第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法6

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0275] 回復期病棟入院患者の睡眠状況がsit-to-walk課題中の運動パラメーターに及ぼす影響

工藤弘行1, 杉原勝宣1, 石井良昌1, 甲田宗嗣1, 阿南雅也2, 新小田幸一2 (1.広島市立リハビリテーション病院, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門)

キーワード:脳卒中, 睡眠効率, sit-to-walk

【はじめに,目的】
広島市総合リハビリテーションセンターにおける転倒・転落事例平成24年度リスクマネージメント委員会まとめによると,転倒発生の最も多い時間帯順に早朝6~8時,夕方16~18時であり,最も多い発生場所はベッド周辺であった。一方,時間帯別に転倒件数をみると全転倒事例の1/4は夜間に発生していた。本来,夜間は臥床時間が大半を占めるため転倒のきっかけとなるベッドからの立ち上がりや移乗,移動をする機会は日中に比べ明らかに少ないように思われる。しかしながら,夜間の単位時間あたりの転倒件数は日中に比べ多かった。日中の大半は活動しており,夜間は主に睡眠が大部分を占めている。この日中と夜間の活動の違いが転倒に何らかの影響を及ぼしている可能性があると思われた。
そこで,本研究はMalouinら(2003)が用いたsit-to-walk-test(以下:STW)を運動課題として用いて,入院患者を対象とした睡眠特性と起床直後および日中の運動機能について動作解析装置を用いて運動学的な分析を行い,その関連について調査することを目的に行った。
【方法】
被験者は回復期病棟に入院中の脳卒中患者11名(男性7人,女性4人,38~85[歳]:平均年齢63.7±12.5[歳])であった。睡眠の計測にはアクチグラフMotionloggerを使用し,身体活動量を検出した。睡眠状況を表す睡眠の質の指標には,睡眠効率[%]を採用し,睡眠効率が80%未満の者を睡眠不良群,睡眠効率が80%以上の者を睡眠良好群に分類した。
課題動作はSTWを採用した。STW課題は椅子から立ち上がり,前方3mの位置に設置してあるもう1つの椅子へ向かって歩き,その椅子に座る課題である。動作スピードは,快適スピードにて行った。課題動作は,起床直後の早朝と起床から数時間経過した夕方の2回実施した。
運動学データは,可動式カメラ6台と標点マーカを用いた3次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を使用して取得した。パラメータには,先行肢の1歩目の股関節角度[deg]と膝関節角度[deg],歩幅[cm],STW所要時間[s],身体重心(Center of Mass;以下COM)の側方変位量[cm]を運動学的データから算出した。
統計学的解析には統計ソフトウェアR(version 3.0.2)を用いた。得られたデータに対してShapiro-Wilk検定にて正規性を確認した。正規性が認められたデータには,等分散性を検定し,等分散性が認められる場合には対応のないt検定を,等分散性が仮定されない場合にはWelchの検定を行った。正規性が認められなかったデータにはMann-Whitneyの検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
STWにおける1歩目の股関節と膝関節角度の変化量は,早朝,夕方ともに睡眠不良群と良好群で有意な差は認められなかった。歩幅は,早朝,夕方において睡眠不良群と良好群で有意な差は認められなかった。STW所要時間は,早朝,夕方における立ち上がり歩行時間は,睡眠不良群と良好群で有意な差は認められなかった。
COM側方変位量は,早朝は睡眠不良群と良好群で有意な差は認められなかった。一方で,夕方のCOM側方変位量は,睡眠不良群が良好群と比較して有意に狭かった(p<0.05)。
【考察】
Dettmanら(1987)は,脳卒中患者における随意的な足圧中心の移動の変位量は健常者よりも脳卒中後の片麻痺患者の方が小さく,立位バランスを保持する安定領域が狭いと報告している。本研究も同様に,睡眠不良群では,転倒を回避するために椅子から立ち上がる際の側方変位量を小さくし,COMを確実に安定性限界内に収めながら起立する戦略がとられることを示唆している。
睡眠の質が運動機能へ与える影響は,夕方よりも起床直後のCOM側方変位量の方が大きいと推察したが,睡眠不良群と良好群の間に有意な差は認められなかった。しかしながら,両群とも起床直後のCOM側方変位量は,夕方よりも狭くなっていた。久田ら(2010)は,早朝の脳卒中片麻痺患者は,夕方に比べ両側下肢膝伸展筋力と立ち上がり能力が有意に低下していると報告している。このことから,本研究とは評価項目が異なっているものの起床直後のみ一時的に運動機能が低下した状態にあるという点では同じような傾向を示してた可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
入院中の脳卒中患者の睡眠特性とsit-to-walk課題中に得られた運動学的データとの関連について考察することで,睡眠の量と質,動的立位バランスの観点から臨床における転倒予防対策の一助となることが期待できる。