[O-0798] ALSにおけるlung insufflations capacityトレーニングの短期効果
キーワード:筋萎縮性側索硬化症, 動的肺コンプライアンス, 呼吸リハビリテーション
【はじめに,目的】
侵襲的人工呼吸療法(TPPV)管理となった後の筋萎縮性側索硬化症(ALS)は長期の経過をたどることで多くの問題を呈する。神経治療学会の標準的神経治療では四肢の関節拘縮と同様に,肺・胸郭も十分な深吸気を行っていないとコンプライアンスの低下をきたし,予防・改善のためには他動的に最大伸張させる必要があり,強制吸気が有効としている。BachらはALSを含む神経筋疾患患者のlung insufflations capacity(LIC)を紹介し,LICならば声門・延髄神経支配筋機能不全が深刻である場合も患者に深吸気が促せる事を報告している。Bachらの研究で示されるように,蘇生バックを用いた深吸気は神経筋疾患患者や人工呼吸器装着患者へ施行されつつある。しかし,LICの短期累積効果の検討を行った報告はない。本研究では,ALSの人工呼吸器使用症例に対しLICトレーニングを行い,LICと動的コンプライアンス(Cdyn)を中心とした人工呼吸器から読み取れる各指標の2週間の短期累積効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院入院中でTPPV管理を必要とするALS患者8名とした。不快感等の訴えを把握する必要があるため,Yes/Noレベル以上で確実にコミュニケーションが可能なものを抽出した。対象の罹病期間は中央値71.0ヵ月(41~90ヵ月),人工呼吸器装着期間は中央値34.5ヵ月(25~63ヵ月),厚生労働省におけるALSの臨床調査個人票重症度分類では8人全員が最重症の5度であった。全員がカフアシストなどの機械的排痰補助装置を使用しておらず,vital capacity(VC)は50ml未満だった。
LICトレーニングの方法は蘇生バックを用い,他動的に最大吸気位まで加圧し,約2秒間の空気の溜めこみを行った後に排気する方法で実施した。本研究おける最大吸気圧は肺損傷を考慮してマノメーターで圧を管理し気道内圧40cmH2Oまで,また患者が「きつく感じない程度」までとした。LICトレーニングは週3~5回おこなった。トレーニングの際に,ハロースケールにて測定された深吸気量をLICとした。
測定方法は,人工呼吸器において換気モードをSIMVで,人工呼吸器の表示パネルから強制換気時の一回換気量(TV),最高気道内圧(PIP)および呼気終末陽圧(PEEP)を読み取り,CdynはCdyn=TV/(PIP-PEEP)の計算式に各項目の値を代入して算出した。またそれぞれの指標は3回測定され(LICは3-5回),平均値を代表値とした。測定時には強制換気時に口腔からの空気漏れが無いことを確認した。また,ラトニング等が観察される場合には事前に吸引を行い,測定肢位はベッドの傾斜角度が0~30度の範囲の臥位姿勢とし,LICトレーニング前後の測定時は同一の姿勢になるよう考慮した。
短期累積効果を検討するために,LIC,TV,PIP,Cdyn,およびトレーニング実施前後のCdyn変化量(実施後Cdyn-実施前Cdyn)について,baseline(初日の代表値),1week(1週目の最終日の代表値),2week(2週目の最終日の代表値)の間で,反復測定の一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較を用いて比較した。
【結果】
トレーニング期間の2週間において,人工呼吸器設定の変更はなく,TV,実施前PIP,実施前Cdyn,LIC訓練前後のCdyn変化量ともに,反復測定一元配置分散分析の結果,LICトレーニングの週数において主効果が認められなかった。LICは,baseline群:1250.0±212.5 ml,1week:1303.8±278.3 ml,2week:1403.8±229.9 mlであり,LICトレーニングの週数において主効果が認められた。また,Bonferroniの多重比較の結果,baselineと2weekの間に有意なLICの上昇が認められた。なお,このトレーニング期間中における気胸などの合併症および重篤な循環器の症状はみられなかった。
【考察】
2週で有意なLICの上昇がみられた。肺胸郭の可動性柔軟性は四肢の拘縮と同様に考えられており,随意的な肺活量も経過とともに低下すると考えられている。しかし,私たちの研究は長期間,TPPV管理を受けている症例にとって,LICトレーニングにより時間的経過と逆行してLICは改善していくことが分かった。今回の研究は患者の重要なリスクは存在しなかったが,近年,側弯症を伴った患者において長期間の深吸気訓練に伴う気胸の症例報告もされており,より長期的にLICを維持または向上できるように気道内圧の負荷を調節する必要があるかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
