第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法2

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0235] 重度脳卒中片麻痺患者における本人用長下肢装具作製の有無がADL能力に及ぼす影響

伊禮里子, 村井直人, 新崎直和, 照屋渚, 与儀哲弘, 田中正一 (医療法人ちゅうざん会ちゅうざん病院)

キーワード:長下肢装具, 日常生活活動, 重度脳卒中片麻痺患者

【はじめに,目的】
脳卒中治療ガイドライン2009では,早期から装具を用いた立位・歩行練習が強く推奨されており,当院でも長下肢装具(以下:KAFO)を作製し練習に用いることを積極的に行っている。臨床においてKAFOを重度脳卒中片麻痺患者に本人用として作製し使用することで,歩行能力の改善だけでなく,実用歩行が獲得できない症例においても移乗動作やトイレ動作といった立位動作の改善や車椅子での移動能力の改善が得られることをよく経験する。先行研究において,早期に本人用KAFOを作製することで在院日数の短縮,運動機能・歩行・ADL能力の向上が得られるなどの報告はみられるが,ADL能力に関してはFunctional Independence Measureの運動項目(以下FIM-M)の総得点を用いている研究がほとんどであり,FIM-Mを項目別に調査した報告は少ない。また移動手段の帰結を考慮して調査した報告も少ない。そこで,今回は重度脳卒中片麻痺患者における本人用KAFOの有無がどのようなADL項目に影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的に,FIM-Mを項目別に分けて後方視的に調査したのでここに報告する。
【方法】
平成23年1月から平成26年7月までに当院に入院した初発重度脳卒中片麻痺患者(入院時FIM-M37点未満)61名を対象とし,その中からKAFOを作製した者34名(以下:作製群,入院からKAFO完成までの日数37.1±45.1日),作製に至らず当院備品のKAFOを2週間以上使用した者27名(以下:非作製群)の2群に分けた。さらに2群の中から移動手段の帰結が歩行であった者(作製群:12名,年齢63.5±14.6歳,非作製群:8名,年齢67.0±11.8歳),車椅子であった者(作製群22名:年齢75.5±11.4歳,非作製群19名:年齢72.6±15.8歳,)に分けた。調査項目は入・退院時FIM-M(セルフケア・排泄・移乗・移動),FIM-M利得(総得点・セルフケア・排泄・移乗・移動),在院日数,入・退院時Brunnstrom recovery stage,年齢,発症から入院までの期間とした。対象の帰結が歩行であった2群間及び車椅子であった2群間と各調査項目における比較を,2標本t検定及びマンホイットニーのU検定を用いて行った。なお,有意水準は1%及び5%未満とした。統計解析にはR2.8.1を使用した。
【結果】
移動手段の帰結が歩行であった2群間の比較では,全ての調査項目において有意差を認めなかった。次に帰結が車椅子であった2群間比較では,FIM-M利得の排泄(作製群3.5±2.8点,非作製群1.1±3.1点)において作製群が非作製群に比べ高値であり有意差を認めた(p<0.01)。さらにFIM-M利得のセルフケア(作製群9.4±5.5点,非作製群5.5±5.1点),退院時FIM-Mのセルフケア(作製群19.1±5.9点,非作製群13.8±7.3点),退院時FIM-Mの排泄(作製群6.4±3.2点,非作製群4.4±3.3点)においても作製群が非作製群に比べ高値であり有意差を認めた(p<0.05)。その他調査項目は有意差を認めなかった。
【考察】
移動手段の帰結が車椅子であった重度片麻痺患者において,本人用KAFOを作製した方がセルフケア・排泄といったADL能力に改善が得られることが示された。このことは,実用的な歩行獲得が困難と予測される症例においても,積極的にKAFOを作製し練習に応用することでADLの介助量軽減に寄与することを示した結果ともいえると考える。当院備品のKAFOを使用することは適合の不十分さや使用頻度の減少といった問題がある。一方で,本人用KAFOを作製し使用することは適切な立位アライメントを確保したうえで立位・歩行といった抗重力肢位の活動・練習を高頻度に行うことを可能にする。このことが,トイレ動作・更衣動作・清拭といったセルフケアの改善に影響を及ぼしたのではないかと考える。小口らによると,歩行自立が見込まれなくても長下肢装具を使用した積極的な歩行練習を行うことにより,運動・認知機能のみならず各臓器・器官の機能に対して多角的な効果が現れ全身の改善が期待できると述べている。そのことが排泄管理の改善に繋がった要因ではないかと考える。一方,移動手段の帰結が歩行であった重度片麻痺患者はすべての項目で有意差を認めなかった。これは,複合的な活動であるADLの中でも難易度の高い歩行を獲得した者は,歩行よりも難易度が低いセルフケアなどの動作も獲得していた可能性があり,有意差を認めなかった要因ではないかと考える。今後,移動手段の帰結が歩行であった者においては歩行能力の評価指標を用いて再検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
重度片麻痺患者に対しADL能力を改善させていくうえで,KAFOを作製し使用していくことの重要性と今後の課題を改めて認識できたことに意義があると考える。