第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述60

神経・筋機能制御1

2015年6月6日(土) 12:30 〜 13:20 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:久保田雅史(福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0452] 電気刺激を用いたエルゴメータ運動は有酸素運動能と無酸素運動能に影響を及ぼすか

工藤芽衣, 河村奈苗, 池田真理, 高野吉朗 (国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科)

キーワード:エルゴメータ, 電気刺激, 有酸素運動効果及び無酸素運動効果

【はじめに,目的】エルゴメータを用いたペダリング運動(以下:エルゴ運動)は,その簡便性から臨床現場で広く用いられている。一般的にエルゴ運動は有酸素運動に効果があると考えられているが,高負荷でのエルゴ運動は無酸素運動効果による筋力向上として有効であると報告されている。運動療法の一つである電気刺激療法は筋力向上運動として広く用いられている。今回私たちは,エルゴ運動に電気刺激療法を組み合わせた新しい運動方法を開発した。本研究の目的は,開発したエルゴ運動が無酸素運動効果として筋力向上及び有酸素運動効果として最大酸素摂取量向上の両方に影響を及ぼすのかを明らかにすることである。
【方法】対象者は健常成人男性18名(平均年齢21.22±1.00歳)で,電気刺激を用いてエルゴ運動を行う群(ES群)8名とエルゴ運動のみ行う群(CONT群)10名に分けた。ES群は,エルゴ運動中に両下肢の大腿四頭筋とハムストリングスに交互に電気刺激を印加させた。介入期間は1回約30分間を週3回6週間(計18回)行った。評価は,筋力効果を確認する為に超音波を用いた大腿直筋の筋厚評価とBIODEXを用いた膝関節屈曲伸展筋力(60,120deg/sec)および有酸素能力向上を確認する為に,呼気ガス装置を用いて最大酸素摂取量を測定した。介入前後に検査を行い,対応のあるt検定を用いて運動効果を確認した。
【結果】①筋力および筋厚結果
筋力は,ES群で60deg/sec伸展最大トルク/体重(改善率15%,P=0.031),総仕事量(改善率19%,P=0.034),平均筋パワー(改善率25%,P=0.004),60deg/sec屈曲平均筋パワー(改善率21%,P=0.028),120deg/sec屈曲総仕事量(改善率21%,P=0.037),平均筋パワー(改善率16%,P=0.028)であった。CONT群は60deg/sec伸展で平均筋パワー(改善率19%,P=0.005),60deg/sec屈曲最大トルク/体重(改善率22%,P=0.02),平均筋パワー(改善率24%,P=0.001),120deg/sec屈曲平均筋パワー(改善率25%,P=0.002)であった。筋厚は,ES群で(改善率17%,P=0.02),CONT群では(改善率9%,P=0.02)であった。
②最大酸素摂取量結果
ES群は最大酸素摂取量で(改善率28%,P=0.008)でCONT群では改善は認められなかった。
【考察】
本研究の結果からES群及びCONT群ともにエルゴ運動は筋力向上及び最大酸素摂取量向上に改善が見られ,部分的ではあるがES群の改善がCONT群を上回った。
①無酸素運動効果について
エルゴ運動は,高負荷で行うことにより筋力トレーニングとして用いることができると報告されている。今回用いたエルゴ運動は,拮抗筋に電気刺激を加え,運動抵抗を自らの身体に作り出すことで,運動負荷が加わる為,従来のエルゴ運動より強い抵抗運動効果に変わる。その運動様式は,筋が伸張される際に,電気刺激されることで,強い筋収縮力を発生する電気刺激遠心性収縮が,大腿前後面筋に生じることで,筋力向上が期待される。この理由により本研究の結果,CONT群に比べES群で有意な筋力向上がみられたと考える。岩下(2004)らは,大腿直筋は膝伸展運動に加え股関節屈曲運動にも2関節筋として関与する為に,筋活動量が高いと述べており,本研究結果でも膝伸展角速度に有意な改善がみられた。またこの結果に付随して平均筋パワーや総仕事量においてもCONT群の改善を上回る結果となったと推察される。
②有酸素運動効果について
一般的にエルゴ運動は持久力のトレーニングとして用いられており,最大酸素摂取量などを改善する効果が報告されている。今回の研究でも,ES群,CONT群共に最大酸素摂取量が改善し,心肺機能向上が認められた。この理由はエルゴ運動による活動性増加により,骨格筋の酸素利用能の増加に関する形態的及び機能的変化が発生した為であると考えられる。無酸素運動の結果同様に,ES群は抵抗運動効果が強かった為に運動強度が上がり,CONT群の改善を上回る結果となったと推察される。本研究は,無酸素運動と有酸素運動効果を兼ね合わせた運動法で,従来のエルゴ運動より有効的であることが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
有酸素運動効果があるエルゴ運動に無酸素運動効果がある電気刺激を組み合わせることで,今後より効率的なリハビリテーションを行うことができる可能性があると考える。