[P1-A-0344] 一般地域住民における閉塞性換気障害がその後の骨格筋量変化に及ぼす影響
キーワード:慢性閉塞性肺疾患, 骨格筋量, 一般地域住民
【はじめに,目的】
骨格筋減少は慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:以下COPD)患者の主要な問題点の1つであり,正常体重のCOPD患者であっても,その約20-30%に骨格筋量の減少が生じているとされる。一方,40歳以上の日本人のCOPD患者数は530万人と推定されているにもかかわらず,500万人以上が診断を受けていない未受診の状態であることが問題となっている。しかし,このような未受診のCOPD患者を対象とした骨格筋量減少についての報告は少なく,その縦断的な変化についても明らかとなっていない。COPD患者の骨格筋減少への介入は呼吸理学療法の主目的の1つであり,地域住民に潜在する閉塞性換気障害と骨格筋量変化についての検討は,早期理学療法介入の重要性を高めていくと考えられる。そこで本研究では,40歳以上の男性地域住民を対象として,閉塞性換気障害が骨格筋量に与える影響を縦断的に検証した。
【方法】
対象は呼吸器疾患既往歴を有さない40歳以上の男性地域住民134名(平均年齢59.1±9.6歳)とし,2007年および2011年に各項目の調査・測定を行った。基本情報として年齢,BMI,Brinkman指数,高感度CRP値を調査し,呼吸機能は電子スパイロメータHI-801(チェスト株式会社)を使用して一秒量(forced expiratory volume in 1 second:以下FEV1),努力性肺活量(forced vital capacity:以下FVC)を測定した。本研究では2007年の呼吸機能検査の結果をベースラインとして,対象者をFEV1/FVC<0.7の気流閉塞群,0.7以上の健常群の2群に分類した。体組成は生体電気インピーダンス法によって全身筋肉量,四肢筋量を測定し,四肢筋量を身長の2乗で除したSkeletal muscle mass index(以下SMI)を算出した。さらに,2007年の全身筋肉量,四肢筋量,SMIをベースラインとして,2011年の測定結果から4年間の変化量(Δ)を調査した。統計解析として,2群間の基本情報,体組成およびその変化量をカイ二乗検定,対応のないt検定,共分散分析を用いて比較した。さらに,従属変数に各体組成の変化量を,独立変数に気流閉塞の有無を,調整変数に年齢,BMI,Brinkman指数を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。統計ソフトはSPSS Statistics 17.0を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
2007年の呼吸機能検査の結果より,19.4%(26/134名)が気流閉塞群に分類された。気流閉塞群は健常群と比較して,有意に高齢であり(気流閉塞群vs.健常群:62.5±9.9歳vs. 57.5±9.9歳,p<0.05),Brinkman指数も高値を示した(589.2±504.4 vs. 257.5±371.4,p<0.001)。BMI,高感度CRP値,ベースラインの全身筋肉量,四肢筋量,SMIには2群間で差はなかった。ベースラインから4年間でのFEV1の平均低下量は気流閉塞群と健常群で類似していた(-37.5±57.3 ml/year vs. -36.2±68.0 ml/year,p=0.93)。年齢,Brinkman指数を共変量とした共分散分析ではΔ四肢筋量(-1.36±0.40 kg vs. -0.41±0.19 kg,p<0.05),ΔSMI(-0.44±0.14 kg/m2 vs. -0.10±0.69 kg/m2,p<0.05)の項目において気流閉塞群の低下量が有意に大きかった。また,重回帰分析においても気流閉塞はΔ四肢筋量(β=-0.21,p<0.05),ΔSMI(β=-0.20,p<0.05)の有意な関連因子であった。
【考察】
本研究より,40歳以上の男性地域住民の気流閉塞は,関連因子で調整後もその後4年間での四肢筋量,SMIの低下と関連していることが明らかとなった。先行研究では,COPD患者の骨格筋機能障害には全身性炎症の影響が示唆されているが,本研究においては高感度CRP値に2群間での差はみとめられなかった。一方,近年の報告では地域に潜在する未診断COPDにおいて既に身体活動量の低下が始まっていることが示されており,この身体活動量の減少が四肢筋量の減少につながっていることが推測される。骨格筋量の減少はCOPD患者の身体機能や死亡率にも影響する重要な因子であり,その減少はCOPD未診断の時点からすでに生じ始めていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果からCOPDの診断がつく頃にはすでに四肢筋量低下が進行していることが推測される。この結果は早期理学療法介入の重要性,呼吸理学療法開始時点からの四肢筋量へのアプローチの重要性を示す報告であると考える。
