第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述95

脊椎2

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:渡邉純(清泉クリニック整形外科 東京)

[O-0707] 動作時痛による成長期腰椎分離症と若年性非特異的腰痛の鑑別は可能か?

~Numerical Rating Scaleによる若年性腰痛の特異的動作時痛の検討~

志賀哲夫1, 杉浦史郎1,2, 豊岡毅1, 大山隆人1, 西川悟1 (1.西川整形外科, 2.千葉大学大学院医学研究院環境生命医学)

キーワード:成長期腰椎分離症, NRS, 伸展時痛

【はじめに,目的】
腰痛は構造的破綻部位により,腰椎前方要素(椎間板)の障害では屈曲時痛,後方要素の障害では伸展時痛が誘発されやすいといわれている。若年性の代表的な腰部障害として成長期腰椎分離症があげられ,後方要素である関節突起間部の疲労骨折とされている。動作時痛は伸展時痛が誘発されやすいと報告されている一方,伸展時痛は成長期腰椎分離症の特異的症状ではないという報告もあり,いまだ様々な意見が散見するところである。これまでの若年性腰痛の動作時痛の報告では,動作時痛の有無を聴取したのみで,各動作の詳細な疼痛強度を調査した報告はされていない。そこで今回,若年性腰痛の動作時痛をNumerical Rating Scale(以下NRS)により詳細に聴取し,若年性腰痛の特異的動作時痛の調査を行った。また各動作の疼痛強度の違いにより成長期腰椎分離症と非特異的腰痛の鑑別が可能であるのかを調査したので報告する。
【方法】
対象者は18歳以下の腰痛を主訴とし,レントゲン・MRIを施行した158名(平均年齢14.4±1.74歳)とした。外傷,腰椎椎間板ヘルニアは除外した。全対象者に対して,初診時に体幹の屈曲,伸展,右回旋,左回旋,右側屈,左側屈の各動作時の疼痛をNRSにて聴取し特異的な動作時痛の比較検討を行った。また,MRIにより関節突起間部に骨髄浮腫を認めた成長期腰椎分離症(分離群)と骨髄浮腫を認めない非特異的腰痛(非分離群)に分類し,各群間でNRSの平均を算出し両群間で特異的な動作時痛の比較検討を行った。統計処理は2元配置分散分析を用いp<0.05を有意と判定した。
【結果】
全対象者の内訳は分離群99名(平均年齢14.5±1.75歳),非分離群59名(平均14.4±1.74歳)であった。統計の結果,全対象者の初診時のNRSの平均値は,屈曲時痛2.72,伸展時痛3.98,右回旋時痛1.52,左回旋時痛1.65,右側屈時痛1.94,左側屈時痛1.88と伸展時痛は他の動作時痛よりも有意に強く(p=0.0001),屈曲時痛は回旋・側屈時痛よりも有意に疼痛強度が強かった(p<0.01)。また分離群,非分離群のNRSの平均値(分離群/非分離群)を比較すると,屈曲時痛(2.42/3.23),伸展時痛(3.87/4.16),右回旋時痛(1.47/1.59),左回旋時痛(1.56/1.8),右側屈時痛(1.95/1.92),左側屈時痛(1.95/1.75)で全ての動作時痛に関して両群間で有意差は認められなかった(p=0.22)。
【考察】
成長期腰椎分離症は,腰椎後方要素の障害のため,伸展時痛が特徴的な所見といわれている。今回の結果から,成長期腰椎分離症の動作時痛では伸展時痛が最も強く,従来の報告と同様の結果であった。しかし,成長期腰椎分離症以外の非分離群においても伸展時痛が最も強い動作時痛であった。これらのことより,成長期腰椎分離症と非特異的腰痛を鑑別する評価として,伸展時痛は有用ではないことが判明した。また,伸展時痛以外の動作時痛においても,特異的な動作時痛は認められなかった事から,動作時痛のみで若年期の腰痛症を鑑別する事は非常に困難であると考える。また興味深い結果として,両群共に伸展時痛が一番強く認められた点である。若年期に関わらず前方要素である椎間板性の腰痛症の報告は多く,動作時痛は屈曲時痛が誘発されやすいといわれている。しかし今回,成長期腰椎分離症以外の非特異的腰痛でも屈曲時痛よりも有意に伸展時痛が強かった。今回の結果からでは要因の特定はできないが,今後は改めて非特異的腰痛のMRI画像と動作時痛との関係をより詳細に検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果から,若年性腰痛では分離群,非分離群共に伸展時に強い疼痛が誘発されるため,動作時痛のみで成長期腰椎分離症と判断する事は困難である事が示唆された。臨床上,我々理学療法士は動作分析や動作時痛など,動作を考慮しながら評価,治療を進める傾向にある。動作を確認する事は病態把握に必要な一助となり得るが,今回の結果から成長期腰椎分離症が疑われる症例においては,動作時痛のみで病態の判断をすると成長期腰椎分離症を見逃す危険性があると考える。成長期腰椎分離症は他の若年性腰部障害とは病態が異なるため,成長期腰椎分離症を見逃すと正しい治療プロトコールが行えず,完全分離に移行し骨癒合が得られなくなる恐れがある。よって成長期腰椎分離症が疑われる症例においては,動作時痛のみでなく年齢やスポーツ歴など様々な情報を聴取すると同時に,疼痛部位や他の理学診断と組み合わせて検討する必要があり,極力医師と相談しMRIなどのより詳細な画像検査を勧める必要があると考える。