[O-0465] 変形性膝関節症患者における昇段動作の滑らかさについての運動学的・運動力学的検討
キーワード:変形性膝関節症, 段差, 動作分析
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)患者において階段昇降動作は特に障害されやすい動作であり,手術適応となるほど重症でない患者であっても制限を来すことが多い。しかし,膝OA患者における昇段動作のパフォーマンスを運動学的・運動力学的に検討した研究は殆ど行われていない。臨床場面において評価される昇段動作の巧拙に関する尺度の1つに,動作の滑らかさが挙げられる。従来,物体の運動の滑らかさを表す指標として躍度が用いられており,この躍度を用いることで動作中の身体運動の滑らかさを定量化できるとされるが,これまでに昇段動作の滑らかさを定量的に評価した研究は行われていない。本研究の目的は,膝OA患者における昇段動作の巧拙を,躍度を用いた動作の滑らかさから定量的に評価し,さらに滑らかな昇段動作を特徴づける動作様式を運動学的,運動力学的に検討することである。
【方法】
対象は地域在住の内側型変形性膝関節症患者21名(全て女性,年齢64.8±7.8歳,身長154.9±3.4cm,体重59.7±6.6kg)とした。課題動作は20cm段への昇段動作とし,患側からの昇段を快適速度にて3回計測した。なお,両側性の膝OA患者の場合,より痛みの強い方を測定下肢とした。測定には三次元動作解析装置(Vicon社製,サンプリング周波数200Hz)及び床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用し,対象者の全身31箇所に反射マーカーを貼付した。Vicon Bodybuilderを使用し,対象者の身体重心(以下,CoM)及び矢状面における下肢各関節の関節角度,内的関節モーメント,関節パワーを算出した。解析区間は段上にて測定下肢への荷重を開始した時点から単脚立脚期においてCoMの高さが最大となった時点とし,この区間におけるCoMの上下方向及び前後方向への変位を3階微分し躍度を算出した。上下,前後方向への躍度の和と動作時間及びCoMの軌跡長からNormalized Jerk Index(以下,NJI)を算出した。NJIは動作の滑らかさを示す指標として用いられ,値が小さい程運動を滑らかに行えていることを示す。動作の滑らかさと変形の程度や症状の関連を調べるため,NJIと診断時のX線画像より計測したFemorotibial Angle(以下,FTA)の関連及びVisual Analog scale(以下,VAS)を用いた疼痛の程度との関連をspearmannの順位相関係数にて検討した。さらに,NJIと下肢関節の運動との関連を調べるため,患側股,膝,足関節の荷重開始時点の角度と荷重後の屈曲方向への角度変化量,動作中の内的伸展モーメントの最大値,及び正の仕事量とNJIの関連をそれぞれ同様に検討した。有意水準は5%とした。
【結果】
変形及び疼痛の程度とNJIの関連を検討した結果,FTA(r=0.69),VAS(r=0.48)とも有意な正の相関が見られた。運動学的変数との関連の検討の結果,荷重開始時点での膝関節屈曲角度(r=-0.50)と足関節背屈角度(r=-0.47)とNJIの間に負の相関が認められた。また,膝関節(r=0.52)と足関節(r=0.51)の屈曲角度変化量とNJIの間には正の相関が見られた。運動力学的変数との関連では,足関節の正の仕事量とNJIの間に有意な負の相関が示された(r=-0.44)。他の運動学的,運動力学的変数とNJIの間に有意な相関は見られなかった。
【考察】
一般的に膝関節の変形が重度であり,疼痛の強い患者程,昇段動作を円滑に遂行することが困難となると考えられており,躍度を用いた検討の結果はそれに即するものであった。また,滑らかな昇段動作を行うためには膝関節や足関節を十分に屈曲させた肢位で荷重を開始し,荷重開始後,身体が前上方へ移動する区間においては,関節を屈曲させずに伸展方向へ運動させることが必要であると考えられた。さらに,足関節の正の仕事が大きい程,運動は滑らかに行えていることが示されたことから,膝OA患者の昇段動作においては膝関節だけでなく足関節の運動にも着目する必要があり,足関節底屈方向の運動量あるいは力の発揮を大きくすることで,動作を滑らかに行うことができると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
昇段動作は膝OA患者において特に障害されやすい日常生活活動動作であり,また動作が拙劣となることで転倒リスクを増加させる可能性がある。本研究結果は,昇段動作の滑らかさを定量的に評価し,さらに滑らかな動作を行うために必要な動作特性を示唆するものであり,膝OA患者に対する動作能力向上のための有用な知見となると考えられる。
