第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述64

地域理学療法5

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:井口茂(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻)

[O-0487] 通所リハビリテーション施設に従事する医療・介護職員と高齢者人口の地理的分布

太箸俊宏1,2, 小林廉毅1, 石垣栄司2 (1.東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野, 2.臨床福祉専門学校)

キーワード:通所リハビリテーション, 地域格差, 高齢者

【はじめに,目的】
本邦では,長期に渡ってリハビリテーションが必要な患者に対するリハビリテーション提供体制の一つとして,通所リハビリテーション施設が重要な役割を有している。本施設は介護予防事業の拠点ともなっており,今後さらに増加する高齢者の健康維持,増進を促進するうえでも重要であると考える。
本施設は介護保険制度のもと多くの市区町村に設置されているが,これまで高齢者人口と介護サービス提供体制との関係についての研究はほとんど行われていない。
そこで,本研究は通所リハビリテーション施設に従事する医療・介護職員の1週間あたりの勤務時間を各市区町村,職種ごとに調査し,高齢者人口の地理的分布との一致,および地域格差について明らかにすることを目的とした。
【方法】
通所リハビリテーション施設に従事する医療・介護職員について,厚生労働省が公開している介護サービス情報公表システム「介護事業所検索」を利用し,2014年6月から9月にかけてホームページ上で公開されていた全ての通所リハビリテーション施設の「事業所の詳細」の「従業者」の項目から,医師,理学療法士,作業療法士,看護職員,介護職員の「常勤換算人数」および「1週間のうち,常勤の従業者が勤務すべき時間数」の情報を得た。そして,施設ごとに「常勤換算人数」と「1週間のうち,常勤の従業者が勤務すべき時間数」を掛け,各施設における各職種の「1週間あたりの勤務時間」を算出した。次に,市区町村ごとに各職種の「1週間あたりの勤務時間」を合計し,市区町村ごとの各職種の「総勤務時間」を算出した。
高齢者人口は,総務省が公開している平成25年3月31日住民基本台帳年齢別人口(市区町村別)を利用した。本表で報告されている65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上の4項目を市区町村ごとに合計し,各市区町村の65歳以上人口を算出した。
各市区町村における通所リハビリテーション施設に従事する医療・介護職員の総勤務時間と高齢者人口の地理的分布の一致を明らかにするため,職種ごとに高齢者人口との散布図を作成し,相関係数を算出した。また,地域格差を明らかにするため,市区町村を単位として高齢者人口に対する各職種の総勤務時間について,職種ごとにロレンツ曲線を作成しジニ係数を算出した。なお,解析にはStata/SE13.1を用いた。
【結果】
1週間あたりに全国の通所リハビリテーション施設で勤務する医師の総勤務時間は195161.5時間,同様に理学療法士353302.6時間,作業療法士183883.8時間,看護職員299801.0時間,介護職員1893666.0時間であった。高齢者人口10万人あたりでは医師63.02時間,理学療法士114.09時間,作業療法士59.38時間,看護職員96.81時間,介護職員611.50時間であった。
各市区町村における高齢者人口と医師の総勤務時間の相関係数は0.780(p<0.01),同様に理学療法士は0.771(p<0.01),作業療法士は0.750(p<0.01),看護職員は0.683(p<0.01),介護職員は0.807(p<0.01)であった。
市区町村を単位としたときの医師の総勤務時間のジニ係数は0.38,同様に理学療法士は0.39,作業療法士は0.43,看護職員は0.45,介護職員は0.34であった。
【考察】
通所リハビリテーション施設で勤務する医師,理学療法士,作業療法士,看護職員,介護職員と高齢者人口には強い相関がみられた。しかしながら,ジニ係数でみた場合は0.34から0.45と比較的大きな数字となっていた。ジニ係数は0から1の間の数字をとり,0に近づくほど格差が小さく,1に近づくほど格差が大きいと言われている。Izutsuらによると,2次医療圏を単位とした場合の2010年における病院や介護保険施設などに勤務する看護師数のジニ係数は0.155である。解析の単位が異なるため直接比較することはできないが,今回の結果は全ての職種において2次医療圏単位の看護師数のジニ係数と比較して大きな数字となっており,地域格差が大きいことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
障害者に対する継続的なリハビリテーション提供体制や,高齢者の健康増進を図るサービスの提供体制を整備することは,国民のQOL向上のため重要である。本研究は,通所リハビリテーション施設を介したサービス提供体制の地域格差を明らかにするものであり,各種サービス提供体制の整備を進める際に有益である。