[O-0743] 人工膝関節置換術後患者におけるBerg Balance Scaleを用いたバランス機能の検討
片側TKA,両側TKA術後の比較
Keywords:片側TKA, 両側TKA, BBS
【はじめに,目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)は変形性膝関節症患者(以下,膝OA患者)に対し,除痛および運動機能改善等を目的として施行される。これまでTKA後の疼痛や関節可動域,筋力,歩行能力等の機能的な改善に関する報告は散見されるが,バランス能力に関する調査報告は少ない。本研究の目的は,TKA前後でBerg Balance Scale(以下,BBS)を用い,術前-退院時のバランス能力の変化および片側TKA後と両側TKA後のバランス能力の比較結果から,TKA後のリハビリ内容について検討することである。
【方法】対象は,当院にて2013年10月から2014年8月に両側膝OAの診断でTKAを施行した48例(男性10例,女性38例,平均年齢75.2±7.4歳)で全例内側型膝OA患者とした。除外基準として平衡機能障害を有する者,合併症により当院TKAクリティカルパス(以下,CP)から逸脱し測定が困難な者とした。術前および退院前にBBS評価を実施し,退院時に術側関節可動域(膝関節屈曲,伸展),術側筋力体重比(膝関節屈曲,伸展),10m最大歩行時間の測定を実施した。なお,筋力はMINATO社製COMBIT CB-2を用いて膝関節屈曲,伸展の最大等尺性筋力を測定した値を患者の体重で除し,筋力体重比(Nm/kg)を算出し正規化した。これらの評価項目を両側TKA群(以下,両側群)16膝,片側TKA群(以下,片側群)32膝の2群に分け比較検討を行った。術後は当院クリティカルパス(以下,CP)に従いリハビリを実施し,手術日から退院時測定までの平均日数は両側群18.6±3.2日,片側群19.8±3.7日であった。統計学的処理は,片側群/両側群の比較では上記の評価項目を対応のないt-検定,BBSの各項目の比較ではMann-WhitneyのU検定,術前/退院時の比較では対応のあるt-検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】術前の片側群/両側群比較ではBBS合計点数(47.0/51.3点)で有意差を認めた(p<0.05)。有意差が認められたBBS項目は,両手前方,片脚立位であった(p<0.05)。座位保持,立位保持,立ち上がり等の項目では有意差は認められなかった。退院時の片側群/両側群比較でもBBS合計点数(47.6/52.3点)で有意差を認めた(p<0.05)。有意差を認めたBBS項目は両手前方,拾い上げ,360°方向転換,踏み台昇降であった(p<0.05)。術前と同様に座位保持,立位保持,立ち上がり等の項目では有意差は認められなかった。退院時における術側の膝屈曲・伸展可動域,術側筋力体重比では有意差を認めず,10m最大歩行時間(11.9±6.4/8.9±1.9秒)で有意差を認めた(p<0.05)。術前-退院時におけるBBS合計点数では両群とも改善傾向を認めたが,有意差は認めなかった。また,片側群の退院時BBS合計点数/両側群の術前BBS合計点数の比較では,47.6/51.3点で有意差は認めなかったが改善傾向を認めた。
【考察】膝OAは徐々に下肢アライメントが変化するのに対し,TKA後は手術を境に下肢アライメントが劇的に変化する。石井は「骨切りによってもたらされる下肢アライメントの変化や,靭帯や関節包などの関節周囲組織の緊張バランスの変化が個体の内部状況を劇的に変化させてしまうため,運動課題と環境に相互作用するための新たな探査を行い,より適切な運動戦略を組織化することが重要である」と述べている。片側群はTKA直後から前額面における下肢アライメントに非対称的な変化が生じる。本研究結果では,両群とも退院時のBBS合計点数が病棟内自立判定基準のカットオフ値46点以上であったが,両側群は片側群と比較し動的バランス能力で有意に優れており,両側TKAはバランス機能,転倒予防の観点からも有利だと考える。TKA後はCPに従い早期退院が推奨され,在院日数やリハビリ回数も短縮傾向にある。しかし今回の研究結果では,術前-退院時の短期間のBBSの比較で,両群とも合計点数の有意な改善を認めず,下肢アライメント不良の状態で患者が持つボディイメージの改善には時間を要することが推測された。したがって,術後-退院時の短期間において関節可動域や筋力の改善の他,劇的な下肢アライメントの変化から環境に順応させる内容が術後早期から必要だと考える。片側TKA術後の退院時と両側TKA術前のBBS合計点数を比較すると,数カ月~数年の術後経過により合計点数は著明に改善を認めており,退院後の長期的な追跡調査が必要だと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,TKA後では除痛,身体運動機能の改善の他バランス機能改善の重要性を認識し,長期的な追跡調査とリハビリ内容を検討する必要がある。
