第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

呼吸1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0326] 超音波画像を用いた横隔膜運動の計測

療養患者様のポジショニングに着目して

木曽健太 (洲本伊月病院)

Keywords:超音波画像, 横隔膜運動, 離床

【はじめに,目的】
ポジショニングの効果のひとつに,肺底区の一回換気量向上がある。肺底区は,無気肺や,沈下性肺炎の発生部位として関連の高い部位である。予防体位として,側臥位,セミファーラー位に一定の効果があると言われている。
臥位では,吸気の約70%を横隔膜が占めており,直接横隔膜運動を計測する事は換気量に近い値が得られると考えた。先行研究においても,換気量と横隔膜に関するものはあるが,肢位による横隔膜運動を計測したものは見られない。
今回,療養病棟患者様の換気が肢位を変換する事で上昇しているかを確認する目的で,超音波機器を用いた横隔膜運動の計測を行った。

【方法】
対象は,自己にて寝返り,起居動作が困難な入院患者様14名(年齢79.6±9.0歳,体重49.3±6.6kg,寝たきり期間48±33カ月)であり,定期的なリハビリテーションを受けているものとした。測定項目は,呼吸数,横隔膜運動を5肢位(臥位,側臥位,シムス位,30°ヘッドアップ,60°ヘッドアップ)にて計測する。超音波機器(LOGIQ MD200)は,Mモード法,周波数3MHz,プローブの形状はコンベックス型を用いて計測を行う。
プローブを置く位置は鎖骨中線と前腋窩線の間で,第7-8肋間に沿わせるように当て,ビームの向きは頭側背側方向で横隔膜ドーム後方にビームが当たる位置で計測を行う。姿勢変換によるプローブのずれを防止する目的で,シールによるマーキングを行い,同一部位での測定となるよう注意した。
測定は,超音波画像から横隔膜運動を手作業にて割り出し0.1cmの単位まで割り出した。
解析は,wilcoxonの符号付き順位和検定を用いて,横隔膜移動距離と呼吸数変動を対象とした。統計学的処理は,すぐできる!リハビリテーション統計の解析ソフトを用いて,危険率p<0.05をもって有意とした。

【結果】
全14例の横隔膜運動,呼吸数双方において,臥位と他の肢位との間に有意差は認められなかった。
そこで,再度離床の有無で2群に分け分析を行った。結果,臥位姿勢における横隔膜運動において離床群では平均1.38cm,寝たきり群では0.89cmと平均値に0.5cmの開きが見られた。そして,離床群のヘッドアップ60°に有意差を示す結果となった。(p<0.05)
次に,呼吸数の一番変化した肢位は,離床群のヘッドアップ60°が臥位と比較し1.2回/分平均で呼吸数が減少しており,寝たきり群ではヘッドアップ30°が臥位と比較し2.2回/分平均で呼吸数が減少したが有意差は示さなかった。

【考察】
今回の実験を通して,全例が同一の横隔膜運動を示さなかった。しかし,車椅子離床群のベッド上での横隔膜運動のみ有意差を示した。
一方,寝たきり群は,ヘッドアップ上昇により横隔膜運動が少ない結果となった。松本らによると,ギャッチップ60°の肢位では腹直筋,僧帽筋の各筋が安静時の200%以上働くと述べており,姿勢保持に必要な筋力が不足していた為と考える。また,今回の計測の中で下肢の設定は拘縮に合わせ枕を引くのみであった為,下肢が安定せずずり下がり姿勢が,腹圧をかけ横隔膜を挙上し吸気の制限を加えた事も,寝たきり群の横隔膜運動に影響したと考えられる。
次に,シムス位の測定では,両群とも明らかな横隔膜運動の増加が得られなかった。これは,既往に肺炎患者様が多く肺コンプライアンスの低下している事や,姿勢変換から測定までが1分程度と肺底区域への換気に十分な時間が確保できなかった事も考えられた。
今回の超音波画像計測を通して,離床の有無がポジショニングを決定する上で重要である事が明らかとなった。しかし,超音波画像上の数値は換気量とは言えず予測値である為,下側肺障害の予防に有効とは言えない。
しかしながら,換気測定が困難な療養病棟の患者様にとって,直接横隔膜の動きを計測し,換気量の予測を行う事は肺合併症の予防に有用であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において,超音波機器により各肢位での横隔膜運動を計測する事が可能であり,肺機能検査が困難な寝たきり患者様の客観的指標としての使用が期待できる。