骨格筋減少は慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:以下COPD)患者の主要な問題点の1つであり,正常体重のCOPD患者であっても,その約20-30%に骨格筋量の減少が生じているとされる。一方,40歳以上の日本人のCOPD患者数は530万人と推定されているにもかかわらず,500万人以上が診断を受けていない未受診の状態であることが問題となっている。しかし,このような未受診のCOPD患者を対象とした骨格筋量減少についての報告は少なく,その縦断的な変化についても明らかとなっていない。COPD患者の骨格筋減少への介入は呼吸理学療法の主目的の1つであり,地域住民に潜在する閉塞性換気障害と骨格筋量変化についての検討は,早期理学療法介入の重要性を高めていくと考えられる。そこで本研究では,40歳以上の男性地域住民を対象として,閉塞性換気障害が骨格筋量に与える影響を縦断的に検証した。
【方法】
対象は呼吸器疾患既往歴を有さない40歳以上の男性地域住民134名(平均年齢59.1±9.6歳)とし,2007年および2011年に各項目の調査・測定を行った。基本情報として年齢,BMI,Brinkman指数,高感度CRP値を調査し,呼吸機能は電子スパイロメータHI-801(チェスト株式会社)を使用して一秒量(forced expiratory volume in 1 second:以下FEV1),努力性肺活量(forced vital capacity:以下FVC)を測定した。本研究では2007年の呼吸機能検査の結果をベースラインとして,対象者をFEV1/FVC<0.7の気流閉塞群,0.7以上の健常群の2群に分類した。体組成は生体電気インピーダンス法によって全身筋肉量,四肢筋量を測定し,四肢筋量を身長の2乗で除したSkeletal muscle mass index(以下SMI)を算出した。さらに,2007年の全身筋肉量,四肢筋量,SMIをベースラインとして,2011年の測定結果から4年間の変化量(Δ)を調査した。統計解析として,2群間の基本情報,体組成およびその変化量をカイ二乗検定,対応のないt検定,共分散分析を用いて比較した。さらに,従属変数に各体組成の変化量を,独立変数に気流閉塞の有無を,調整変数に年齢,BMI,Brinkman指数を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。統計ソフトはSPSS Statistics 17.0を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
2007年の呼吸機能検査の結果より,19.4%(26/134名)が気流閉塞群に分類された。気流閉塞群は健常群と比較して,有意に高齢であり(気流閉塞群vs.健常群:62.5±9.9歳vs. 57.5±9.9歳,p<0.05),Brinkman指数も高値を示した(589.2±504.4 vs. 257.5±371.4,p<0.001)。BMI,高感度CRP値,ベースラインの全身筋肉量,四肢筋量,SMIには2群間で差はなかった。ベースラインから4年間でのFEV1の平均低下量は気流閉塞群と健常群で類似していた(-37.5±57.3 ml/year vs. -36.2±68.0 ml/year,p=0.93)。年齢,Brinkman指数を共変量とした共分散分析ではΔ四肢筋量(-1.36±0.40 kg vs. -0.41±0.19 kg,p<0.05),ΔSMI(-0.44±0.14 kg/m2 vs. -0.10±0.69 kg/m2,p<0.05)の項目において気流閉塞群の低下量が有意に大きかった。また,重回帰分析においても気流閉塞はΔ四肢筋量(β=-0.21,p<0.05),ΔSMI(β=-0.20,p<0.05)の有意な関連因子であった。
【考察】
本研究より,40歳以上の男性地域住民の気流閉塞は,関連因子で調整後もその後4年間での四肢筋量,SMIの低下と関連していることが明らかとなった。先行研究では,COPD患者の骨格筋機能障害には全身性炎症の影響が示唆されているが,本研究においては高感度CRP値に2群間での差はみとめられなかった。一方,近年の報告では地域に潜在する未診断COPDにおいて既に身体活動量の低下が始まっていることが示されており,この身体活動量の減少が四肢筋量の減少につながっていることが推測される。骨格筋量の減少はCOPD患者の身体機能や死亡率にも影響する重要な因子であり,その減少はCOPD未診断の時点からすでに生じ始めていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果からCOPDの診断がつく頃にはすでに四肢筋量低下が進行していることが推測される。この結果は早期理学療法介入の重要性,呼吸理学療法開始時点からの四肢筋量へのアプローチの重要性を示す報告であると考える。