[O-0779] 高齢心不全患者の筋力および日常生活動作能力と栄養状態との関係
―Geriatric Nutritional Risk Indexを用いて―
キーワード:心不全, Geriatric Nutritional Risk Index, Barthel Index
【はじめに,目的】
栄養関連指標であるGeriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRI)は,血液透析患者などの内部疾患における有用な生命予後予測指標として注目されている。また心不全患者においても同様に,GNRIは予後に関連する指標として報告されている。心不全患者は,呼吸負荷に伴うエネルギー消費量の増大や,腸管浮腫による吸収障害,また筋肉の異化亢進に伴う全身筋肉量の減少によって低栄養状態に陥りやすいとされており,栄養状態の改善が課題となっている。特に高齢心不全患者では筋力低下が著しく,それに伴い日常生活動作能力(以下,ADL)やQuality of lifeが低下し,治療が難渋するケースが多い。しかし,高齢心不全患者の筋力やADLと栄養状態の関係について検討した報告は少ない。そこで本研究では,栄養関連指標としてGNRIを用い,高齢心不全患者の筋力およびADLとの関係を検討した。
【方法】
2012年1月から2013年12月の間で心不全を発症し当院入院となった心不全患者350例のうち,80歳未満のもの,評価実施がハイリスクであったもの,死亡例,介入拒否例を除外した124例(男性:48例(38.7%),年齢:87.6歳,身長151.2cm,体重48.7kg)を対象とした。診療記録より患者基本情報,血液生化学データ(Cr,BNP,Alb,Hb),左室駆出率(LVEF),筋力(Medical Research Council Scale:以下,MRC scale:0~60),Barthel Index(以下,BI:0~100),GNRIを後方視的に調査した。GNRIは,Bouillanneらにより提唱された14.89×血清Alb+{41.7×(現体重/理想体重)}の式により算出した。さらに,対象者の中でGNRIが92未満のものを栄養障害リスクありのMalnutrition群(以下,M群)(87例),92以上のものを栄養障害リスクなし(または軽度リスクあり)のNormal群(以下,N群)(37例)とした。統計学的検討にはSPSS version18.0を使用し,MRC scale,BIの差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた。次に単変量解析として,Spearmanの順位相関係数によりBI,MRC scaleと他因子の相関関係を検討した。さらにBIを従属変数,単変量解析で有意であった項目を独立変数とし,多変量解析として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。同様に,MRC scaleを従属変数した場合の重回帰分析も行った。いずれの検定も有意水準はp<0.05とした。
【結果】
M群は88.3歳,男性33例(37.9%),N群は86.0歳,男性15例(40.5%)であり,年齢と性別は2群間で有意差を認めなかった。MRC scaleはM群49.6,N群54.1,BIはM群59.9,N群77.1であり,M群では有意にMRC scaleの値が低く(p<0.05),またBIも不良であった(p<0.01)。単変量解析の結果,BIはGNRI(r=0.432,p<0.01),脂質異常症の有無(r=0.182,p=0.043),BNP(r=-0.200,p=0.03)との間に有意な相関関係を認め,MRC scaleはGNRI(r=0.325,p<0.01),慢性腎臓病の有無(r=0.211,p=0.019),性別(r=0.218,p=0.015)との間に有意な相関関係を認めた。次にBIを従属変数とした重回帰分析の結果,有意な関連因子として抽出されたものはGNRI(β:0.392,p<0.01),BNP(β:-0.259,p=0.002)であり,調整済みR2乗は0.231であった。MRC scaleを従属変数とした重回帰分析の結果,有意な関連因子として抽出されたものはGNRI(β:0.349,p<0.01)であり,調整済みR2乗は0.114であった。
【考察】
本研究結果より,高齢心不全患者において栄養障害リスクのある患者はリスクのない患者と比較して,筋力やBIが不良傾向にあることが示された。栄養状態が不良のため筋肉合成が十分に行われず,結果として筋力低下をきたしADLが低下すると考えた。我々の先行研究では,心不全患者のBIは転帰先に影響することや,MRC scaleは予後予測因子でもある6分間歩行距離と関連することが明らかになっている。心不全患者に対する運動療法の有効性はすでに示されているが,本研究結果から栄養状態リスクのある心不全患者に対しては,運動療法と並行して適切な栄養管理を行うことで,予後を改善できる可能性が示唆された。今後は,低栄養状態の心不全患者に対して栄養介入を行い,効果を検討する介入研究が必要であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,低栄養状態の高齢心不全患者に対して栄養状態改善のための介入を行うことも心臓リハビリテーションの重要な位置づけとなることを改めて認識することができた。また,適切な栄養状態を保つことによって,高齢心不全患者の予後改善に影響を及ぼすことが示唆された。
