第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述13

循環

2015年6月7日(日) 08:30 〜 09:30 第5会場 (ホールB5)

座長:渡辺敏(聖マリアンナ医科大学病院 リハビリテーション部), 舟見敬成((一財)総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-0635] 変形性膝関節症は維持透析患者の足関節上腕血圧比を低下させる

臼井直人1, 小林拓郎1, 舞草健太1, 須藤祐司2, 上畑昭美3, 土屋貴彦4, 稲津昭仁2, 久留秀樹3, 小島啓5 (1.嬉泉病院リハビリテーション科, 2.嬉泉病院腎臓内科, 3.嬉泉病院循環器内科, 4.嬉泉病院一般内科, 5.日本大学病院整形外科)

キーワード:血液透析, 末梢動脈疾患, 変形性膝関節症

【はじめに】
維持透析(HD)患者では骨密度の低下や骨質の劣化といった骨病変に起因して骨関節疾患を発症しやすく,変形性膝関節症(KOA)についても頻度が高い事が報告されている。KOAは疼痛と歩行障害を主徴とする慢性関節疾患であり,身体活動量を低下させる。身体活動量の低下は動脈硬化の危険因子であり,近年KOA患者では心血管疾患(CVD)の発症頻度が高く,さらには死亡リスクが高い事が報告されている。一方,HD患者ではCVDの合併頻度が高いことが知られている。従って,HD患者においてKOA自体が動脈硬化に悪影響を及ぼすかは明らかではない。そこで我々は,HD患者におけるKOAとCVDの中でも特に末梢動脈疾患(PAD)との関連を,下肢動脈硬化の指標である足関節上腕血圧比(ABI)を指標として,縦断的調査により検討したため報告をする。
【方法】
調査期間は2013年1月~2014年9月とし,対象は歩行が自立し,期間中1年間経過を追うことが可能であった当院外来HD患者129名(年齢:67.6±9.7歳,透析歴:9.9±7.6年,男性83名・女性46名)とした。対象者のうち,ABI1.4以上の者と,観察期間中に下肢動脈の血行再建術を実施した者,抗血小板療法を開始した者,および自立歩行が不可能となった者は除外をした。KOAの診断は立位前額面のレントゲン撮影を行い,熟練した整形外科医の読影によりKellgren-Lawrenceの分類(KL分類)で評価を行った。歩行障害を高頻度に抱えるとされるKL分類3-4度をKL重症群(21例),0-2度をKL正常・軽症群(108例)とし,2群に分類した。ABIの測定は2013年と2014年の同月に1度ずつ測定を行い,右下肢の測定値を解析値とした。統計解析はSPSSを使用し,1回目のABI測定時における2群間の患者背景(年齢・性別・BMI・透析歴・Hb・Alb・CRP),併存疾患の有無(糖尿病・CVD),ABIの比較にはマン・ホイットニーのU検定,カイ二乗検定を用いた。また,両群の観察期間(1年間)前後におけるABIの変化はウィルコクソンの符号順位検定を用いて検討した。
【結果】
結果は中央値±四分位範囲で示した。1回目のABI測定時における2群間の比較では,KL正常・軽症群に比しKL重症群のBMIが有意に高値を示した(p<0.01)。その他の患者背景,併存疾患の有無及びABIについてはいずれも有意差を認めなかった。また,KL正常・軽症群のABIは1年間の観察期間内に有意な変化を示さなかったのに対し(1.20±0.18→1.22±0.14),KL重症群のABIは有意な低下を示した(1.22±0.15→1.11±0.17,p<0.01)。
【考察】
結果より,一般と同じくHD患者においても高いBMIはKOAのリスク因子であると考えられた。また,HD患者においてKL分類3度以上の比較的進行したKOAの存在は,ABIを低下させることから,末梢動脈疾患をはじめとするCVDに対して悪影響を及ぼす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
HD患者ではKOAが高頻度に発症し,進行するとABIは経時的に低下した。従って,HD患者に対するリハビリテーションではBMIを含めた膝関節の評価は必須であり,KOA発症及び進行に対し予防的な運動プログラムの立案や,膝関節に負担の少ない運動様式での生活指導が,CVDを予防するという観点から必要であると考えられる。