「きつくない程度」また40cmH2Oの負荷のLICトレーニングは長期人工呼吸器装着患者においても短期累積効果がある。これらを明らかにした事は理学療法研究として意義がある。
侵襲的人工呼吸療法(TPPV)管理となった後の筋萎縮性側索硬化症(ALS)は長期の経過をたどることで多くの問題を呈する。神経治療学会の標準的神経治療では四肢の関節拘縮と同様に,肺・胸郭も十分な深吸気を行っていないとコンプライアンスの低下をきたし,予防・改善のためには他動的に最大伸張させる必要があり,強制吸気が有効としている。BachらはALSを含む神経筋疾患患者のlung insufflations capacity(LIC)を紹介し,LICならば声門・延髄神経支配筋機能不全が深刻である場合も患者に深吸気が促せる事を報告している。Bachらの研究で示されるように,蘇生バックを用いた深吸気は神経筋疾患患者や人工呼吸器装着患者へ施行されつつある。しかし,LICの短期累積効果の検討を行った報告はない。本研究では,ALSの人工呼吸器使用症例に対しLICトレーニングを行い,LICと動的コンプライアンス(Cdyn)を中心とした人工呼吸器から読み取れる各指標の2週間の短期累積効果を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院入院中でTPPV管理を必要とするALS患者8名とした。不快感等の訴えを把握する必要があるため,Yes/Noレベル以上で確実にコミュニケーションが可能なものを抽出した。対象の罹病期間は中央値71.0ヵ月(41~90ヵ月),人工呼吸器装着期間は中央値34.5ヵ月(25~63ヵ月),厚生労働省におけるALSの臨床調査個人票重症度分類では8人全員が最重症の5度であった。全員がカフアシストなどの機械的排痰補助装置を使用しておらず,vital capacity(VC)は50ml未満だった。
LICトレーニングの方法は蘇生バックを用い,他動的に最大吸気位まで加圧し,約2秒間の空気の溜めこみを行った後に排気する方法で実施した。本研究おける最大吸気圧は肺損傷を考慮してマノメーターで圧を管理し気道内圧40cmH2Oまで,また患者が「きつく感じない程度」までとした。LICトレーニングは週3~5回おこなった。トレーニングの際に,ハロースケールにて測定された深吸気量をLICとした。
測定方法は,人工呼吸器において換気モードをSIMVで,人工呼吸器の表示パネルから強制換気時の一回換気量(TV),最高気道内圧(PIP)および呼気終末陽圧(PEEP)を読み取り,CdynはCdyn=TV/(PIP-PEEP)の計算式に各項目の値を代入して算出した。またそれぞれの指標は3回測定され(LICは3-5回),平均値を代表値とした。測定時には強制換気時に口腔からの空気漏れが無いことを確認した。また,ラトニング等が観察される場合には事前に吸引を行い,測定肢位はベッドの傾斜角度が0~30度の範囲の臥位姿勢とし,LICトレーニング前後の測定時は同一の姿勢になるよう考慮した。
短期累積効果を検討するために,LIC,TV,PIP,Cdyn,およびトレーニング実施前後のCdyn変化量(実施後Cdyn-実施前Cdyn)について,baseline(初日の代表値),1week(1週目の最終日の代表値),2week(2週目の最終日の代表値)の間で,反復測定の一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較を用いて比較した。
【結果】
トレーニング期間の2週間において,人工呼吸器設定の変更はなく,TV,実施前PIP,実施前Cdyn,LIC訓練前後のCdyn変化量ともに,反復測定一元配置分散分析の結果,LICトレーニングの週数において主効果が認められなかった。LICは,baseline群:1250.0±212.5 ml,1week:1303.8±278.3 ml,2week:1403.8±229.9 mlであり,LICトレーニングの週数において主効果が認められた。また,Bonferroniの多重比較の結果,baselineと2weekの間に有意なLICの上昇が認められた。なお,このトレーニング期間中における気胸などの合併症および重篤な循環器の症状はみられなかった。
【考察】
2週で有意なLICの上昇がみられた。肺胸郭の可動性柔軟性は四肢の拘縮と同様に考えられており,随意的な肺活量も経過とともに低下すると考えられている。しかし,私たちの研究は長期間,TPPV管理を受けている症例にとって,LICトレーニングにより時間的経過と逆行してLICは改善していくことが分かった。今回の研究は患者の重要なリスクは存在しなかったが,近年,側弯症を伴った患者において長期間の深吸気訓練に伴う気胸の症例報告もされており,より長期的にLICを維持または向上できるように気道内圧の負荷を調節する必要があるかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
「きつくない程度」また40cmH2Oの負荷のLICトレーニングは長期人工呼吸器装着患者においても短期累積効果がある。これらを明らかにした事は理学療法研究として意義がある。