[P1-A-0167] 前十字靭帯再建術後患者一症例に対する神経筋協調トレーニングの即時的効果
片脚立位時の足圧中心動揺・筋の同時収縮に着目して
キーワード:前十字靭帯再建術, 神経筋協調トレーニング, 同時収縮
【はじめに,目的】
前十字靭帯(以下ACL)再建術後,術側の片脚立位バランス能力の低下や,膝周囲の主動作筋と拮抗筋の同時収縮の増大が起こると報告されている。実際に,術後3ヶ月のACL再建術後患者を対象とした研究では,片脚立位時の足圧中心(center of pressure:COP)動揺は非術側と比較し増大すると報告(Kellis 2011)されている。また,受傷前のスポーツ活動レベルに戻れなかった群は歩行立脚時の膝周囲筋の同時収縮が増大していたとの報告(Lustosa 2011)がある。これらの問題に対し神経筋協調トレーニングが実践されている。この介入効果として,健常女性に対する週3回,6週間の介入によって片脚立位バランスが向上するとの報告(Paterno 2004)や,ACL損傷者において介入前後における歩行立脚時の膝周囲筋の同時収縮が減少するとの報告(Chmielewski 2005)がある。しかしACL再建術後患者において同時収縮の変化を調べた報告は少ない。また,長期的な介入効果を報告したものが多いため,筋力など他の因子の変化がトレーニング効果に影響している可能性がある。神経筋機能に対する介入の効果を調べるためには,筋力の変化などの影響が少ない即時的効果を用いた検証が必要と考える。そこで本研究の目的は,ACL再建術後患者一症例の片脚立位バランス能力の低下や同時収縮の増大に対する神経筋協調トレーニングの即時的効果を調べることとした。
【方法】
対象は大学柔道部に所属し,柔道の練習中に技をかけられ右膝を捻って右側ACLを損傷した20歳代前半の女性である。その後,患側骨付き膝蓋腱採取によるACL再建術を施行し,術後の理学療法は当院の理学療法プログラムに従い実施した。術後3ヶ月が経過しジョギングを開始した時期を介入実施日とした。筋力評価はCYBEX(メディカ社製)を用いて大腿四頭筋とハムストリングスの最大等速性筋力(角速度60deg/sec)を評価し,測定値は%BW(ピークトルク/体重×100)とした。片脚立位バランス能力,同時収縮の評価は,開眼での片脚立位20秒間を,神経筋協調トレーニングの介入前に非術側,術側の順に測定し,介入後は術側のみ測定した。片脚立位バランス能力はANIMA社製キネトグラビコーダG7100による重心動揺測定によりCOPを評価し,評価項目は前後方向COP動揺の実効値(cm),最大振幅(cm)とした。同時収縮は,表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を使用して測定した大腿直筋(RF)・内側広筋(VM)・外側広筋(VL)・半腱様筋(MH)・大腿二頭筋(LH)の筋活動を元に,Rudolphら(Rudolph 2001)が定義した計算式に基づき各主動作筋-拮抗筋を組み合わせた同時収縮の値を算出して評価した。神経筋協調トレーニングの介入方法はDYJOCボード(酒井医療社製)を用い,その上で1分間の両脚立位と術側のみ片脚立位を各2セットずつ行った。視線は前方に向け,ボード上でバランスをとり,転倒しそうになった時は前方にある支持物を上肢で支えてよいと指示した。
【結果】
筋力(%BW)は大腿四頭筋(非術側200%,術側107%),ハムストリングス(非術側89%,術側95%)であった。トレーニング前後の各評価項目の測定結果を非術側(介入前),術側(介入前→後)という形で以下に記載した。前後方向COP動揺の結果は,実効値は非術側(0.53cm),術側(0.78→0.47cm),最大振幅は非術側(2.81cm),術側(3.54→2.54cm)と各々に変化を認めた。各主動作筋と拮抗筋を組み合わせた同時収縮の平均値は非術側(23%),術側(44→35%)と同時収縮の減少を認めた。特にVM-MH,VM-LHにおいて大きな変化を認めVM-MHは非術側(20%),術側(39→ 21%),VM-LHは非術側(20%)術側(49→23%)と変化を認めた。
【考察】
術側の大腿四頭筋の筋力は非術側と比較し低下しており,介入前の術側のCOP動揺と同時収縮の値は非術側と比較し増大していた。同時収縮の増加には筋力低下などが関与し,姿勢制御中の同時収縮の減少はバランス能力の改善に関係する可能性がある(市橋2011)とされている。介入前の結果から,術側では筋力低下を代償し姿勢を安定させるために過度な同時収縮が生じていたと考えられる。介入後は術側の同時収縮が減少したことにより,COP動揺が減少したと考えられる。この同時収縮の減少は,介入前後での筋力向上は考えにくいため,神経筋協調トレーニングによる神経筋機能の変化によるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,神経筋協調トレーニングがACL再建術後患者の同時収縮を即時的に減少させバランス能力を改善させる介入であることを示唆している。今後は多数例での検証や動的なバランス能力との関連を検討していく必要があると考える。
