第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述75

スポーツ・足関節・足部

2015年6月6日(土) 16:10 〜 17:10 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:伊藤浩充(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部), 舌正史(社会保険京都病院 リハビリテーション部)

[O-0564] 動作の特異性が筋収縮時のアキレス腱の伸張量に及ぼす影響

―ホッピングとカーフレイズの比較―

吉田昌平1, 秋本剛2, 吉川信人1, 和田孝明2, 豊島康直2 (1.京都学際研究所附属がくさい病院運動器スポーツリハビリテーション科, 2.杉の下整形外科クリニック)

キーワード:アキレス腱, 伸長量, ホッピング

【はじめに】過去に我々はホッピングとカーフレイズ前後の安静時のアキレス腱長を測定し,ホッピングの方がカーフレイズよりもアキレス腱長が増大するという結果を得た。これにより,ホッピングにはアキレス腱のストレッチ効果があることが明らかとなったが,実際の動作に関与する筋収縮時のアキレス腱の伸張量の変化は不明であった。
【目的】今回我々は,動作の特異性が異なるホッピングとカーフレイズが筋収縮時のアキレス腱の伸張量に及ぼす影響について検討した。
【方法】対象は成人男性4名8脚とした。ホッピングは一般的には片脚ジャンプを反復して行う動作である。我々は,後から前にジャンプする際に,可能な限り足関節底屈を行わず着地と同時に地面を弾かせることで,下腿三頭筋の等尺性収縮時に,着地の瞬間的な足関節背屈が加わるように指導している。研究に先立ち,このホッピングを十分に練習させ,指示通りに行えていることを確認した。またカーフレイズも片脚にて行わせた。
ホッピング,カーフレイズ前後に,超音波診断装置を用いて踵骨隆起から腓腹筋内側頭の筋腱移行部の距離(アキレス腱長)を測定した。アキレス腱長の測定は安静時と等尺性収縮時の2通り行った。安静時のアキレス腱長は,腹臥位にて足関節底背屈0°で測定した。等尺性収縮時は,同様に足関節底背屈0°で30Nの底屈トルク発揮時に測定した。CYBEX NORMを用いて等尺性収縮時の底屈トルクを測定し,同期したデジタルビデオカメラを用いて腓腹筋内側頭の筋腱移行部の超音波画像を同時に撮影した。底屈トルクが30Nに達した際の腓腹筋筋腱移行部を画像上から測定し,等尺性収縮時のアキレス腱長とした。統計学的処理として,安静時のアキレス腱長と等尺性収縮時のアキレス腱長の差を筋収縮による伸張量として求め,各々の動作前後の伸張量の差を算出し,対応のあるt検定にて比較した。なお危険率5%未満を有意とした。
【結果】ホッピング前の安静時アキレス腱長は188.8±8.3mm,等尺性収縮時は195.8±6.6mmであった。ホッピング後の安静時アキレス腱長は194.6±9.1mm,等尺性収縮時は204.3±7.6mmであった。安静時と等尺性収縮時のアキレス腱長の差(筋収縮による伸張量)はホッピング前7.6±1.9mm,ホッピング後9.7±2.1mmで,その差は2.1±0.1mmであった。カーフレイズ前の安静時アキレス腱長は189.1±9.0mm,等尺性収縮時は196.7±7.6mmであった。カーフレイズ後の安静時アキレス腱長は189.5±8.5mm,等尺性収縮時は197.3±6.3mmであった。筋収縮による伸張量はカーフレイズ前7.6±1.4mm,カーフレイズ後7.8±2.4mmで,その差は0.3±1.5mmであった。ホッピング前後の差とカーフレイズ前後の差を比較すると,ホッピング前後が有意に大きかった(p<0.05)
【考察】我々の先行研究では安静時のアキレス腱長のみを測定したのに対して,本研究では,安静時のアキレス腱長の測定に加え,等尺性収縮時を測定した。安静時と等尺性収縮時のアキレス腱長の変化量を求めることで,筋収縮時のアキレス腱の伸張性を調べることが可能となった。過去の我々の研究と本研究の結果より,ホッピングにはアキレス腱長を増大させる効果と,筋収縮時のアキレス腱の伸張性を向上させる効果があることがわかった。また腱はバネのような弾性特性をもつ組織であると報告されている。弾性体が元に戻ろうとする復元力の大きさは自然長からの伸張量に比例するというフックの法則に当てはまり,バネ定数×腱の伸張量にて弾性力の大きさを推定できる。その際にKubo(2007)のアキレス腱のバネ定数を基にホッピング前後でのパワーを計算すると,ホッピング実施により988Nから1261Nと約1.2倍のパワーを出力できると推定される。したがって,アキレス腱の伸張量の増大は,アキレス腱が生み出す弾性力の向上につながると考える。一方,カーフレイズは腱の伸張性向上の効果が小さかった。これは,カーフレイズが等張性収縮を繰り返す動作で,筋の長さが変化する動作であることに対して,ホッピングが等尺性収縮時に遠位の関節が動き腱の長さを変化させる動作であるためと考えた。したがって,動作の特異性によって筋収縮時の伸張性に違いがあることが明らかとなった。
【理学療法学研究としての意義】ホッピングとカーフレイズという特異性の異なる動作がアキレス腱の伸張性に及ぼす影響を調べた。ホッピングが筋収縮時のアキレス腱の伸張性を向上させる効果を持つことがわかり,今後のリハビリテーションに応用できる可能性がある。