第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述9

転倒予防

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 第5会場 (ホールB5)

座長:小松泰喜(東京工科大学 医療保健学部), 隈元庸夫(埼玉県立大学 保健医療福祉学部)

[O-0463] パーキンソン病を既往に持つ超高齢大腿骨大転子骨折患者に対する部分免荷装置を用いた床上歩行練習の効果

シングルケースデザインによる検討

松本浩希, 西口基比古, 曽根正枝, 湊哲至, 木本真史 (彩都リハビリテーション病院リハビリテーション部)

キーワード:部分免荷装置, 床上歩行練習, 超高齢者

【はじめに,目的】
部分免荷装置を用いたトレッドミル歩行練習(Body weight-supported treadmill training:以下BWSTT)は,歩行速度や歩幅の改善に有効であることが報告されている。しかし,BWSTTは患者自身のペースで歩けない,日常的に使用する歩行補助具が使用できないといった不利な点があり,特に高齢者において受け入れが悪いケースを経験する。これらの不利な点を補うものとして,部分免荷装置を用いた床上歩行練習(Body weight-supported overground training:以下BWSOT)が先行研究で紹介されている。しかし,BWSOTの訓練効果について検討されているものは少ない。
今回,パーキンソン病を既往に持つ超高齢大腿骨大転子骨折患者に対するBWSOTの効果について検討することを目的とした。
【方法】
症例は91歳,女性である。現病歴は,施設入所中に転倒し受傷,右大腿骨大転子骨折と診断を受けた。受傷6日後に観血的骨接合術を施行し,術後24日目に当院へ転院した。既往歴に,パーキンソン病を認めた。パーキンソン病の罹患歴は3年であり,Yahr分類はIIで投薬コントロールをしていた。認知機能はHDS-Rで25点であった。
本症例に対し,術後53日目から経過を追った。研究デザインは単一症例でのABABデザインとし,標準的理学療法介入期間をA期,BWSOT介入追加期間をB期とした。介入期間はA期,B期とも10日間とした。標準的理学療法としては,関節可動域運動,筋力増強運動,バランス運動,術側荷重練習,歩行練習,日常生活動作練習を行った。BWSOTの介入は16回/10日,20分/回の頻度で実施した。
免荷率の設定は,先行研究に準じ,体重の30%以下の免荷量で歩容が最も良好になるように設定した。また,口頭指示は「足を大きく出して下さい」に統一した。練習内容として,平行棒内歩行練習,独歩練習,シルバーカー歩行練習を行った。評価項目は,Unified Parkinoson’s Disease Rating Scale(以下,UPDRS),Functional Ambulation Category(以下,FAC),疼痛(VAS),両膝伸展筋力,10m歩行最大速度,歩幅,術側静止立位荷重率,術側最大荷重率,バランス評価はFunctional Balance Scale(以下,FBS)に準じた,椅子座位からの立ち上がり,立位保持,閉眼での立位保持,両足を一緒に揃えた立位保持の4項目を調査した。10m歩行テストは,シルバーカーを使用した。機能評価は全て午前中に実施した。
【結果】
各項目の評価結果を,初期評価時,A期終了時,B期終了時,第2A期終了時,第2B期終了時と経時的に記載する。UPDRSは24,24,22,21,21,膝伸展筋力(右kgf/左kgf)は,9.6/10.6,9.8/11.5,9.9/13.5,10.6/14.5,12.6/15.1,10m歩行最大速度(秒)は,21.2,21.3,15.6,15.1,13.9,歩幅(cm)は,21.3,20.4,26.3,26.3,27.8,FBSの4項目合計点は,5,10,12,13,13,術側静止立位荷重率(%)は,39.6,35.4,48.4,44.2,47.8,術側最大荷重率(%)は,52.1,62.5,72.6,71.1,73.1であった。FACは期間を通して3であり,VASは初期評価時のみ8mmでその他の評価時に疼痛は認めなかった。
【考察】
本症例において,BWSOTにより改善が得られたと推測される評価項目は,10m歩行最大速度,歩幅,術側静止立位荷重率,術側最大荷重率であった。これらの評価項目に,改善を得られたのは,免荷装置を用いることで垂直方向への抗重力的力を必要とせず,体幹を垂直位に保った良好なアライメントで左右対称な歩行練習を促せたことが理由ではないかと推測した。このことが,荷重率の対称化,術側最大荷重率の増加,歩幅の改善,歩行スピードの改善に繋がった可能性がある。
歩幅の改善,歩行スピードの改善については,先行研究と同様の結果となった。荷重率については,第2A期終了時において,術側静止立位荷重率,術側最大荷重率は減少し,重心が非術側へ偏位する傾向を認めた。これは,筋力に左右差があったため非術側を優位に使用し生活していたことが影響した可能性がある。
先行研究では,練習期間が4週間程度と長期である報告が多いが,本症例は10日間と短かった。しかし,BWSOTの練習量としては先行研究と比し同等以上確保できたことが練習効果として得られたのではないかと推測した。
今回,BWSOTは超高齢者においても運動機能に特異的な改善をもたらす可能性が示唆された。今後は,対象者を増やし,比較対象群を設けての効果判定を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果は歩行練習方法を選択する上で,一つの方法としてBWSOTが有効な介入手段となる可能性を示唆した。有効な歩行練習方法が提示されることは臨床において有用であると思われる。