第50回日本理学療法学術大会

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呼吸3

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0341] 男性COPD患者の栄養状態は呼吸機能,身体機能,身体能力に差を生じさせるか?

病期別にみた身体特性の比較からの検討

大野航輝1,4, 今泉裕次郎2,4, 堀江淳3,4, 山口真奈美1,4, 小柳孝太郎1,4, 林真一郎4 (1.医療法人同愛会副島病院, 2.JCHO佐賀中部病院, 3.京都橘大学, 4.NPO法人さが呼吸ケアネット)

キーワード:慢性閉塞性肺疾患, 理想体重比, 病期別身体特性

【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)において栄養障害は予後や病態と密接に関連する重要な併存症であり,栄養状態の把握はリハビリテーションを進める上で重要である。本研究の目的は,男性COPD患者の病期I・II期,III・IV期の理想体重比(%IBW)を正常群と低下群に分類し,それぞれの身体特性について病期別に比較検討することである。
【方法】
研究デザインは横断研究とし,対象は研究の参加に同意が得られた病状安定期の男性COPD患者で,病期I・II期が66名(年齢75.1±7.6歳,BMI 22.5±3.6),III・IV期が75名(年齢73.7±8.4歳,BMI 20.8±3.6)とした。なお対象の選定は,歩行に支障をきたすような骨関節疾患,脳血管障害や重篤な内科的合併症を有する者,理解力が不良な者,測定への同意が得られなかった者は対象から除外した。
主要測定項目は%IBWとし,副次測定項目は呼吸機能検査(FVC,%FVC,FEV1,%FEV1,FEV1.0%),呼吸筋力検査(MIP,MEP),握力,膝伸展筋力,片足立脚時間,5m最速歩行時間,Timed Up and Go Test(TUG),30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),6分間歩行距離試験(6MWT),漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT),長崎大学呼吸ADL質問票(NRADL),健康関連QOLはSt George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)とした。各病期での群分けは,%IBWの90%以上群を正常群とし90%未満群を低下群として分類した。
統計学的解析は,2群間の比較をLevenの等分散の検定後,Studentのt検定,またはWelchのt検定にて分析した。統計学的有意水準は5%とし,統計解析ソフトはSPSS version20を使用した。
【結果】
病期I・II期における%IBW(低下群vs正常群)の比較では,FVC(2.45±0.7vs2.94±0.6L,p=0.013),%FVC(78.9±20.0vs93.2±17.7%,p=0.01),FEV1(1.50±0.6vs1.82±2.0L,p=0.03),MEP(45.7±19.4vs99.5±41.2cmH2O,p<0.001),MIP(39.0±19.6vs172.2±30.2cmH2O,p=0.001),握力(25.1±10.4vs30.1±7.7kg,p=0.047),膝伸展筋力(23.3±6.7vs32.7±9.5kgf,p=0.001),片足立脚時間(25.6±31.4vs51.9±43.8秒,p=0.03),5m最速歩行時間(3.7±1.0vs2.8±0.7秒,p=0.01),TUG(9.9±5.9vs6.5±1.4秒,p=0.046),CS-30(13.4±3.8vs 16.9±3.8回,p=0.006),6MWT(309.4±126.0vs412.4±110.8m,p=0.003),ISWT(281.7±155.7vs389.8±157.8m,p=0.038),NRADL(64.1±28.0vs84.6±15.3点,p=0.018)が正常群で有意に高値を示した。しかし,%FEV1,FEV1.0%,SGRQには有意差を認めなかった。次に,病期III・IV期の比較では,握力(28.6±6.6vs31.6±9.0kg,p<0.001),膝伸展筋力(25.6±8.3vs33.9±12.1kgf,p=0.001)が正常群で有意に高値を示したが,その他の項目には有意差を認めなかった。
【考察】
本研究において,病期I・II期では栄養状態の差異によって呼吸機能,身体機能,身体能力に差を生じるが,病期がIII期以上まで進行した場合は差異が生じにくくなることが示唆された。病期がIII・IV期まで進行すると急性増悪を繰り返す症例が多くなることが予測される。急性増悪が生じると炎症状態悪化によるエネルギー消費量増大に加え,interleukin-6(IL-6),tumor necrosis factor-α(TNF-α)などの炎症性メディエーター血中濃度の増加により,骨格筋量減少,摂食抑制,栄養補助療法の効果を減弱させると報告されている。また,摂食抑制因子であるレプチンの血中濃度が上昇することも知られており,栄養障害を助長させる要因となりうる。つまり,これらの諸要因が病期進行にともない身体機能・身体能力に差を生じにくくしていると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
男性COPD患者における栄養管理は早期から介入する重要性が示唆された。それには,他職種との連携を含めた包括的なアプローチが必要である。