第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述95

脊椎2

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:渡邉純(清泉クリニック整形外科 東京)

[O-0704] 抗重力姿勢における腰部多裂筋の超音波画像は筋活動指標となり得るか

葛西貴徹1,2, 伊藤千晶2, 若山佐一2 (1.医療法人整友会弘前記念病院, 2.弘前大学大学院保健学研究科)

キーワード:超音波画像, 多裂筋, 抗重力姿勢

【はじめに,目的】
腰部の安定性は,多裂筋や腹横筋といった深部に位置する筋群(以下体幹深層筋群)の筋活動によって行われており,体幹深層筋群の筋活動量低下に伴い,腰部の安定性は脊柱起立筋や腹直筋,腹斜筋といった表層に位置する筋群(以下体幹表層筋群)によって代償されている。腰痛症者は腰部多裂筋(Lumbar Mutifidus,以下LM)が有意に筋萎縮し,また脂肪組織へ置換するとされており,回復には低負荷で簡便なトレーニングが必要であると言われている。LMの評価方法としては筋電図やMRIを用いた評価が行われてきたが,ここ数年で非侵襲的な方法である超音波画像診断(Ultrasound Imaging,以下USI)を用いた研究が多く報告されている。USIの評価は腹臥位姿勢での筋厚測定の妥当性,信頼性が確認されているが,他の姿勢で検討した文献は少ない。そこで本研究では,USIと表面筋電図を用いて腹臥位,椅子座位,立位でLMの評価を行うことで,姿勢間における筋厚変化と筋活動の違いを検討し,LMをより効果的に活動させる姿勢と,抗重力姿勢でのLMのUSIを用いた測定が筋活動指標となり得るか検討することを目的とする。

【方法】
対象は腰痛の愁訴がなく,腰椎の手術を施行していない健常男性25名とし,測定には表面筋電図(小沢医科器械製EMGマスター)を用いてLMおよび腰部脊柱起立筋の2筋の筋活動と,超音波画像診断装置(Siemens製ACUSON X300)を用いてLMの筋厚を測定した。測定姿勢は腹臥位,椅子座位,立位の3姿勢とし,各姿勢での骨盤傾斜角度をImageJを用いて測定した。測定課題は骨盤前傾方向への等尺性収縮とした。測定順はランダムとし,各姿勢にて課題を5秒間3回ずつ行わせ,筋電波形と活動時の超音波画像を記録した。測定前に各姿勢において十分に練習を行い,超音波画像診断装置を用いたフィードバックを行って課題が行えているかどうか確認した。また,各筋における最大等尺性収縮として体幹伸展動作を行い,5秒間の筋電波形も記録した。測定したそれぞれの筋電波形に対してR2.81のプログラムを用い,Butterworth Filter(cut off周波数10Hz)をかけ,積分処理して筋電図積分値(Intergrated Electromyogram,以下IEMG)を算出した。各姿勢での課題施行時のIEMGは最大収縮時の筋活動量で正規化した(%IEMG)。超音波画像は,安静時および筋活動時の筋厚をそれぞれ算出し,収縮時筋厚/安静時筋厚×100で筋厚変化率を求めた。統計解析として,各姿勢の筋活動と筋厚変化率の差を求めるために多重比較検定を行った。また,各姿勢でのLMの%IEMGと同姿勢での脊柱起立筋の%IEMG,LMの筋厚変化率,骨盤傾斜角度の相関分析を行った。統計学的処理はR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
LMの%IEMGおよびLMの筋厚変化率は各姿勢間で有意差が認められ(p<0.01またはp<0.05),どちらの結果も腹臥位姿勢が一番高い値となった。脊柱起立筋は腹臥位と椅子座位以外の姿勢間で有意差が認められた(p<0.05)。相関分析は腹臥位,椅子座位,立位それぞれの姿勢でのLMの%IEMGと脊柱起立筋の%IEMG間で正の相関が認められた(p<0.01)。LMの%IEMGとLMの筋厚変化率は腹臥位姿勢でのみ正の相関が認められた(p<0.05)。

【考察】
LMに関して,腹臥位姿勢では%IEMGと筋厚変化率は正の相関を示したことから,この姿勢での筋厚変化率は筋活動を反映していると判断できる。LMの%IEMGと筋厚変化率の2つのデータで,今回設定した3姿勢の中で腹臥位姿勢が有意に高い値となったことから,この姿勢が3姿勢の中で比較して簡便で,効率的に筋活動を起こさせる姿勢であることが示唆できる。これは,支持基底面の違いや,骨盤傾斜角度,脊柱起立筋の活動の違いが影響していると考えられる。椅子座位や立位では,LMの%IEMGと筋厚変化率の間で,相関関係を認めないことから,今回設定した課題におけるこれらの姿勢での筋厚変化率が,必ずしも筋活動を反映していないと考えられるため,臨床現場でのフィードバックや研究結果の解釈には注意を要する。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において,姿勢によってはUSIを用いたLMのデータの解釈を注意する場合があることが示唆された。現在,USIを用いて様々な姿勢や課題におけるLMの評価が行われているが,その姿勢でのUSIデータの示す意味は筋電図指標と照らし合わせる等し,十分に考慮しなければいけない。