第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述70

スポーツ・評価

2015年6月6日(土) 15:00 〜 16:00 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:小尾伸二(山梨大学医学部附属病院 リハビリテーション部), 竹村雅裕(筑波大学体育系)

[O-0530] Half sittingを用いた体幹前傾運動とスクワットの運動力学的特性の比較

三次元動作解析装置と筋電計を用いた分析

多田周平1, 木村佳記1, 向井公一2, 里田由美子3, 近藤さや花3, 中江徳彦4, 小柳磨毅5 (1.大阪大学医学部附属病院, 2.四條畷学園大学, 3.豊中渡辺病院, 4.東豊中渡辺病院, 5.大阪電気通信大学)

キーワード:Half sitting, 閉鎖性運動連鎖, 動作解析

【はじめに,目的】
膝半月板損傷や膝軟骨損傷の修復術後は免荷が長期に渡る。スクワットのような荷重位での屈伸運動は2~3ヶ月間制限される症例も多く,大腿四頭筋をはじめとする下肢筋の萎縮が進行する。また,荷重位のトレーニングが許可されても,膝関節への力学的負荷を最低限に抑えながら筋には高負荷を与える必要がある。そこで我々は,片側の殿部を着座した姿勢(half sitting)を用いて,膝関節を屈伸させずに体幹を前傾する運動により下肢筋に負荷を与える方法(以下,HS)を考案した。先行研究においてHSとスクワットを比較し,HSは内反モーメントが有意に低値であり,内側広筋の活動は差がないことを報告した。しかし,両課題の膝屈曲角度が異なっていたため,これを同一に規定した分析が課題であった。そこで本研究の目的は,膝屈曲角度を同一に規定したHSとスクワットの運動力学的特性を比較分析し,HSの有用性を明らかにすることとした。
【方法】
健常成人10名を対象とした。運動課題はhalf sittingで体幹正中位から前傾させて静止し,体幹正中位に戻る課題(HS群)と,静止立位から下降してスクワット姿勢で静止し,立位に戻る課題(S群)を実施した。両課題ともに膝屈曲角度は70度とし,荷重量はHS群の前脚およびスクワットの両脚へそれぞれ体重の50%とした。運動速度はメトロノーム(66bpm)に合わせて4拍でHS群の体幹前傾とS群の下降を行い,4拍静止し,4拍で開始肢位に戻るよう指示した。運動計測には三次元動作解析装置(Vicon Nexus),床反力計(AMTI OR6),表面筋電計(Myosystem)を用いた。解析は下肢の関節角度,床反力,関節モーメントを算出した。関節モーメントは,動作の一周期における最大値と積分値を算出した。各筋の活動電位は動作の一周期中の平均振幅を算出し,随意最大等尺性収縮時の活動電位(MVC)に対する割合(%MVC)を算出した。両課題の各データの比較には,Wilcoxonの符号付順位和検定を有意水準5%未満として用いた。
【結果】
股関節の屈曲角度(HS群:71.7±9.4度,S群:44.0±13.6度),伸展モーメントの最大値(HS群:0.63±0.31Nm/kg,S群:0.24±0.16Nm/kg)および積分値(HS群:1.87±1.05Nms/kg,S群:0.08±0.34Nms/kg)はHS群が有意に高値を示した。膝関節伸展モーメントの最大値はS群が有意に高値を示したが,一方で積分値(HS群:1.32±0.55Nms/kg,S群:0.87±0.22Nms/kg)はHS群が有意に高値を示した。また,膝関節内反モーメントの最大値(HS群:0.13±0.09Nm/kg,S群:0.29±0.19Nm/kg)はHS群が有意に低値を示した。床反力は,後方成分(HS群:50.8±13.8N,S群:10.7±10.9N)はHS群,内方成分(HS群:12.1±7.2N,S群:52.8±35.8N)はS群が有意に高値を示した。筋活動は,内側広筋(HS群:42±22%MVC,S群:34±35%MVC),外側広筋(HS群:47±35%MVC,S群:23±17%MVC),半腱様筋(HS群:10±8%MVC,S群:3±1%MVC)においてHS群が有意に高値を示した。
【考察】
HS群は,体幹前傾(股関節屈曲)運動のみを行うため,前脚の股関節には体幹が前傾する外部モーメントが作用する。加えて,股関節屈曲運動はスクワットより大きく,この制動に股関節伸展モーメントの最大値と積分値が高まり,半腱様筋の活動も高まったと考えられた。また,HS群は膝関節運動が抑制され中間位に保持されやすいため,膝関節内反モーメントが低値であったと考えられた。膝関節伸展モーメントの積分値はHS群が有意に高値を示した。これは,HSは重心の前方移動を制動するため前脚で床面を前方に押して床反力後方成分を高めるために,持続的に膝関節の伸展モーメントを発揮して膝伸展筋の仕事量が高まった結果,内側広筋と外側広筋の活動も高まったと考えられた。膝関節伸展モーメントの最大値は低値であったが,S群に比べて膝関節面に短時間で大きな力学的負荷が加わらず安全と考えられる。以上のことから,HS群はS群に比較して膝関節の内反および伸展モーメントの最大値が小さく,膝関節への力学的負荷を低減しながら広筋群と半腱様筋には高負荷を与えることが示唆された。このため,HSは膝半月板や軟骨損傷の修復術後の荷重下トレーニング導入時期において,スクワットより安全かつ効果的に用いることができると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
HSは殿部を着座した姿勢でありながら,膝関節への力学的負荷は小さく,膝周囲筋への負荷は大きいことが示唆された。このことは膝関節のスポーツ傷害術後のリハビリテーションのみならず,変形性膝関節症を有する症例をはじめ,高齢者にも適応可能なトレーニングとして高い汎用性が期待される。