[O-0746] 片側人工膝関節全置換術例でみられる足部痛と非手術側変形性膝関節症の進行との関連性について
キーワード:変形性膝関節症, 足圧分布, 足部痛
【はじめに】人工膝関節全置換術(以下TKA)が適応となる片側変形膝関節症(以下OA膝)例では,しばしば足部痛を伴っている。足部痛や後足部の変形は,反対側の膝関節にも影響を及ぼすことが考えられるが,この足部痛の経過と反対側のOA膝の進行の関連性は明らかとなっていない。本研究では,TKAが適応となった片側OA膝に伴った足部痛と反対側のOA膝の進行との関連性を検討することを目的とした。
【方法】片側のTKAの予定で入院となったOA膝例のうち,杖なしで歩行可能で,手術側に足部痛があり,反対側には軽度のOA膝がみられ,TKA術後5年まで経過観察できた38例(男性6例,女性32例,平均年齢76歳)を対象とした。38例中12例はKellgren & Lawrence分類のグレード3で,16例はグレード4,10例はグレード5であった。38例をTKA術前の足部痛が術後に残存したか消失したか,さらに非手術側のOA膝に進行が見られたかにより,足部痛残存進行群,足部痛残存非進行群,足部痛消失進行群,足部痛消失非進行群に分類した。すべての症例で術前,術後に足部痛の有無,アーチ高率(足長に対する舟状骨高の比),下腿踵骨角(下腿軸に対する踵骨軸のなす角度,以下LH角)を計測した。10 mの歩行路を快適速度で歩行時の足圧分布と足圧中心軌跡を足圧分布解析システムF-scanIIで3回計測し,その平均値を求めた。得られた足圧から踵部と足底中央部の足圧の体重に対する比を求めた((%PFP)。足圧中心軌跡から前後径の足長に対する比(以下%Long)と,前額面での移動距離の足幅に対する比(以下%Trans)を求めた。術前値の群間比較にはKruskal-Wallisの順位検定を用いた。群別の手術前後の値の比較には対応のあるt検定を行った。有意水準を5%未満とした。
【結果】足部痛残存進行群は18例(男性3例,女性15例;平均年齢76歳),足部痛残存非進行群12例(男性2例,女性10例;平均年齢75歳),足部痛消失非進行群は8例(男性1例,女性7例;平均年齢75歳)であった。足部痛消失進行群は該当例がなかった。足部痛残存進行群では全例でTKAが施行されていた。術前,3群間ではアーチ高率,LH角,足底中央部と中足骨部の%PFP,%Long,%Transに差は見られなかった。
反対側にTKAを要した足部痛残存進行群では術前に比べ術後で,%Long(47.4±7.4% vs. 55.1±6.1%,p<0.001)が改善していたが,アーチ高率と足圧分布は変化がなく,%Trans(18.7±2.5% vs. 15.0±2.8%,p<0.001)は悪化していた。LH角(8.5±1.3°vs. 9.7±2.0°, p=0.009)は有意に増加し,足部回内変形が悪化していた。
反対側のOA膝に進行がみられなかった足部痛残存非進行群と足部痛消失非進行群では,術前に比べ術後で,アーチ高率(12.3±0.4% vs. 12.9±0.2%,p=0.004;12.2±0.4% vs. 12.8±0.2%,p=0.001),踵部%PFP(25.7±10.6% vs. 34.9±11.8%,p=0.04;38.2±8.0% vs. 33.3±0.9%,p=0.04),足底中央部%PFP(39.2±13.7% vs. 29.0±3.8%,p=0.02;30.2±4.9% vs. 23.6±9.1%,p=0.04)と%Long(46.7±6.1 vs. 58.3±5.1%,p<0.001,51.7±3.0% vs. 60.5±1.6%,p<0.001)で有意な改善が見られた。%TransとLH角は有意な変化がみられなかった。
【考察】TKAの手術側に足部痛がみられ,TKA後に反対側の軽症のOA膝が進行した例では,すべてに足部痛が残存し,後足部の変形や後脛骨筋不全の指標に改善が見られなかった。一方足部痛はTKA後に残存したが反対側のOA膝に進行がなかった群ではアーチ高率や足圧分布に改善がみられ,足部痛が消失した群でも同様であった。TKA術後は同側の足部痛の有無,足部のアーチ高率と足圧分布パターンの変化が反対側のOA膝の進行に関わる予後因子であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】足部痛を伴ったOA膝の例ではTKA後に反対側のOA膝が進行する可能性があるので,術前後に膝関節だけでなく後足部変形や後脛骨筋不全に注目した理学療法が求められる。
