第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

呼吸2

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0335] ALS患者に対するMICトレーニングがPCFに及ぼす影響

ラン検定を用いた時系列効果検証

齋藤弘1, 内田学2, 寄本恵輔3, 石井啓介1, 蓮沼雄人1, 中村大祐1, 鈴木浩子4 (1.辻内科循環器科歯科クリニック, 2.東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻, 3.国立精神・神経医療研究センター, 4.訪問看護ステーションふきのとう)

キーワード:筋萎縮性側索硬化症, Peak Cough Flow, MICトレーニング

【はじめに,目的】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:以下,ALS)は呼吸機能障害を有し自発呼吸を制限されていく進行性の神経難病である。呼吸機能は進行性に能力低下を示し,疾患に特異的にみられる肺胞低換気が,高二酸化炭素血症を誘引し呼吸不全に至る。また,ALSの主な死因は窒息や呼吸不全であるとも言われている。ALSの呼吸機能のなかで最大吸気量と咳の最大呼気流量(Peak Cough Flow:以下,PCF)を維持することは,肺や胸郭の可動域,コンプライアンスや気道クリアランスの維持し排痰の促進や無気肺を予防する為に欠かせない。またこれらの介入は,患者のQOLや生命維持を保障するためにも非常に重要な意味を持っている。
本研究は呼吸機能の低下を認める在宅ALS患者に対して,肺コンプライアンスや咳嗽力の維持・改善に有益とされる最大強制吸気量(Maximum Insufflation Capacity:以下,MIC)を得る救急蘇生用バックを用いたMICトレーニングの実施により,排痰などの機能に関与する咳嗽力に影響を及ぼすかどうかを検討した。
【方法】
対象は,自発呼吸にて管理されている40歳代の男性とした。介入時の重症度はALSFRS-R:18点,厚生労働省筋萎縮性側索硬化症の重症度分類:4度であり,日常生活は全介助レベルであった。研究デザインはMIC-exがPCFに及ぼす有用性を検証するためにABA’B’デザインとした。A期およびA’期を基準期としてPCFのみを測定し,B期およびB’期を介入期としてMICトレーニングを行い実施後にPCFを測定した。各期の介入期間は2週間で,介入頻度は3回/週とし計6回実施した。介入時間は,すべて午前の同時刻とし,施行者も1名に限定して行った。MICトレーニングは,救急蘇生バックを用いて強制的陽圧換気を患者の主観的に最大吸気位となる量まで加圧し,Air stackを3秒間設ける条件とした。なお,この主観的最大吸気位は,対象者が最大に耐えうる限界をジェスチャーにて示してもらい判断した。PCFの測定はピークフローメータ(PHILIPS社製)を用いて,すべて背臥位にて行った。またMICトレーニング後以外のPCFの採用数値は,3回測定したうちの最大値とした。統計的手法は,A期,B期,A’期,B’期の4群に分類したPCFの値に対してラン検定を実施し,B期,B’期に行うMICトレーニングの効果が得られるかどうかをトレンドの傾斜により判別した。なお,有意確立は5%未満を有意なトレンドとして各期における変化量を判別した。統計解析にはSPSS PASW Statistics18を用いた。
【結果】
各期におけるPCFの平均値はA期,B期,A’期,B’期,の順に306.6±26.7l/min,473.3±50.6 l/min,325.0±31.1 l/min,531.6±53.73l/minであり,B期,B’期は正のトレンドを認めた。
【考察】
在宅ALS患者に対するMIC-exの有用性について検討した。結果よりMICトレーニングを実施したB期,B’期は,実施していないA期,A’期と比較して正のトレンドを認めた。このことからMICトレーニングがPCFを向上させる有効な手段であると示唆された。
ALSなどの神経難病患者は自発的な体動が制限されることにより胸郭や呼吸筋の伸長性は得られにくい。なおかつ進行性であることから呼吸筋力の減弱は生命予後に関わる大きな問題となる。
MICトレーニングは継続的に実施していくことで肺の伸展性を維持し,かつ即時的に有効な咳嗽力を発揮することが期待される。今回は,在宅での介入である環境的な要因からPCFの測定のみの検証となったが,結果からはMICトレーニングが咳嗽機能を維持させる有効な一つの手段であるものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
在宅で生活する神経難病患者の数は増加傾向を示してきている。従来の訪問リハビリテーションで実施していたADL練習を主体とした理学療法介入のみでは対応が困難な症例も今後は我々に要求されるようになってきている。ALSなどの神経難病は進行性の神経疾患であることから,MICトレーニングなどの対応により呼吸機能の維持を図ることはQOLを高めるためには必須であるものと考えている。より多くの在宅領域のリハビリテーション関連職種が周知することで患者サービスの質を更に向上させることにつながるものと考えている。