第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

身体運動学7

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0152] 運動肢位と運動方法が腹横筋の筋厚に与える影響

森下敦史1, 西村聡二1, 沖田学1,2, 田島健太朗1, 東賢太郎1 (1.新松田会愛宕病院, 2.高知大学大学院医学系研究科)

キーワード:腹横筋, 骨盤傾斜角度, 超音波診断装置

【はじめに,目的】
腹横筋の機能低下は体幹安定性を低下させ,姿勢不良を引き起こすことで,腰痛が出現することが示唆されている(伊藤,2012)。また,亜急性期以降の腰痛者には脊柱の安定性を目的とした運動が他の運動よりも有効的であることを報告している(Ferreira,2006)。しかし,腹横筋に対する具体的な評価方法やトレーニング方法についての報告は十分に行われておらず,どの時期にどのようなトレーニングをすることが脊柱の安定性の改善に有効であるかについてのエビデンスが少ないという指摘もある(白井,2009)。また,腹横筋は内腹斜筋より深層に位置するため,触診が非常に困難であり,機能的評価に難渋する。さらに,腹横筋自体の収縮はダイナミックな関節運動を伴わないため,収縮感覚を習得することも難しいともいわれている(河合,2006)。その腹横筋評価として近年,報告されているものとして,超音波診断装置は側腹筋群の筋厚を測定し,その信頼性の高さと筋活動評価としての妥当性が報告されている。しかし,骨盤傾斜角度の違いでの腹横筋評価の報告は少ない。本研究は,様々な骨盤傾斜角での運動課題による腹横筋の収縮特性を超音波診断により明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人16名(平均年齢26.5±3.1歳,男性16名)とした。対象者の筋厚測定には,超音波診断装置LOGIQ BOOK XP(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いて腹横筋の筋厚を画像化した。画像表示モードはBモードで,プローブは8MHzのリニアプローブを使用した。腹横筋の測定部位は,先行研究を参考に上前腸骨棘(以下ASIS)と上後腸骨棘(以下PSIS)を結ぶ線のASIS側1/3点を通る床と平行な直線状で,肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。また,プローブを当てる際は安静時および収縮時ともに皮膚,外腹斜筋の筋膜,内腹斜筋の筋膜,腹横筋の筋膜が平行となるように撮像した。測定肢位は安静背臥位で膝下にクッションまたは台を入れ,骨盤の角度を3条件とし,骨盤の角度はASISとPSISを結ぶ線と床面からの垂線の角度を測定し,骨盤前傾位5°,中間位0°,後傾位5°と設定した。測定は安静時と腹部引き込み運動(以下draw-in),肩甲下角が離れる程度の体幹屈曲の3条件とし,順番は無作為に決定した順番で実施した。腹横筋の筋厚は,安静呼気終末の腹部超音波画像を静止画像にて記録し,筋膜の境界線を基準に腹横筋を0.1mm単位で測定した。比較する数値は安静時筋厚を100%として増加率を算出した。これらの測定結果に対し,各骨盤角度時のdraw-in時と体幹屈曲時の比較を対応のないt検定を用いて行った。統計処理はSPSS ver.16.0を用いた。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
超音波診断装置による各骨盤傾斜角度での各運動時の筋厚増加率は,骨盤前傾位でdraw-inが71±49%,体幹屈曲が32±36%,中間位ではdraw-inが86±47%,体幹屈曲が54±34%,後傾位ではdraw-inが74±44%,体幹屈曲が47±38%であった。骨盤前傾位と中間位ではdraw-inと体幹屈曲の有意差が見られた。骨盤後傾時では有意差がなかった。
【考察】
本研究結果から,骨盤前傾位と中間位では体幹屈曲よりもdraw-inの運動の方が腹横筋の収縮が優位に働きやすかった。よって,腹横筋の分離収縮ではdraw-inが適していたと考えられる。骨盤後傾位ではdraw-in,体幹屈曲の運動に差はみられなかった。これは骨盤後傾位では腹横筋の筋長が短縮するためだと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果において,骨盤前傾位と中間位では体幹屈曲よりもdraw-inの運動の方が腹横筋の収縮が優位に働きやすいことが判明した。その為,骨盤前傾位と中間位で腹横筋の運動を行う際は,draw-inを行う方が望ましいと考えられる。その為,最適かつ効果的な腹横筋運動を行うためには,対象者の骨盤傾斜角度に合わせて選択することにより,質の高い理学療法を提供できるものと考えている。