[O-0837] パーキンソン病患者に対するLee Silverman Voice Treatment® BIG実施前後での立位姿勢・バランス能力の改善に対する検討
キーワード:パーキンソン病, Lee Silverman Voice Treatment®BIG, 姿勢
【はじめに,目的】
パーキンソン病(PD)は振戦,固縮,無動,姿勢反射障害の四大徴候をもつ慢性進行性疾患である。運動障害は無動や動作緩慢に代表され,症状の進行に伴い廃用性筋萎縮,可動域制限を呈する。またPDは体幹のななめ徴候や前傾姿勢などを呈し,これらによりADLやQOLが障害される。姿勢異常の病態は多彩で,ジストニアや筋強剛,限局性ミオパチー,中枢における感覚統合異常,軟部組織障害などが提唱されている。これらに対して,ジストニアにはボツリヌス毒素やリドカイン注,限局性ミオパチーにはステロイド治療が現在行われている。リハビリテーションを行う中で姿勢異常を主訴とする患者に多く出会うが,姿勢異常に対するリハビリテーションの検討は未だ少なく,症例報告が散見される程度である。
今回PD患者に対し,動作を大きくする訓練として知られているLee Silverman Voice Treatment®BIG(LSVT®BIG)を実施し,自覚的・他覚的に姿勢の改善を認めたため,その要因について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はLSVT®BIGが実施可能であり,その前後で姿勢変化の指標として静止立位での体幹前傾・側屈角度,バランス機能の指標としてTimed up and Go Test(TUGT),Functional Balance Scale(FBS)が測定可能であった入院PD患者15名(男性6名,女性9名,年齢70.2±6.6歳,Hoehn-Yahr重症度分類II:2人,III:10人,IV:3人)とした。体幹前傾は肩峰と大転子を結ぶ線及び大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線のなす角,側屈はJacoby線の中点を通る垂直線と第1胸椎棘突起と第5腰椎棘突起を結ぶ線のなす角を測定した。また立位姿勢での筋緊張を触診にて評価し,PD患者からは姿勢の変化についての発言を口頭にて聴取した。全患者とも入院期間内での薬物調整はなく,脳深部刺激療法が施行されている患者では刺激調整はなかった。
【結果】
姿勢評価の指標として体幹前傾は20.3±17.1°→8.7±9.7°(p<0.05),体幹側屈は6.7±4.9°→3.0±3.2°(p<0.05)と有意な改善を示した。バランス能力の指標としてTUGTは14.1±3.5秒→10.2±1.9秒(p<0.05),FBSは50.4±3.9点→53.6±2.6点(p<0.05)と有意な改善を示した。
FBSにおいては下位項目においても改善傾向を示し,Functional Reach(FR)は18.0±6.4cm→24.5±7.8cm(p<0.05),360°方向転換は5.6±3.8秒→3.7±1.2秒(p<0.05),踏み台昇降17.8±5.7秒→15.2±4.0秒(p<0.05)と有意な改善を示した。
筋緊張の触診では凹側の腹斜筋,腹横筋や傍脊柱筋の筋緊張低下が認められる筋収縮が向上した。患者からは「脇腹に厚みが出た。前は骨と皮だけだった。」「背が伸びた気がする。」など姿勢の変化に対する発言があった。
【考察】
LSVT®BIG実施前後において体幹前傾・側屈角,TUGT,FBSに有意な改善を示した。
先行研究ではPD患者は後方への安定性限界が低下し,後方へ転びやすくなっており,そのために重心を前方に移動させ,同時に重心を低くし身体を安定させようとするために,各体節が屈曲傾向になると報告している。LSVT®BIG実施前後でTUGT,FBSに有意な改善を示し,FBSについては支持基底面内移動の項目であるFRや支持基底面外移動の項目である360°方向転換・踏み台昇降に有意な改善を示し,静的・動的なバランス能力が向上したことが示唆され,姿勢改善につながったと考える。
他の先行研究では,PD患者において脊柱側弯を呈した傍脊柱筋の筋線維は廃用性筋萎縮を示し,結合織増生と脂肪混在が高度であったと報告している。LSVT®BIG実施後では,腹斜筋群や傍脊柱筋に収縮の向上が認められ,PD患者からは「脇腹に厚みが出た。」等の発言が聴取された。また訓練内容には体幹回旋や肩甲骨内転運動を多く含み,深層の傍脊柱筋である多裂筋や内腹斜筋等の筋活動を増加させることで姿勢に変化をもたらしたと考える。
PDにおいてはバランス能力の改善から屈曲姿勢を改善させることと,廃用性筋萎縮を示す筋へアプローチすることが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