【方法】片側のTKAの予定で入院となったOA膝例のうち,杖なしで歩行可能で,手術側に足部痛があり,反対側には軽度のOA膝がみられ,TKA術後5年まで経過観察できた38例(男性6例,女性32例,平均年齢76歳)を対象とした。38例中12例はKellgren & Lawrence分類のグレード3で,16例はグレード4,10例はグレード5であった。38例をTKA術前の足部痛が術後に残存したか消失したか,さらに非手術側のOA膝に進行が見られたかにより,足部痛残存進行群,足部痛残存非進行群,足部痛消失進行群,足部痛消失非進行群に分類した。すべての症例で術前,術後に足部痛の有無,アーチ高率(足長に対する舟状骨高の比),下腿踵骨角(下腿軸に対する踵骨軸のなす角度,以下LH角)を計測した。10 mの歩行路を快適速度で歩行時の足圧分布と足圧中心軌跡を足圧分布解析システムF-scanIIで3回計測し,その平均値を求めた。得られた足圧から踵部と足底中央部の足圧の体重に対する比を求めた((%PFP)。足圧中心軌跡から前後径の足長に対する比(以下%Long)と,前額面での移動距離の足幅に対する比(以下%Trans)を求めた。術前値の群間比較にはKruskal-Wallisの順位検定を用いた。群別の手術前後の値の比較には対応のあるt検定を行った。有意水準を5%未満とした。
【結果】足部痛残存進行群は18例(男性3例,女性15例;平均年齢76歳),足部痛残存非進行群12例(男性2例,女性10例;平均年齢75歳),足部痛消失非進行群は8例(男性1例,女性7例;平均年齢75歳)であった。足部痛消失進行群は該当例がなかった。足部痛残存進行群では全例でTKAが施行されていた。術前,3群間ではアーチ高率,LH角,足底中央部と中足骨部の%PFP,%Long,%Transに差は見られなかった。
反対側にTKAを要した足部痛残存進行群では術前に比べ術後で,%Long(47.4±7.4% vs. 55.1±6.1%,p<0.001)が改善していたが,アーチ高率と足圧分布は変化がなく,%Trans(18.7±2.5% vs. 15.0±2.8%,p<0.001)は悪化していた。LH角(8.5±1.3°vs. 9.7±2.0°, p=0.009)は有意に増加し,足部回内変形が悪化していた。
反対側のOA膝に進行がみられなかった足部痛残存非進行群と足部痛消失非進行群では,術前に比べ術後で,アーチ高率(12.3±0.4% vs. 12.9±0.2%,p=0.004;12.2±0.4% vs. 12.8±0.2%,p=0.001),踵部%PFP(25.7±10.6% vs. 34.9±11.8%,p=0.04;38.2±8.0% vs. 33.3±0.9%,p=0.04),足底中央部%PFP(39.2±13.7% vs. 29.0±3.8%,p=0.02;30.2±4.9% vs. 23.6±9.1%,p=0.04)と%Long(46.7±6.1 vs. 58.3±5.1%,p<0.001,51.7±3.0% vs. 60.5±1.6%,p<0.001)で有意な改善が見られた。%TransとLH角は有意な変化がみられなかった。
【考察】TKAの手術側に足部痛がみられ,TKA後に反対側の軽症のOA膝が進行した例では,すべてに足部痛が残存し,後足部の変形や後脛骨筋不全の指標に改善が見られなかった。一方足部痛はTKA後に残存したが反対側のOA膝に進行がなかった群ではアーチ高率や足圧分布に改善がみられ,足部痛が消失した群でも同様であった。TKA術後は同側の足部痛の有無,足部のアーチ高率と足圧分布パターンの変化が反対側のOA膝の進行に関わる予後因子であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】足部痛を伴ったOA膝の例ではTKA後に反対側のOA膝が進行する可能性があるので,術前後に膝関節だけでなく後足部変形や後脛骨筋不全に注目した理学療法が求められる。