栄養関連指標であるGeriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRI)は,血液透析患者などの内部疾患における有用な生命予後予測指標として注目されている。また心不全患者においても同様に,GNRIは予後に関連する指標として報告されている。心不全患者は,呼吸負荷に伴うエネルギー消費量の増大や,腸管浮腫による吸収障害,また筋肉の異化亢進に伴う全身筋肉量の減少によって低栄養状態に陥りやすいとされており,栄養状態の改善が課題となっている。特に高齢心不全患者では筋力低下が著しく,それに伴い日常生活動作能力(以下,ADL)やQuality of lifeが低下し,治療が難渋するケースが多い。しかし,高齢心不全患者の筋力やADLと栄養状態の関係について検討した報告は少ない。そこで本研究では,栄養関連指標としてGNRIを用い,高齢心不全患者の筋力およびADLとの関係を検討した。
【方法】
2012年1月から2013年12月の間で心不全を発症し当院入院となった心不全患者350例のうち,80歳未満のもの,評価実施がハイリスクであったもの,死亡例,介入拒否例を除外した124例(男性:48例(38.7%),年齢:87.6歳,身長151.2cm,体重48.7kg)を対象とした。診療記録より患者基本情報,血液生化学データ(Cr,BNP,Alb,Hb),左室駆出率(LVEF),筋力(Medical Research Council Scale:以下,MRC scale:0~60),Barthel Index(以下,BI:0~100),GNRIを後方視的に調査した。GNRIは,Bouillanneらにより提唱された14.89×血清Alb+{41.7×(現体重/理想体重)}の式により算出した。さらに,対象者の中でGNRIが92未満のものを栄養障害リスクありのMalnutrition群(以下,M群)(87例),92以上のものを栄養障害リスクなし(または軽度リスクあり)のNormal群(以下,N群)(37例)とした。統計学的検討にはSPSS version18.0を使用し,MRC scale,BIの差の検定にはMann-WhitneyのU検定を用いた。次に単変量解析として,Spearmanの順位相関係数によりBI,MRC scaleと他因子の相関関係を検討した。さらにBIを従属変数,単変量解析で有意であった項目を独立変数とし,多変量解析として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。同様に,MRC scaleを従属変数した場合の重回帰分析も行った。いずれの検定も有意水準はp<0.05とした。
【結果】
M群は88.3歳,男性33例(37.9%),N群は86.0歳,男性15例(40.5%)であり,年齢と性別は2群間で有意差を認めなかった。MRC scaleはM群49.6,N群54.1,BIはM群59.9,N群77.1であり,M群では有意にMRC scaleの値が低く(p<0.05),またBIも不良であった(p<0.01)。単変量解析の結果,BIはGNRI(r=0.432,p<0.01),脂質異常症の有無(r=0.182,p=0.043),BNP(r=-0.200,p=0.03)との間に有意な相関関係を認め,MRC scaleはGNRI(r=0.325,p<0.01),慢性腎臓病の有無(r=0.211,p=0.019),性別(r=0.218,p=0.015)との間に有意な相関関係を認めた。次にBIを従属変数とした重回帰分析の結果,有意な関連因子として抽出されたものはGNRI(β:0.392,p<0.01),BNP(β:-0.259,p=0.002)であり,調整済みR2乗は0.231であった。MRC scaleを従属変数とした重回帰分析の結果,有意な関連因子として抽出されたものはGNRI(β:0.349,p<0.01)であり,調整済みR2乗は0.114であった。
【考察】
本研究結果より,高齢心不全患者において栄養障害リスクのある患者はリスクのない患者と比較して,筋力やBIが不良傾向にあることが示された。栄養状態が不良のため筋肉合成が十分に行われず,結果として筋力低下をきたしADLが低下すると考えた。我々の先行研究では,心不全患者のBIは転帰先に影響することや,MRC scaleは予後予測因子でもある6分間歩行距離と関連することが明らかになっている。心不全患者に対する運動療法の有効性はすでに示されているが,本研究結果から栄養状態リスクのある心不全患者に対しては,運動療法と並行して適切な栄養管理を行うことで,予後を改善できる可能性が示唆された。今後は,低栄養状態の心不全患者に対して栄養介入を行い,効果を検討する介入研究が必要であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,低栄養状態の高齢心不全患者に対して栄養状態改善のための介入を行うことも心臓リハビリテーションの重要な位置づけとなることを改めて認識することができた。また,適切な栄養状態を保つことによって,高齢心不全患者の予後改善に影響を及ぼすことが示唆された。