【方法】対象は,当院にて2013年10月から2014年8月に両側膝OAの診断でTKAを施行した48例(男性10例,女性38例,平均年齢75.2±7.4歳)で全例内側型膝OA患者とした。除外基準として平衡機能障害を有する者,合併症により当院TKAクリティカルパス(以下,CP)から逸脱し測定が困難な者とした。術前および退院前にBBS評価を実施し,退院時に術側関節可動域(膝関節屈曲,伸展),術側筋力体重比(膝関節屈曲,伸展),10m最大歩行時間の測定を実施した。なお,筋力はMINATO社製COMBIT CB-2を用いて膝関節屈曲,伸展の最大等尺性筋力を測定した値を患者の体重で除し,筋力体重比(Nm/kg)を算出し正規化した。これらの評価項目を両側TKA群(以下,両側群)16膝,片側TKA群(以下,片側群)32膝の2群に分け比較検討を行った。術後は当院クリティカルパス(以下,CP)に従いリハビリを実施し,手術日から退院時測定までの平均日数は両側群18.6±3.2日,片側群19.8±3.7日であった。統計学的処理は,片側群/両側群の比較では上記の評価項目を対応のないt-検定,BBSの各項目の比較ではMann-WhitneyのU検定,術前/退院時の比較では対応のあるt-検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】術前の片側群/両側群比較ではBBS合計点数(47.0/51.3点)で有意差を認めた(p<0.05)。有意差が認められたBBS項目は,両手前方,片脚立位であった(p<0.05)。座位保持,立位保持,立ち上がり等の項目では有意差は認められなかった。退院時の片側群/両側群比較でもBBS合計点数(47.6/52.3点)で有意差を認めた(p<0.05)。有意差を認めたBBS項目は両手前方,拾い上げ,360°方向転換,踏み台昇降であった(p<0.05)。術前と同様に座位保持,立位保持,立ち上がり等の項目では有意差は認められなかった。退院時における術側の膝屈曲・伸展可動域,術側筋力体重比では有意差を認めず,10m最大歩行時間(11.9±6.4/8.9±1.9秒)で有意差を認めた(p<0.05)。術前-退院時におけるBBS合計点数では両群とも改善傾向を認めたが,有意差は認めなかった。また,片側群の退院時BBS合計点数/両側群の術前BBS合計点数の比較では,47.6/51.3点で有意差は認めなかったが改善傾向を認めた。
【考察】膝OAは徐々に下肢アライメントが変化するのに対し,TKA後は手術を境に下肢アライメントが劇的に変化する。石井は「骨切りによってもたらされる下肢アライメントの変化や,靭帯や関節包などの関節周囲組織の緊張バランスの変化が個体の内部状況を劇的に変化させてしまうため,運動課題と環境に相互作用するための新たな探査を行い,より適切な運動戦略を組織化することが重要である」と述べている。片側群はTKA直後から前額面における下肢アライメントに非対称的な変化が生じる。本研究結果では,両群とも退院時のBBS合計点数が病棟内自立判定基準のカットオフ値46点以上であったが,両側群は片側群と比較し動的バランス能力で有意に優れており,両側TKAはバランス機能,転倒予防の観点からも有利だと考える。TKA後はCPに従い早期退院が推奨され,在院日数やリハビリ回数も短縮傾向にある。しかし今回の研究結果では,術前-退院時の短期間のBBSの比較で,両群とも合計点数の有意な改善を認めず,下肢アライメント不良の状態で患者が持つボディイメージの改善には時間を要することが推測された。したがって,術後-退院時の短期間において関節可動域や筋力の改善の他,劇的な下肢アライメントの変化から環境に順応させる内容が術後早期から必要だと考える。片側TKA術後の退院時と両側TKA術前のBBS合計点数を比較すると,数カ月~数年の術後経過により合計点数は著明に改善を認めており,退院後の長期的な追跡調査が必要だと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,TKA後では除痛,身体運動機能の改善の他バランス機能改善の重要性を認識し,長期的な追跡調査とリハビリ内容を検討する必要がある。