第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述111

循環4

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:田畑稔(豊橋創造大学 保健医療学部 理学療法学科), 木村雅彦(北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科理学療法学専攻)

[O-0825] 嫌気性代謝閾値での運動療法が継続困難例の臨床的特徴

塚田裕也1, 高野吉朗2, 岸本迪也1, 宇都宮司1, 松崎香苗1, 田篭久実1, 松瀬博夫4, 志波直人4, 原田晴仁3, 西山安浩3, 池田久雄3 (1.久留米大学医療センターリハビリテーション部, 2.国際医療福祉大学, 3.久留米大学医療センター循環器内科, 4.久留米大学病院整形外科)

キーワード:心臓リハビリテーション, 運動処方, 有酸素運動

【はじめに,目的】
一般的に,心臓リハビリテーションにて運動療法を施行する際,運動負荷試験にて嫌気性代謝閾値(以下,ATレベル)を測定して運動強度を決定する。ATレベルの運動療法は,運動継続が可能で,安全に運動療法を行うことができる運動強度として使用されている。しかしながら,日常臨床において,ATレベルでの運動強度での運動療法継続が困難な例を散見する。したがって,本研究の目的は,ATレベルでの運動強度にて運動療法が困難な例の臨床的関連因子を検討することである。
【方法】
対象は当院の循環器科に入院され,運動負荷試験を施行し,心臓リハビリテーションを介入した50名(平均68.1歳)とした。AT処方にて,当院の自転車エルゴメーターの運動療法プロトコルで,運動療法が可能群と困難群の2群間に分け分析を行った。評価は,年齢,性別,心機能評価としては左室駆出率(LVEF)を,身体機能検査では10m歩行試験,Barthel Index,肘屈曲筋力を上肢筋力,膝伸展筋力を下肢筋力とし,評価を行った。さらに,運動負荷試験の各項目にて分析を行った。

【結果】
運動継続可能群と困難群において,性別,心機能評価では有意差は得られなかったが,年齢において困難群が有意に高齢であった。さらに,身体機能検査では,困難群は可能群に比べ10m歩行試験では有意に遅く,上肢筋力,下肢筋力において有意に低値を示した。運動負荷試験の結果では心拍応答や,ATレベルの各項目に有意差は得られなかったものの,最高負荷量,最高酸素摂取量において困難群が有意に低値を示した。さらに,有意差が得られた項目において二項ロジスティック解析を施行したところ,下肢筋力がATレベル可能群と困難群の規定因子として抽出された。なお,ROC曲線にて下肢筋力のカットオフ値を算出したところ,下肢筋力/体重にて0.4となった。

【考察】
運動処方では,運動耐用能の向上や運動への適応に伴い的確に行うことが基本である。一般的に,心臓リハビリテーションにおける運動療法の主軸は「有酸素運動」と「レジスタンストレーニング」に大別される。有酸素能力の評価では,運動負荷試験が施行され,ATレベルがその指標となる。ATレベルでの運動療法は,長時間運動継続が可能で,運動強度の増加に対する心収縮能の応答も保たれ,安全に運動療法が施行できる運動強度として知られている。しかし,本研究では,この運動強度の処方で長時間運動継続が困難な症例の要因分析を行った。その結果,運動継続可能群と困難群の規定因子として下肢筋力が抽出され,カットオフ値は下肢筋力/体重で0.4であった。このことから,心臓リハビリテーションにて運動負荷試験にてATレベル算出後,運動療法を施行する場合,下肢筋力が低下している症例では十分な有酸素運動が継続できないことが示唆される。さらに,下肢筋力低下が認められる症例においてはレジスタンストレーニングにて下肢筋力増強を目的とした運動療法を中心に考慮していく必要があると示唆される。アメリカスポーツ学会から出されているガイドラインによると,虚弱高齢者においては,有酸素運動よりも先に,筋力の増強をする必要があるとされている。本研究においても,高齢で下肢筋力低下が認められる症例では有酸素運動の継続が困難であったことから,下肢レジスタンストレーニングの必要性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
心臓リハビリテーションにおける運動療法の主軸は「有酸素運動」と「レジスタンストレーニング」に大別される。理学療法介入により,運動療法を施行する際,運動の種類や運動強度を明確にする必要がある。本研究では,ATレベルでの運動継続が困難な例において下肢筋力が規定因子として抽出されたことから,有酸素運動が継続困難な症例では下肢筋力を評価する必要性と,下肢のレジスタンストレーニングの必要性が示唆された。