[O-0583] 両側大腿切断者に高機能膝継手を使用して実用歩行を目標とするリハビリテーションの要点(第三報)
キーワード:大腿切断, 膝継手, 実用歩行
【はじめに,目的】
両大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が散見される。その達成のためには要所を押さえた義肢部品の運用と,全体のマネージメントが必須となる。先の報告では二足実用歩行を獲得した症例を報告した。今回は同様に実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする。
【症例】
27歳 男性 交通外傷による両大腿切断。既往歴や合併障害なし。前病院の断端形成術後,義肢装具SC入院《断端長》右23.0cm,左22.0cm《受傷前身長》181cm 《義足装着》シリコーンライナー使用
[初期評価:リハ開始時(特徴的な要素のみ記載)]
《ROM》左股関節伸展0°右股関節伸展0°
《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋4・体幹筋4
《疼痛》左断端末外側に圧痛・荷重時痛 《受傷~義肢装着の期間》約1ヶ月
[最終評価:24W終了時]
《ROM》左股関節伸展5°右股関節屈曲伸展10°
《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋5体幹筋5
《疼痛》同部位に圧痛残存するも,装着時はソケット修正で自制内
[膝継手の変遷]固定膝⇒C-Leg⇒C-LegCompact
【経過と結果】
[開始~12W]
膝継手非使用,または固定膝でリハ施行。スタビー(短義足)による動作習熟が中心。移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う。坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cm毎に長くする。《10m歩行》13.8秒 《12分間歩行》420m
[12W~24W]
C-Leg変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟と反復に重点を置いて訓練継続。杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が16Wで自立。最終では装着時身長が178cm,約2~3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》7.0秒 《12分間歩行》840m
【考察】
両大腿切断のリハは到達目標が頭打ちになることが多い。同障がい者が義足で生活を送るには,多様な路面の攻略が必要だが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる。多くは手摺りを利用出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである。この報告で提案するリハの基軸は「安心感をもたらす膝継手選択で可能になる身体機能向上」と「膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である。いずれも製品の理解が重要でなる。
C-Legは,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(クリアランスの形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる。具体的には1.強力な油圧抵抗が大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位で,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意に膝折れが起きない 3.エネルギー効率の面で優位とする報告があり,持続歩行が過負荷にならない等の特長がある。
今症例では膝継手使用前に,低重心かつ膝折れのない環境で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った。これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作獲得という成功体験に繋がる。効果として,継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となり,装着者に問題意識が芽生え積極性を生む下地になったと分析する。立脚期を考慮すれば固定膝に利点があるが,歩行速度や距離の結果より,高いレベルの目標達成には遊動膝の良好な遊脚期形成が重要となる。高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,良好なアライメント設定が前提になる。その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮した低重心の保持を目的に,低床型足部やキャッチピンを使用しない装着法も有効な選択肢である。(キスシステム,シールインライナー,吸着式)
【理学療法学研究としての意義】
高額製品の制度内支給は決して一般的でない。しかし,両大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,重度切断障害者の自立支援に向けた有効な情報提供になると共に,このような実績の蓄積が制度に則った運用の円滑化を生む契機になることを望む。成功体験を得た両大腿切断者にとって,高機能膝継手は「便利」というレベルに止まらず,人生を通じて「必要不可欠」な製品である。
両大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が散見される。その達成のためには要所を押さえた義肢部品の運用と,全体のマネージメントが必須となる。先の報告では二足実用歩行を獲得した症例を報告した。今回は同様に実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする。
【症例】
27歳 男性 交通外傷による両大腿切断。既往歴や合併障害なし。前病院の断端形成術後,義肢装具SC入院《断端長》右23.0cm,左22.0cm《受傷前身長》181cm 《義足装着》シリコーンライナー使用
[初期評価:リハ開始時(特徴的な要素のみ記載)]
《ROM》左股関節伸展0°右股関節伸展0°
《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋4・体幹筋4
《疼痛》左断端末外側に圧痛・荷重時痛 《受傷~義肢装着の期間》約1ヶ月
[最終評価:24W終了時]
《ROM》左股関節伸展5°右股関節屈曲伸展10°
《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋5体幹筋5
《疼痛》同部位に圧痛残存するも,装着時はソケット修正で自制内
[膝継手の変遷]固定膝⇒C-Leg⇒C-LegCompact
【経過と結果】
[開始~12W]
膝継手非使用,または固定膝でリハ施行。スタビー(短義足)による動作習熟が中心。移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う。坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cm毎に長くする。《10m歩行》13.8秒 《12分間歩行》420m
[12W~24W]
C-Leg変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟と反復に重点を置いて訓練継続。杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が16Wで自立。最終では装着時身長が178cm,約2~3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》7.0秒 《12分間歩行》840m
【考察】
両大腿切断のリハは到達目標が頭打ちになることが多い。同障がい者が義足で生活を送るには,多様な路面の攻略が必要だが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる。多くは手摺りを利用出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである。この報告で提案するリハの基軸は「安心感をもたらす膝継手選択で可能になる身体機能向上」と「膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である。いずれも製品の理解が重要でなる。
C-Legは,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(クリアランスの形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる。具体的には1.強力な油圧抵抗が大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位で,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意に膝折れが起きない 3.エネルギー効率の面で優位とする報告があり,持続歩行が過負荷にならない等の特長がある。
今症例では膝継手使用前に,低重心かつ膝折れのない環境で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った。これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作獲得という成功体験に繋がる。効果として,継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となり,装着者に問題意識が芽生え積極性を生む下地になったと分析する。立脚期を考慮すれば固定膝に利点があるが,歩行速度や距離の結果より,高いレベルの目標達成には遊動膝の良好な遊脚期形成が重要となる。高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,良好なアライメント設定が前提になる。その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮した低重心の保持を目的に,低床型足部やキャッチピンを使用しない装着法も有効な選択肢である。(キスシステム,シールインライナー,吸着式)
【理学療法学研究としての意義】
高額製品の制度内支給は決して一般的でない。しかし,両大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,重度切断障害者の自立支援に向けた有効な情報提供になると共に,このような実績の蓄積が制度に則った運用の円滑化を生む契機になることを望む。成功体験を得た両大腿切断者にとって,高機能膝継手は「便利」というレベルに止まらず,人生を通じて「必要不可欠」な製品である。