前十字靭帯(以下ACL)再建術後,術側の片脚立位バランス能力の低下や,膝周囲の主動作筋と拮抗筋の同時収縮の増大が起こると報告されている。実際に,術後3ヶ月のACL再建術後患者を対象とした研究では,片脚立位時の足圧中心(center of pressure:COP)動揺は非術側と比較し増大すると報告(Kellis 2011)されている。また,受傷前のスポーツ活動レベルに戻れなかった群は歩行立脚時の膝周囲筋の同時収縮が増大していたとの報告(Lustosa 2011)がある。これらの問題に対し神経筋協調トレーニングが実践されている。この介入効果として,健常女性に対する週3回,6週間の介入によって片脚立位バランスが向上するとの報告(Paterno 2004)や,ACL損傷者において介入前後における歩行立脚時の膝周囲筋の同時収縮が減少するとの報告(Chmielewski 2005)がある。しかしACL再建術後患者において同時収縮の変化を調べた報告は少ない。また,長期的な介入効果を報告したものが多いため,筋力など他の因子の変化がトレーニング効果に影響している可能性がある。神経筋機能に対する介入の効果を調べるためには,筋力の変化などの影響が少ない即時的効果を用いた検証が必要と考える。そこで本研究の目的は,ACL再建術後患者一症例の片脚立位バランス能力の低下や同時収縮の増大に対する神経筋協調トレーニングの即時的効果を調べることとした。
【方法】
対象は大学柔道部に所属し,柔道の練習中に技をかけられ右膝を捻って右側ACLを損傷した20歳代前半の女性である。その後,患側骨付き膝蓋腱採取によるACL再建術を施行し,術後の理学療法は当院の理学療法プログラムに従い実施した。術後3ヶ月が経過しジョギングを開始した時期を介入実施日とした。筋力評価はCYBEX(メディカ社製)を用いて大腿四頭筋とハムストリングスの最大等速性筋力(角速度60deg/sec)を評価し,測定値は%BW(ピークトルク/体重×100)とした。片脚立位バランス能力,同時収縮の評価は,開眼での片脚立位20秒間を,神経筋協調トレーニングの介入前に非術側,術側の順に測定し,介入後は術側のみ測定した。片脚立位バランス能力はANIMA社製キネトグラビコーダG7100による重心動揺測定によりCOPを評価し,評価項目は前後方向COP動揺の実効値(cm),最大振幅(cm)とした。同時収縮は,表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を使用して測定した大腿直筋(RF)・内側広筋(VM)・外側広筋(VL)・半腱様筋(MH)・大腿二頭筋(LH)の筋活動を元に,Rudolphら(Rudolph 2001)が定義した計算式に基づき各主動作筋-拮抗筋を組み合わせた同時収縮の値を算出して評価した。神経筋協調トレーニングの介入方法はDYJOCボード(酒井医療社製)を用い,その上で1分間の両脚立位と術側のみ片脚立位を各2セットずつ行った。視線は前方に向け,ボード上でバランスをとり,転倒しそうになった時は前方にある支持物を上肢で支えてよいと指示した。
【結果】
筋力(%BW)は大腿四頭筋(非術側200%,術側107%),ハムストリングス(非術側89%,術側95%)であった。トレーニング前後の各評価項目の測定結果を非術側(介入前),術側(介入前→後)という形で以下に記載した。前後方向COP動揺の結果は,実効値は非術側(0.53cm),術側(0.78→0.47cm),最大振幅は非術側(2.81cm),術側(3.54→2.54cm)と各々に変化を認めた。各主動作筋と拮抗筋を組み合わせた同時収縮の平均値は非術側(23%),術側(44→35%)と同時収縮の減少を認めた。特にVM-MH,VM-LHにおいて大きな変化を認めVM-MHは非術側(20%),術側(39→ 21%),VM-LHは非術側(20%)術側(49→23%)と変化を認めた。
【考察】
術側の大腿四頭筋の筋力は非術側と比較し低下しており,介入前の術側のCOP動揺と同時収縮の値は非術側と比較し増大していた。同時収縮の増加には筋力低下などが関与し,姿勢制御中の同時収縮の減少はバランス能力の改善に関係する可能性がある(市橋2011)とされている。介入前の結果から,術側では筋力低下を代償し姿勢を安定させるために過度な同時収縮が生じていたと考えられる。介入後は術側の同時収縮が減少したことにより,COP動揺が減少したと考えられる。この同時収縮の減少は,介入前後での筋力向上は考えにくいため,神経筋協調トレーニングによる神経筋機能の変化によるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,神経筋協調トレーニングがACL再建術後患者の同時収縮を即時的に減少させバランス能力を改善させる介入であることを示唆している。今後は多数例での検証や動的なバランス能力との関連を検討していく必要があると考える。