中枢性の要因によると考えられる。また疼痛の軽減もみられており,電気刺激により疼痛を軽減した状態で運動療法を行えたことで,その効果を促進できた可能性がある。しかし対象は回復期の患者であり,下肢筋力の向上もみられており,下肢の機能障害の改善が,立位や歩行能力の改善に影響した可能性もある。今後は症例数の蓄積に加えて,椎体骨折や他の疾患を有する患者への実施などにより,電気刺激の効果や適応を明確にしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
感覚閾値の電気刺激は患者負担が少ないが,体幹筋の筋力増強効果をみた研究は少ない。今回,脊柱後弯者の体幹伸展筋に対して,感覚閾値の電気刺激を運動療法に併用したことで,体幹伸展筋力や立位,歩行能力の向上がみられたことから,新たな理学療法の一手段となる可能性がある。