PD患者に対する理学療法アプローチは多々存在するが,LSVT®BIGはPDのバランス能力改善,姿勢改善に対し有効な手段であると考えられる。
パーキンソン病(PD)は振戦,固縮,無動,姿勢反射障害の四大徴候をもつ慢性進行性疾患である。運動障害は無動や動作緩慢に代表され,症状の進行に伴い廃用性筋萎縮,可動域制限を呈する。またPDは体幹のななめ徴候や前傾姿勢などを呈し,これらによりADLやQOLが障害される。姿勢異常の病態は多彩で,ジストニアや筋強剛,限局性ミオパチー,中枢における感覚統合異常,軟部組織障害などが提唱されている。これらに対して,ジストニアにはボツリヌス毒素やリドカイン注,限局性ミオパチーにはステロイド治療が現在行われている。リハビリテーションを行う中で姿勢異常を主訴とする患者に多く出会うが,姿勢異常に対するリハビリテーションの検討は未だ少なく,症例報告が散見される程度である。
今回PD患者に対し,動作を大きくする訓練として知られているLee Silverman Voice Treatment®BIG(LSVT®BIG)を実施し,自覚的・他覚的に姿勢の改善を認めたため,その要因について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象はLSVT®BIGが実施可能であり,その前後で姿勢変化の指標として静止立位での体幹前傾・側屈角度,バランス機能の指標としてTimed up and Go Test(TUGT),Functional Balance Scale(FBS)が測定可能であった入院PD患者15名(男性6名,女性9名,年齢70.2±6.6歳,Hoehn-Yahr重症度分類II:2人,III:10人,IV:3人)とした。体幹前傾は肩峰と大転子を結ぶ線及び大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線のなす角,側屈はJacoby線の中点を通る垂直線と第1胸椎棘突起と第5腰椎棘突起を結ぶ線のなす角を測定した。また立位姿勢での筋緊張を触診にて評価し,PD患者からは姿勢の変化についての発言を口頭にて聴取した。全患者とも入院期間内での薬物調整はなく,脳深部刺激療法が施行されている患者では刺激調整はなかった。
【結果】
姿勢評価の指標として体幹前傾は20.3±17.1°→8.7±9.7°(p<0.05),体幹側屈は6.7±4.9°→3.0±3.2°(p<0.05)と有意な改善を示した。バランス能力の指標としてTUGTは14.1±3.5秒→10.2±1.9秒(p<0.05),FBSは50.4±3.9点→53.6±2.6点(p<0.05)と有意な改善を示した。
FBSにおいては下位項目においても改善傾向を示し,Functional Reach(FR)は18.0±6.4cm→24.5±7.8cm(p<0.05),360°方向転換は5.6±3.8秒→3.7±1.2秒(p<0.05),踏み台昇降17.8±5.7秒→15.2±4.0秒(p<0.05)と有意な改善を示した。
筋緊張の触診では凹側の腹斜筋,腹横筋や傍脊柱筋の筋緊張低下が認められる筋収縮が向上した。患者からは「脇腹に厚みが出た。前は骨と皮だけだった。」「背が伸びた気がする。」など姿勢の変化に対する発言があった。
【考察】
LSVT®BIG実施前後において体幹前傾・側屈角,TUGT,FBSに有意な改善を示した。
先行研究ではPD患者は後方への安定性限界が低下し,後方へ転びやすくなっており,そのために重心を前方に移動させ,同時に重心を低くし身体を安定させようとするために,各体節が屈曲傾向になると報告している。LSVT®BIG実施前後でTUGT,FBSに有意な改善を示し,FBSについては支持基底面内移動の項目であるFRや支持基底面外移動の項目である360°方向転換・踏み台昇降に有意な改善を示し,静的・動的なバランス能力が向上したことが示唆され,姿勢改善につながったと考える。
他の先行研究では,PD患者において脊柱側弯を呈した傍脊柱筋の筋線維は廃用性筋萎縮を示し,結合織増生と脂肪混在が高度であったと報告している。LSVT®BIG実施後では,腹斜筋群や傍脊柱筋に収縮の向上が認められ,PD患者からは「脇腹に厚みが出た。」等の発言が聴取された。また訓練内容には体幹回旋や肩甲骨内転運動を多く含み,深層の傍脊柱筋である多裂筋や内腹斜筋等の筋活動を増加させることで姿勢に変化をもたらしたと考える。
PDにおいてはバランス能力の改善から屈曲姿勢を改善させることと,廃用性筋萎縮を示す筋へアプローチすることが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
PD患者に対する理学療法アプローチは多々存在するが,LSVT®BIGはPDのバランス能力改善,姿勢改善に対し有効な手段であると考えられる。