変形性膝関節症(以下,膝OA)患者において階段昇降動作は特に障害されやすい動作であり,手術適応となるほど重症でない患者であっても制限を来すことが多い。しかし,膝OA患者における昇段動作のパフォーマンスを運動学的・運動力学的に検討した研究は殆ど行われていない。臨床場面において評価される昇段動作の巧拙に関する尺度の1つに,動作の滑らかさが挙げられる。従来,物体の運動の滑らかさを表す指標として躍度が用いられており,この躍度を用いることで動作中の身体運動の滑らかさを定量化できるとされるが,これまでに昇段動作の滑らかさを定量的に評価した研究は行われていない。本研究の目的は,膝OA患者における昇段動作の巧拙を,躍度を用いた動作の滑らかさから定量的に評価し,さらに滑らかな昇段動作を特徴づける動作様式を運動学的,運動力学的に検討することである。
【方法】
対象は地域在住の内側型変形性膝関節症患者21名(全て女性,年齢64.8±7.8歳,身長154.9±3.4cm,体重59.7±6.6kg)とした。課題動作は20cm段への昇段動作とし,患側からの昇段を快適速度にて3回計測した。なお,両側性の膝OA患者の場合,より痛みの強い方を測定下肢とした。測定には三次元動作解析装置(Vicon社製,サンプリング周波数200Hz)及び床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用し,対象者の全身31箇所に反射マーカーを貼付した。Vicon Bodybuilderを使用し,対象者の身体重心(以下,CoM)及び矢状面における下肢各関節の関節角度,内的関節モーメント,関節パワーを算出した。解析区間は段上にて測定下肢への荷重を開始した時点から単脚立脚期においてCoMの高さが最大となった時点とし,この区間におけるCoMの上下方向及び前後方向への変位を3階微分し躍度を算出した。上下,前後方向への躍度の和と動作時間及びCoMの軌跡長からNormalized Jerk Index(以下,NJI)を算出した。NJIは動作の滑らかさを示す指標として用いられ,値が小さい程運動を滑らかに行えていることを示す。動作の滑らかさと変形の程度や症状の関連を調べるため,NJIと診断時のX線画像より計測したFemorotibial Angle(以下,FTA)の関連及びVisual Analog scale(以下,VAS)を用いた疼痛の程度との関連をspearmannの順位相関係数にて検討した。さらに,NJIと下肢関節の運動との関連を調べるため,患側股,膝,足関節の荷重開始時点の角度と荷重後の屈曲方向への角度変化量,動作中の内的伸展モーメントの最大値,及び正の仕事量とNJIの関連をそれぞれ同様に検討した。有意水準は5%とした。
【結果】
変形及び疼痛の程度とNJIの関連を検討した結果,FTA(r=0.69),VAS(r=0.48)とも有意な正の相関が見られた。運動学的変数との関連の検討の結果,荷重開始時点での膝関節屈曲角度(r=-0.50)と足関節背屈角度(r=-0.47)とNJIの間に負の相関が認められた。また,膝関節(r=0.52)と足関節(r=0.51)の屈曲角度変化量とNJIの間には正の相関が見られた。運動力学的変数との関連では,足関節の正の仕事量とNJIの間に有意な負の相関が示された(r=-0.44)。他の運動学的,運動力学的変数とNJIの間に有意な相関は見られなかった。
【考察】
一般的に膝関節の変形が重度であり,疼痛の強い患者程,昇段動作を円滑に遂行することが困難となると考えられており,躍度を用いた検討の結果はそれに即するものであった。また,滑らかな昇段動作を行うためには膝関節や足関節を十分に屈曲させた肢位で荷重を開始し,荷重開始後,身体が前上方へ移動する区間においては,関節を屈曲させずに伸展方向へ運動させることが必要であると考えられた。さらに,足関節の正の仕事が大きい程,運動は滑らかに行えていることが示されたことから,膝OA患者の昇段動作においては膝関節だけでなく足関節の運動にも着目する必要があり,足関節底屈方向の運動量あるいは力の発揮を大きくすることで,動作を滑らかに行うことができると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
昇段動作は膝OA患者において特に障害されやすい日常生活活動動作であり,また動作が拙劣となることで転倒リスクを増加させる可能性がある。本研究結果は,昇段動作の滑らかさを定量的に評価し,さらに滑らかな動作を行うために必要な動作特性を示唆するものであり,膝OA患者に対する動作能力向上のための有用な知見となると考えられる。