第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述63

循環1

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:櫻田弘治(群馬県立小児医療センター リハビリテーション課), 井澤和大(神戸大学大学院 保健学研究科)

[O-0480] エポプロステノール持続静注療法中の肺高血圧症患者における下肢痛の実際とそれに関連する因子についての検討

安藤可織1, 西崎真里1, 竹原典子1, 下岡久美香1, 相本晃一1, 廣川晴美1, 松原広己2 (1.独立行政法人国立病院機構岡山医療センターリハビリテーション科, 2.独立行政法人国立病院機構岡山医療センター循環器科)

キーワード:肺高血圧症, エポプロステノール, 下肢痛

【はじめに,目的】

肺高血圧症は肺動脈圧や肺血管抵抗の上昇による右心不全のため,従来,予後不良の疾患であったが,1999年エポプロステノール(PGI2)が導入されるようになり予後は改善してきている。一方で,PGI2の副作用の一つに下肢痛があり,活動量の低下を引き起こしている可能性がある。これは,起立または歩行労作時の足底から下腿にかけて疼痛が出現するものであり,その要因は明らかでない。そこで,PGI2持続静注療法中の肺高血圧症患者における下肢痛を評価し,下肢痛に影響を与える因子について検討した。

【方法】

対象は当院でPGI2持続静注療法治療により循環動態が安定した肺動脈性肺高血圧症患者32例である。女性24例,平均年齢32.9±9.4歳,治療前の平均肺動脈圧(mPA)64.9±19.3mmHg,心係数2.4±0.8L/min/m2,BNP 200.4±208.2pg/ml。下肢痛については出現の有無,出現するまでの時間を問診にて聴取し,強度(Visual Analog Scale:VAS)を評価した。また,下肢痛に与える因子として薬剤のPGI2投与量と投与期間,mPA,心係数,BNPの循環動態,6分間歩行試験の歩行距離による運動耐容能,ハンドダイナモメータ機器を用いて大腿四頭筋力と,立位姿勢での片脚連続踵挙げ回数を用いて下腿三頭筋力による下肢筋力を評価した。活動量はオムロン社のHJA-350ITを使用し,1日の歩数と身体活動強度3METs以上の歩行や生活動作を行ったときのEx総数及び,その内の歩行労作であるEx歩行を評価した。
統計処理は,下肢痛が出現するまでの時間が30分未満である患者群を30分未満群と30分以上である患者群を30分以上群,下肢痛を伴わない患者群を出現なし群に分類した。そして,3群で評価項目のそれぞれを一元配置分散分析,下位検定に多重比較検定を用い,比較した。全ての統計学的解析はSPSS(Inc IL,USA)を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】

下肢痛が出現するまでの時間が30分未満群は10例で強度VAS 7.5±2.1,mPA 33.0±12.6mmHg,PGI2 92.8±47.1ng/kg/min,30分以上群は16例で強度VAS 5.2±1.8,mPA 38.0±18.7mmHg,PGI2 81.8±37.5ng/kg/min,出現なし群は6例でmPA 30.1±11.9mmHg,PGI2 54.8±29.8 ng/kg/minであった。
運動耐容能は30分未満群,30分以上群,出現なし群のそれぞれ,385.0±59.5,427.0±61.3,545.0±97.9m,大腿四頭筋力は0.31±0.06,0.36±0.09,0.47±0.12kgf/Kg,下腿三頭筋力は14.8±5.5,18.5±3.5,20.0±0回と出現なし群においていずれも有意に高値であった(p<0.05)。また1日の歩数はそれぞれ2146.9±1128.1,4173.4±1912.4,5488.4±2358.8歩,Ex総数は0.78±0.5,1.68±1.0,2.7±1.8Ex,Ex歩行は0.24±0.2,1.01±0.8,1.5±1.3Exと出現なし群において有意に高値であり(p<0.05),活動量が少ない患者であるほど下肢痛が出現するまでの時間は短い傾向にあった。なお,循環動態やPGI2量,PGI2投与期間との間に有意な差は認めなかった。
【考察】

本研究の結果では,下肢痛には活動量や運動耐容能,下肢筋力が影響していた。現在,PGI2持続静注療法中の肺高血圧症患者において下肢痛が出現する機序については究明されていない。本研究で活動量や下肢筋力と下肢痛の関連が示唆されたことから,考えられる要因の一つに,下肢のうっ血がある。PGI2は,肺血管だけでなく体血管も拡張すると言われている。そのため,末梢骨格筋のポンプ作用が低下している患者においては起立や歩行労作で足底から下腿にかけてうっ血しやすく,下肢痛が容易に出現すると考える。また,この下肢痛の影響は,活動量や下肢筋力の更なる低下を引き起こし,これにより下肢痛が出現しやすくなるといった悪循環を生んでいる。下肢痛の改善には活動負荷量の増量,下肢筋力や運動耐容能の改善が必要である。しかし,負荷量の設定には十分な配慮をしていかなければならない。肺動脈圧が治療により正常化に至っていない肺高血圧症患者では活動量の増量により,病態を悪化させる危険性がある。そのため,肺高血圧症患者の重症度に応じて個々に指導を行っていく必要がある。

【理学療法学研究としての意義】

PGI2持続静注療法中の肺高血圧症患者における下肢痛に関連する因子を把握することは,適切な活動負荷量を指導することができ,下肢痛の軽減に繋がる可能性がある。それに伴い,活動量が増量し,運動耐容能や下肢筋力の改善及び,ADLやQOLの改善にも繋がると考える。