第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述89

臨床教育

2015年6月7日(日) 08:30 〜 09:30 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:平野孝行(名古屋学院大学 リハビリテーション学部理学療法学科)

[O-0665] 大学院教育におけるケースメソッド教育を用いた専門職連携教育(IPE)後のリハビリ専門職と看護職とのカンファレンス自己評価表の比較

木村圭佑1,2, 篠田道子3, 宇佐美千鶴1, 大嶋伸雄4, 櫻井宏明5, 金田嘉清5, 松本隆史2 (1.日本福祉大学実務家教員, 2.医療法人松徳会花の丘病院, 3.日本福祉大学社会福祉学部, 4.首都大学東京健康福祉学部作業療法学科, 5.藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科)

キーワード:IPE, IPW, ケースメソッド教育

【目的】英国専門職連携教育推進センター(CAIPE)では,専門職連携教育(以下IPE)を「2種類以上の異なる職種が互いの職種とともに,互いの職種から,互いの職種について,協働と生活の質の向上を目的に学ぶこと」と定義している(2001)。今回,リハビリ専門職と専門職連携(以下IPW)の実践機会が多い看護職との比較を目的に,大学院教育においてケースメソッド教育を用いたIPE後に評価したカンファレンス自己評価表を分析した。
【方法】ケースメソッド教育は,日本では1962年から慶応義塾大学ビジネススクールで用いられるようになった教育手法であり,現在では保健医療福祉領域におけるIPEの一つの方法として用いられている。高木らによるとケースメソッドは「参加者個々人が訓練主題の埋め込まれたケース教材を用い,ディスカッションを通して,ディスカッションリーダーが学びのゴールへと誘導し,自分自身と参加者とディスカッションリーダーの協働的行為で到達可能にする授業方法」であると定義している(2006)。
本研究の対象は平成25年~平成26年に実施したIPEを目的とした大学院(修士課程)特講に参加したリハビリ専門職29名(理学療法士7名,作業療法士22名),看護職21名である。経験年数の内訳は,リハビリ専門職は臨床経験のない2名を含む1年目~14年目,看護師は5年目の1名を除いた19名は臨床経験がなかった。また,全員ケースメソッド教育は未経験であった。
日本福祉大学ケースメソッド研究会に登録されている退院時カンファレンス場面のIPWを題材としたケース教材を用いIPEを実施した。参加者にはケース教材の事前学習を促し,討議の開始前にケースメソッド教育に関する講義を行った。そして,グループ討議を行った後,筆者がディスカッションリーダーとなりクラス討議,振り返りを実施し最後に篠田ら(2010)が開発したカンファレンス自己評価表を記入してもらった。
カンファレンス自己評価表は主に「参加後の満足感」「カンファレンスの準備」「ディスカッションに関するもの(参加者としての気づき,発言の仕方・場づくりへの貢献等)」の全12項目で構成され,各設問に対し5段階評価(「5そう思う」「4:ややそう思う」「3:ふつう」「2:あまりそう思わない」「1:そう思わない」)で回答してもらった。
得られた結果をリハビリ専門職と看護職とに分け,カンファレンス自己評価表の各項目を分析した。統計学的処理は,Wilcoxonの順位和検定を用いた(p<0.05)。

【結果】カンファレンス自己評価表は全員から回収した。リハビリ専門職,看護職ともに「新たな気づきや見解が得られた」と答えた割合は9割を超えた。リハビリ専門職と看護職間で有意差が認められた項目は,「参加者の立場から討議の流れをリード(以下討議をリード)」「多様な対応策の提案」で,リハビリ専門職の方が看護職よりもできたと答えた割合が多かった。しかし,「討議をリード」に関しては,リハビリ専門職においても約2割ができたと答えるのみに留まった。また,「多様な対応策の提案」の項目に加え,「疑問への質問」「主張(結論)+理由(根拠)のパターンでの発言(以下結論根拠の発言)」では,リハビリ専門職においてできたと答えた割合は5割未満であった。一方,看護職においても「討議をリード」は約1割,「疑問への質問」「結論根拠の発言」は約3割ができたと答えたのみに留まった。

【考察】筆者らが第49回日本理学療法学術大会にてリハビリ専門職におけるIPWに必要な課題を経験年数別に検討した結果,臨床4年目以上のリハビリ専門職において参加者の立場から「討議をリード」「結論根拠の発言」の不十分さが確認された。今回の結果からも,看護職と比較しても十分にできているとは言い難く,リハビリ専門職におけるIPWのスキル向上のために必要な項目である。また,「多様な対応策の提案」に関しては,IPWのスキルよりも看護職側の臨床経験の有無が影響を与えた可能性が高いと考える。一方,リハビリ専門職・看護職とも「新たな気づきや見解が得られた」と答えた割合が多かったことから,一定の教育効果が得られたと判断できるものの,職種・臨床経験が異なるIPEのあり方に関して今後も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】保健医療福祉領域におけるIPWの重要性は高く,理学療法士のIPWスキルの向上は必要不可欠である。ケースメソッド教育で養われる能力の中に「人とつながる」「人を束ね,方向づける」が含まれており,本研究もリハビリ専門職におけるIPW・IPEに関する取り組みの一助になりうると考える。