[O-0592] 人工膝関節全置換術は大腿骨頚部骨折の予防に繋がるか?
―踵骨骨質の変化よりPTの関わりを考える―
キーワード:人工膝関節全置換術, 踵部, 骨密度
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下TKA)は膝関節の除痛が主目的であるが,その波及効果として,これまで身体バランスの改善,筋力の改善,隣接関節の骨密度・骨質の改善などが報告されている。その中で,定量的超音波骨量測定法の減衰係数(以下BUA)を用いた骨質の評価は,股関節の骨塩定量評価法(DEXA)より優れた大腿骨頚部骨折発症の予測法であると報告されている(Stewart A. Calcif Tissue Int 1994)。石井ら(Knee 2004)は,TKA施行群は年齢を合わせたコントロール群より踵骨骨質の高値を報告した。しかし,TKA術後の骨質の変化についての中期的縦断的検討は少ない。今回,予定二期的手術で行った両側TKA症例における5年間の踵骨骨質の変化に着目し,骨質の改善の有無を調査し,今後の理学療法士の関わりについて検討した。
【方法】
対象は当院にて平成10年から平成25年までに二期的に両側TKAを施行し,術前及び両側術後5年時に計測可能であった変形性膝関節症患者21例42膝とした(男性2名・女19名,術前平均年齢72±6歳)。1脚目の手術側は患者の希望する側,2脚目の手術のタイミングも患者の希望時とした。
方法はMcCue CUBA clinical sonometerで,BUA(dB/MHz)を用いて骨質を評価した。表示の数値は,1脚目と2脚目の順で表示し,中央値とした。術前・術後5年のBUA値を比較し,ウィルコクソン符号付順位和検定による統計分析をSPSS Statisticsにて実施した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
手術間隔は11か月(2-66か月)であった。Hospital for Special Surgery(以下HSS)スコアは術前42,40から術後5年で92,93に改善した。1脚目2脚目それぞれにおけるBUA値の検討では,術前値は49と46,術後5年値で56と57であり,それぞれ5%と7%の改善は認めるものの有意差を認めなかった。しかし,42関節での比較では48から56と5%の改善が認められ,有意差を認めた(p=0.0451)。更に14例(67%)で両側の改善が認められた。
【考察】
Porterら(Br Med J 1990)はBUAを用いた踵骨骨質の計測からその強度の改善は大腿骨頚部骨折のリスクを減少すると報告した。今回の検討から,予定二期的手術で行った両側TKA症例の5年間の踵骨骨質は,有意に改善した。その要因として,HSSスコアの改善から判断してもTKAによる除痛効果で活動量が増加した結果,踵骨への荷重負荷が増え,その骨質の改善に繋がったと推察された。TKA後,有意に身体バランスの改善が認められる(Ishii Y. J Orthop Scie 2013)ことを考慮すれば,骨質及び易転倒性の改善から,TKAは大腿骨頚部骨折の予防になる可能性が示唆された。
大腿骨頚部骨折罹患患者の87%は65歳以上(Brody JA. Nature 1985)であり,TKA適応年齢とほぼ一致する。従って,TKA患者へのリハビリテーションは,大腿骨頚部骨折予防のためにも膝関節可動域改善などの局所に留まることなく,退院後に予測されうる能力低下や活動量低下,環境面の問題を入院中のリハビリや退院前自宅訪問などを通して明確化し,TKA施行側に荷重を積極的に促すことや身体バランスの向上を含めたプログラムの構築やフォローアップが大切である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はTKA術後の踵骨骨質の中期成績を明らかにした研究であり,今後さらにTKA術後の骨質の肯定的な変化が明らかになることにより,TKA術後の付加価値として骨折リスクの予防が期待される。また,理学療法としては膝関節への着目だけでなく,TKA施行側への荷重や退院後の活動量増加,身体バランス向上へのアプローチによって大腿骨頚部骨折を予防する重要性が示唆された。
人工膝関節全置換術(以下TKA)は膝関節の除痛が主目的であるが,その波及効果として,これまで身体バランスの改善,筋力の改善,隣接関節の骨密度・骨質の改善などが報告されている。その中で,定量的超音波骨量測定法の減衰係数(以下BUA)を用いた骨質の評価は,股関節の骨塩定量評価法(DEXA)より優れた大腿骨頚部骨折発症の予測法であると報告されている(Stewart A. Calcif Tissue Int 1994)。石井ら(Knee 2004)は,TKA施行群は年齢を合わせたコントロール群より踵骨骨質の高値を報告した。しかし,TKA術後の骨質の変化についての中期的縦断的検討は少ない。今回,予定二期的手術で行った両側TKA症例における5年間の踵骨骨質の変化に着目し,骨質の改善の有無を調査し,今後の理学療法士の関わりについて検討した。
【方法】
対象は当院にて平成10年から平成25年までに二期的に両側TKAを施行し,術前及び両側術後5年時に計測可能であった変形性膝関節症患者21例42膝とした(男性2名・女19名,術前平均年齢72±6歳)。1脚目の手術側は患者の希望する側,2脚目の手術のタイミングも患者の希望時とした。
方法はMcCue CUBA clinical sonometerで,BUA(dB/MHz)を用いて骨質を評価した。表示の数値は,1脚目と2脚目の順で表示し,中央値とした。術前・術後5年のBUA値を比較し,ウィルコクソン符号付順位和検定による統計分析をSPSS Statisticsにて実施した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
手術間隔は11か月(2-66か月)であった。Hospital for Special Surgery(以下HSS)スコアは術前42,40から術後5年で92,93に改善した。1脚目2脚目それぞれにおけるBUA値の検討では,術前値は49と46,術後5年値で56と57であり,それぞれ5%と7%の改善は認めるものの有意差を認めなかった。しかし,42関節での比較では48から56と5%の改善が認められ,有意差を認めた(p=0.0451)。更に14例(67%)で両側の改善が認められた。
【考察】
Porterら(Br Med J 1990)はBUAを用いた踵骨骨質の計測からその強度の改善は大腿骨頚部骨折のリスクを減少すると報告した。今回の検討から,予定二期的手術で行った両側TKA症例の5年間の踵骨骨質は,有意に改善した。その要因として,HSSスコアの改善から判断してもTKAによる除痛効果で活動量が増加した結果,踵骨への荷重負荷が増え,その骨質の改善に繋がったと推察された。TKA後,有意に身体バランスの改善が認められる(Ishii Y. J Orthop Scie 2013)ことを考慮すれば,骨質及び易転倒性の改善から,TKAは大腿骨頚部骨折の予防になる可能性が示唆された。
大腿骨頚部骨折罹患患者の87%は65歳以上(Brody JA. Nature 1985)であり,TKA適応年齢とほぼ一致する。従って,TKA患者へのリハビリテーションは,大腿骨頚部骨折予防のためにも膝関節可動域改善などの局所に留まることなく,退院後に予測されうる能力低下や活動量低下,環境面の問題を入院中のリハビリや退院前自宅訪問などを通して明確化し,TKA施行側に荷重を積極的に促すことや身体バランスの向上を含めたプログラムの構築やフォローアップが大切である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はTKA術後の踵骨骨質の中期成績を明らかにした研究であり,今後さらにTKA術後の骨質の肯定的な変化が明らかになることにより,TKA術後の付加価値として骨折リスクの予防が期待される。また,理学療法としては膝関節への着目だけでなく,TKA施行側への荷重や退院後の活動量増加,身体バランス向上へのアプローチによって大腿骨頚部骨折を予防する重要性が示唆された。