[O-0794] 受傷前生活機能が高齢大腿骨頸部骨折患者の歩行自立に与える影響
キーワード:大腿骨頚部骨折, 予後予測, 受傷前生活機能
【はじめに,目的】
大腿骨頚部骨折の予後不良因子として,様々な帰結研究によって年齢,受傷前の歩行能力,認知症等が報告されている。しかし,受傷前の生活機能や認知症の具体的な程度に関する報告は少ない。そこで我々は,第47回日本理学療法学術大会にて,受傷前の歩行能力と認知症の具体的な程度を示し,受傷前生活機能と入院時能力から退院時の歩行の自立可否を予測するアセスメントシート(以下,シート)を策定した。さらにデータを蓄積しシートの有用性を検証していく中で,受傷前生活機能が低ければ,歩行が自立に至らないケースを多く認めた。このことから歩行自立には受傷前の歩行能力と認知症が大きく関与し,これらの評価で自立判定が可能になるのではないかと考えた。本研究では認知症を合併する高齢大腿骨頚部骨折患者に対して,受傷前生活機能が歩行自立の判定に与える影響を検証することを目的とした。
【方法】
対象は平成23年9月1日から平成24年8月31日までに当院回復期リハビリテーション病棟を退院した大腿骨頚部骨折患者のうち,65歳以上でMMSE23点以下かつ受傷前の屋内歩行が自立していた28名(年齢81.8±6.9歳,男性3名,女性25名)とした。診療録よりシートの評価項目である受傷前生活機能{認知症高齢者の日常生活自立度(以下,認知度),屋内・屋外歩行能力},入院時評価{認知度,認知症周辺症状(以下,周辺症状)の有無,上衣更衣能力,尿失禁の有無},さらに退院時の屋内歩行能力を調査した。解析方法として,(1)病棟歩行自立に関係する潜在変数を受傷前生活機能と入院時評価に分類した仮説モデルを作成し,各要因の相互関係性を明らかにするため共分散構造分析を行った。項目間の関係性を標準化推定値で算出し,標準化推定値が低く,統計的に優位な関連性を示さなかったパスを除外し,最終的なモデルを決定した。モデルの適合度はCFI,RMSEAを用いて判定した。(2)(1)で関連性が示されたモデル項目ごとに感度,特異度,陽性的中率を算出した。統計ソフトはR ver3.1.1,有意水準は5%未満とした。
【結果】
退院時に屋内歩行が自立したものは17名(60.7%)であった。共分散構造分析の結果,受傷前生活機能(標準化推定値0.49)と入院時評価(標準化推定値0.39)の双方ともに病棟歩行自立間に関係性を認め,受傷前生活機能の影響が強かった(CFI=0.943,RMSEA=0.283)。各構成変数は,受傷前生活機能では認知度2b以上かつ屋外歩行能力見守り以上(標準化推定値1.00),入院時評価では,入院時認知度(標準化推定値1.35)と周辺症状(標準化推定値0.47)であった。また,関連性を認めた3項目の感度と特異度,陽性的中率は受傷前認知度ランク2b以上かつ屋外歩行見守り以上では,感度94.1%,特異度54.5%,陽性的中率76.2%,入院時認知度ランク2b以上では,感度100%,特異度54.5%,陽性的中率77.3%,認知症の周辺症状では,感度82.4%,特異度45.5%,陽性的中率70%であった。さらに感度が高かった受傷前生活機能に入院時認知度を交互作用として加えた結果,感度94.1%,特異度81.8%,陽性的中率88.9%であった。
【考察】
結果より,受傷前生活機能の歩行自立可否への影響を認めた。認知度ランク2b以上(自宅内で支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できる状態)かつ屋外歩行が見守りレベル以上であれば,歩行自立の判定が概ね可能であり,受傷前生活機能が簡易的な評価指標として有用であることが示された。一方で特異度が低かったことから確定的に判定するには注意が必要となる。臨床場面では受傷前生活機能が高いことより,歩行自立が可能になると判断したものの,歩行自立の獲得には至らないケースが散見される。特異度の低さの原因として,今回のデータにおいて平均年齢80歳代と比較的高く,従来から予後不良因子とされる後期高齢者が多くサンプリングされていた結果や共分散構造分析の結果から入院時の認知度が影響していると考えた。そのため,歩行自立の判定をより確定的なものにするには,受傷前生活機能に加えて,入院時の認知度ランク2b以上の評価を加えることで9割程度まで陽性的中率が上がることが確認され,シート項目の2変数のみで精度の高い歩行自立の判定が可能となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
認知症を合併する高齢大腿骨頚部骨折患者の歩行自立の可否が入院後可及的早期に可能となることにより,その後の計画的なプログラムとゴール立案および円滑な退院援助が可能になると思われた。
