第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述98

地域理学療法8

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

[O-0730] 地域在住の脳卒中既往者における転倒に影響する加速度歩行指標の検討

田代英之1, 井所拓哉2, 武田尊徳3, 中村高仁4, 西原賢5, 星文彦5 (1.我汝会えにわ病院リハビリテーション科, 2.国立病院機構高崎総合医療センターリハビリテーション科, 3.上尾中央総合病院リハビリテーション技術科, 4.リハビリテーション天草病院リハビリテーション部, 5.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

キーワード:脳卒中, 転倒, 加速度

【はじめに,目的】
脳卒中既往者において転倒は主要な合併症の一つであり,歩行は最も頻度の高い転倒時の活動であることが報告されている。近年,加速度計を用いることで簡便に歩行動作の定量的な解析が可能となり,高齢者や様々な疾患群において加速度歩行指標が転倒の発生と関連することが報告されている。しかし,脳卒中既往者において加速度歩行指標が転倒発生に影響を与える要因であるか否かについて,前向き研究にて検証した報告はない。そこで本研究は,地域在住の脳卒中既往者を対象とし,転倒の発生に影響を与える要因について,加速度歩行指標を中心として,前向き研究にて検討することを目的とした。
【方法】
通所型介護サービスを提供する2施設を利用する脳卒中既往者のうち,発症後12ヶ月以上が経過し,自立して屋外歩行が可能であった26名が本研究に参加し,サービスを終了したため追跡調査ができなかった1名を除いた25名を解析対象とした。対象者について,診療録から基本属性を確認し,10m快適歩行速度,動的バランスの指標であるTimed Up and Go Test(TUG),Mini-Balance Evaluation Systems Test,転倒自己効力感の指標であるthe Falls Efficacy Scale-International,認知機能低下の有無(Short Portable Mental Status Questionnaire誤答3個以上を認知機能低下ありとした)を評価した。また,10m快適歩行速度の計測の際に,第三腰椎の高さに三軸加速度計が内蔵されたスマートフォン(Xperia Ray SO-03C,SONY Mobile Communications Inc.)を固定し,アプリケーションソフトを用いて前後・側方・鉛直方向の加速度データを測定した。加速度データは50Hzでリサンプリングを行い,フィルタ処理後に中央5歩行周期分を解析に用いた。加速度データから得られる指標として,前後成分の特徴的な波形変化から歩行周期を同定し,歩行周期変動を表す歩行周期時間の変動係数(Coefficient of Variation of Stride Time;CVST),三軸方向別に加速度の平均的な大きさを表す加速度Root Mean Square(RMS)を歩行周期ごとに算出して求めた加速度RMSの変動係数(CVRMS),規則性を表す指標として自己相関係数(Autocorrelation Coefficient;ACC)を算出した。対象者には6ヶ月後に追跡調査を行い,評価から6ヶ月間の転倒の有無を聴取し,転倒群・非転倒群に分類した。転倒発生に影響を与える要因を明らかにする目的で,2群の各評価について,比・間隔・順序尺度は対応のないt検定もしくはMann-Whitneyの検定を,名義尺度はχ2独立性の検定もしくはFisherの正確確率検定を用いて比較し,p<0.25であった変数を独立変数とし,転倒の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)を用いた。統計解析はIBM SPSS ver.20を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
解析対象とした25名のうち,転倒群は10名,非転倒群は15名であった。2群間の各評価を比較した結果,p<0.25であった変数は,年齢(転倒群:75.2±6.4歳,非転倒群:66.7±12.3歳,p=0.06),認知機能低下の有無(転倒群:あり5名,なし5名,非転倒群:あり4名,なし11名,p=0.22),TUG(転倒群:17.4±5.9秒,非転倒群:21.1±1.2秒,p=0.06),側方成分のCVRMS(転倒群:11.9±4.7%,非転倒群:7.8±3.8%,p=0.03),CVST(転倒群:4.2±2.5%,非転倒群:2.4±0.8%,p=0.05),前後成分のACC(転倒群:0.58±0.21,非転倒群:0.67±0.15,p=0.18)であった。これらを独立変数とし,転倒の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,CVST(オッズ比[95%信頼区間]=3.03[1.01-9.07]),側方成分のCVRMS(オッズ比[95%信頼区間]=1.47[1.01-2.16]),年齢(オッズ比[95%信頼区間]=1.32[1.01-1.72])が,転倒発生に影響を与える有意な独立変数として選択された(いずれもp<0.05)。
【考察】
本研究の結果,地域在住の脳卒中既往者において,評価から6ヶ月間の転倒発生に影響を与える要因として,CVST,側方成分のCVRMS,年齢が抽出されたことから,歩行動作の時間的・方向特異的な変動性,加齢が転倒発生に影響を与える事が示唆された。また,加速度歩行指標は従来の臨床評価指標よりも鋭敏に転倒リスクを捉えうる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,地域在住の脳卒中既往者において,加速度歩行指標が転倒リスクのスクリーニングに有用であることを示唆した点で,脳卒中既往者の転倒予防を目的とした理学療法に貢献しうるものである。