第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述97

運動制御・運動学習6

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 第7会場 (ホールD5)

座長:笠原敏史(北海道大学大学院保健科学研究院)

[O-0724] 足底の冷却による体性感覚低下時に視覚外乱が姿勢制御に及ぼす相互作用

小河原將央1, 飯倉由季子1, 加藤智裕1, 上村一貴2, 内山靖3 (1.名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.名古屋大学未来社会創造機構, 3.名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻)

キーワード:視覚外乱, 足底感覚, 姿勢制御

【はじめに,目的】
ヒトの姿勢制御に重要な役割を果たすとされている視覚,前庭感覚,体性感覚の3つの感覚入力のうち,視覚への依存が大きいとされており,これまでに多くの研究が報告されている。Johnら(2000)は,静止立位時に複数の視標が一定方向へ流動する映像を注視させる視覚外乱により,重心位置が偏倚することを報告されている。またMergnerら(2005)は,支持基底面が一定の頻度で傾く外乱刺激によって足底からの正確な感覚情報の入力が減少する場合では,視覚外乱から受ける影響が大きくなることを報告している。しかし,体性感覚低下時における視覚外乱による姿勢制御の変化については明らかになっていない。そこで本研究の目的は,足底の冷却を行うことで再現した体性感覚低下と視覚外乱が,姿勢制御に及ぼす相互作用について明らかにすることである。
【方法】
対象者は健常成人24名(年齢21.5±1.8歳)とした。重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダG-6100)の上でロンベルグ肢位をとり,前方90cmにあるモニター中央の点を注視しながら静止立位を30秒間保持し続けるように教示した。測定条件は,1.視覚外乱条件,2.足底冷却条件,3.視覚外乱+足底冷却条件とした。視覚外乱は右から左へ一定方向かつ一定速度で流動する複数の視標により行った。足底冷却は0~2℃の氷水で行い,試行中は温度・感覚の低下が持続するよう9℃に冷却した板の上で立位を行った。実験プロトコルは,視覚外乱と足底冷却を行わないcontrol条件を8試行,各々の感覚入力の一方あるいは両方を操作する条件を8試行,合計16試行を行った。なお,実験は2日間行い,同一被験者において上記の3条件のうち,ランダムに2条件を選択し,1つの測定条件に対して16名が該当するようにした。評価指標は,左右足圧中心偏位・足圧中心動揺(総軌跡長)とした。左右足圧中心偏位は右を正の値,左を負の値とした。なお,control条件に対する左右足圧中心偏位量・足圧中心動揺量を算出し解析を行った。統計処理は,立位時の刺激の種類と試行数を2要因とした二元配置分散分析及び事後検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
左右の足圧中心偏位量は,視覚外乱条件(1試行目0.64±0.34cm)では有意に右に偏倚し,視覚外乱+足底冷却条件(1試行目-0.57±0.31cm)では有意に左に偏倚した。足圧中心動揺量はそれぞれの条件(足底冷却条件:1試行目127.3±10.3%,8試行目95.7±3.1%;視覚外乱条件:1試行目127.8±14.1%,8試行目94.9±6.2%;視覚外乱+足底冷却条件:1試行目145.9±14.6%,8試行目109.8±8.6%)で増大後,有意な減少を示した。また,体性感覚や視覚の一方の感覚入力の操作よりも両方の感覚入力を操作した場合はいずれの試行でも有意に足圧中心動揺量が大きかった。
【考察】
右から左へと動く視覚外乱を行うと足圧中心位置は生理的な条件では視覚外乱とは反対の右へ偏位し,足底冷却を行った条件では同じ向きの左へ偏位した。Bernardら(2004)は健常小児と成人と比較し,小児では流動的な視覚外乱と同じ向きに重心が偏倚し,視覚に依存した姿勢制御を行っている可能性を報告している。本研究では,姿勢制御に必要とされる足底感覚を冷却により低下させることで,視覚への依存が大きくなったのではないかと考えられる。
体性感覚や視覚の一方あるいは両方の感覚入力を操作する場合では,重心動揺が増大後,減少した。これより,感覚低下や一定の外乱であれば時間が経過すると適応できることが考えられるが,視覚外乱と足底冷却を両方行った場合では,control条件の値まで動揺が減少しなかった。Maximeら(2013)は,足底感覚の低下を他の感覚受容器で代償することで感覚低下前の足圧中心動揺まで安定させていることを報告している。本研究では視覚外乱+足底冷却によって,代償していたそれぞれの感覚入力が十分に行えないことにより,control条件の値まで動揺が減少しなかったのではないかと考えられる。以上より,体性感覚低下や視覚外乱の一方もしくはその両方からの影響による足圧中心位置や足圧中心動揺が異なることが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,足底感覚の低下に対して視覚外乱が姿勢制御に及ぼす影響を明らかにすることで,有疾患者や高齢者における姿勢制御の戦略を解明するだけでなく,視覚外乱を用いて意図した重心位置へ移動させるというような治療方法を開発するための基準となる情報を提供する点で重要な意義を有すると考える。