大腿骨頚部骨折の予後不良因子として,様々な帰結研究によって年齢,受傷前の歩行能力,認知症等が報告されている。しかし,受傷前の生活機能や認知症の具体的な程度に関する報告は少ない。そこで我々は,第47回日本理学療法学術大会にて,受傷前の歩行能力と認知症の具体的な程度を示し,受傷前生活機能と入院時能力から退院時の歩行の自立可否を予測するアセスメントシート(以下,シート)を策定した。さらにデータを蓄積しシートの有用性を検証していく中で,受傷前生活機能が低ければ,歩行が自立に至らないケースを多く認めた。このことから歩行自立には受傷前の歩行能力と認知症が大きく関与し,これらの評価で自立判定が可能になるのではないかと考えた。本研究では認知症を合併する高齢大腿骨頚部骨折患者に対して,受傷前生活機能が歩行自立の判定に与える影響を検証することを目的とした。
【方法】
対象は平成23年9月1日から平成24年8月31日までに当院回復期リハビリテーション病棟を退院した大腿骨頚部骨折患者のうち,65歳以上でMMSE23点以下かつ受傷前の屋内歩行が自立していた28名(年齢81.8±6.9歳,男性3名,女性25名)とした。診療録よりシートの評価項目である受傷前生活機能{認知症高齢者の日常生活自立度(以下,認知度),屋内・屋外歩行能力},入院時評価{認知度,認知症周辺症状(以下,周辺症状)の有無,上衣更衣能力,尿失禁の有無},さらに退院時の屋内歩行能力を調査した。解析方法として,(1)病棟歩行自立に関係する潜在変数を受傷前生活機能と入院時評価に分類した仮説モデルを作成し,各要因の相互関係性を明らかにするため共分散構造分析を行った。項目間の関係性を標準化推定値で算出し,標準化推定値が低く,統計的に優位な関連性を示さなかったパスを除外し,最終的なモデルを決定した。モデルの適合度はCFI,RMSEAを用いて判定した。(2)(1)で関連性が示されたモデル項目ごとに感度,特異度,陽性的中率を算出した。統計ソフトはR ver3.1.1,有意水準は5%未満とした。
【結果】
退院時に屋内歩行が自立したものは17名(60.7%)であった。共分散構造分析の結果,受傷前生活機能(標準化推定値0.49)と入院時評価(標準化推定値0.39)の双方ともに病棟歩行自立間に関係性を認め,受傷前生活機能の影響が強かった(CFI=0.943,RMSEA=0.283)。各構成変数は,受傷前生活機能では認知度2b以上かつ屋外歩行能力見守り以上(標準化推定値1.00),入院時評価では,入院時認知度(標準化推定値1.35)と周辺症状(標準化推定値0.47)であった。また,関連性を認めた3項目の感度と特異度,陽性的中率は受傷前認知度ランク2b以上かつ屋外歩行見守り以上では,感度94.1%,特異度54.5%,陽性的中率76.2%,入院時認知度ランク2b以上では,感度100%,特異度54.5%,陽性的中率77.3%,認知症の周辺症状では,感度82.4%,特異度45.5%,陽性的中率70%であった。さらに感度が高かった受傷前生活機能に入院時認知度を交互作用として加えた結果,感度94.1%,特異度81.8%,陽性的中率88.9%であった。
【考察】
結果より,受傷前生活機能の歩行自立可否への影響を認めた。認知度ランク2b以上(自宅内で支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できる状態)かつ屋外歩行が見守りレベル以上であれば,歩行自立の判定が概ね可能であり,受傷前生活機能が簡易的な評価指標として有用であることが示された。一方で特異度が低かったことから確定的に判定するには注意が必要となる。臨床場面では受傷前生活機能が高いことより,歩行自立が可能になると判断したものの,歩行自立の獲得には至らないケースが散見される。特異度の低さの原因として,今回のデータにおいて平均年齢80歳代と比較的高く,従来から予後不良因子とされる後期高齢者が多くサンプリングされていた結果や共分散構造分析の結果から入院時の認知度が影響していると考えた。そのため,歩行自立の判定をより確定的なものにするには,受傷前生活機能に加えて,入院時の認知度ランク2b以上の評価を加えることで9割程度まで陽性的中率が上がることが確認され,シート項目の2変数のみで精度の高い歩行自立の判定が可能となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
認知症を合併する高齢大腿骨頚部骨折患者の歩行自立の可否が入院後可及的早期に可能となることにより,その後の計画的なプログラムとゴール立案および円滑な退院援助が可能になると思われた。