第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述73

予防理学療法6

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:柴喜崇(北里大学医療衛生学部)

[O-0551] 地域ケア会議と通所・訪問型介入を用いた介護予防強化推進事業の効果

徳久謙太郎, 鶴田佳世, 中村潤二, 小嶌康介, 林佑樹, 岡本昌幸, 菅野ひとみ, 尾川達也 (西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部)

キーワード:介護予防, 地域ケア会議, 多職種協働

【はじめに,目的】
近年,超高齢化社会を迎える中,地域包括ケアシステムの構築が急務となっている。厚生労働省は地域包括ケアシステムのモデル事業として介護予防強化推進事業を提案し,全国13市町村が参加することになった。この介護予防強化推進事業は,特定高齢者から要介護2の認定を受けた者を対象とし,集中介入期として3月間にわたり通所型と訪問型の介護予防サービスを提供し,手段的日常生活活動を中心とした活動能力を改善,活性化させることにより要介護状態からの脱却や,予防を図る。その後3カ月ごとに移行期,生活期を設け,地域の活動への参加を定着させ,生活機能の低下を予防していく。我々は平成22年10月よりこの事業に療法士として参加し,行政職を含む多職種との協働により,一定の成果を上げることができたのでここに報告する。

【方法】
対象は地域在住の特定高齢者から要介護2の認定を受けた者で,本事業に参加の同意が得られた76名の内,前後評価が可能であった60名(年齢81.1±5.3歳,男性19名・女性41名)である。1クールの参加者は15-6名で,参加者は週2回の通所型運動教室にて集団体操での柔軟性運動,マシンやセラバンドを利用した上下肢の筋力増強運動,ステップ運動によるバランス・持久力運動と,各参加者別に計画された療法士による個別課題練習を含むプログラムを2時間実施した。加えて2-3回の自宅訪問により,屋外歩行練習や日常生活活動指導,自宅環境における自主練習指導,自助具・歩行補助具の選定などを受けた。また1クール内に初期,中間,最終の3回の地域ケア会議において,保健師や運動指導士,地域包括支援センターのケアマネージャー,栄養士等の多職種と協議し,参加者の生活課題や目標などを検討した。帰結指標による評価は開始時と終了時に実施し,機能的指標として片脚立位保持時間,座位体前屈距離,5m最大歩行時間,Timed up & go test(TUG),握力,30秒起立試験(CS30),2分間ステップ試験(2MS)を,手段的日常生活活動の指標としてFrenchay Activities Index(FAI)を測定した。統計解析は正規性の有無により対応のあるt検定またはウィルコクソンの符号付順位和検定を用いた。有意水準は5%とした。

【結果】
開始時と終了時の評価を比較すると,片脚立位保持時間は18.7±20.6から24.6±23.5秒(p=0.002),座位体前屈距離は19.4±8.6から20.5±8.3cm(p=0.052),5m最大歩行時間は3.8±1.0から3.4±0.7秒(p<0.001),TUGは8.7±1.8から8.0±1.6秒(p<0.001),握力は20.3±6.1から21.2±6.1kgf(p=0.019),CS30は12.8±3.6から14.7±3.3回(p<0.001),2MSは54.5±22.7から58.5±22.0回(p<0.001),FAIは22.6±8.5から25.7±8.4点(p<0.001)へと変化し,座位体前屈距離以外は有意な改善を示した。またFAIの項目別では,男性は掃除整頓,外出,力仕事,女性は外出,屋外歩行,庭仕事,交通機関の利用の順で増加した者が多かった。

【考察】
参加者は3カ月の集中介入により身体機能面,活動面において改善がみられた。FAIでは性別により改善した項目が異なったが,主に屋外での活動の機会が増える傾向がみられた。この事業では行政の保健師とケアマネージャーを中心に各参加者の生活課題や問題点が詳細に評価され,その情報を基に地域ケア会議において各分野の専門家による検討が行われたため,より個別かつ正確な課題や問題の解決策を立案することができたと考える。また,機能面だけではなく,手段的日常生活活動や社会参加に着目することにより,集中介入期終了後の地域活動やボランティアへの参加を促し,継続した活動性を確保することができた。理学療法士は通所・訪問・地域ケア会議の中で,疾患・障害の知識を基盤とした心身機能・活動性の改善や,その能力を最大限生かした自立支援の方策を提案・実施する役割を果たした。

【理学療法学研究としての意義】
本事業による成果や参加経験は地域包括ケアシステムの構築に資するものであり,地域における多職種協働において理学療法士がどのような役割を果たすべきかを検討する素材となると考える。