第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学7

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0155] バードドッグエクササイズにおける下肢挙上角度が多裂筋の活動度および選択的活動性に与える影響

坂上康文1, 村尾昌信2, 中嶋正明3 (1.吉備国際大学保健科学部理学療法学科, 2.吉備国際大学保健科学研究科, 3.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科)

キーワード:多裂筋, 表面筋電図, エクササイズ

【はじめに,目的】
体幹筋はその機能からLocal筋とGlobal筋に分類される。Local筋は,腰椎に起始または停止する筋で,脊柱を分節的にコントロールする機能を持つ。Global筋は,骨盤と胸郭をつなぐ筋で,腰椎に対し効果的にトルクを発生させる。腰部多裂筋(以下:LM)はLocal筋に属する筋で脊椎一つ一つのアライメントの安定性に大きく寄与する。近年,腰痛患者ではLMの選択的な萎縮が生じることがわかってきた。このLMの萎縮はLMの活動が抑制されることによると推測される。このLMの活動性低下に対してLMが選択的に活動するエクササイズを行い,その活動を促すことが有効である。このLMの選択的活動を得られるエクササイズとして,バードドッグエクササイズがある。このエクササイズは四つん這いで片側上肢と反対側下肢を拳上し,その肢位を保持するものである。臨床の場においてこのバードドッグエクササイズを行っているのを観ると,拳上下肢を水平に保持できていない高齢者や,過度に拳上(股関節過伸展)している若年者などを目にする。これらの肢位がバードドッグエクササイズを行っている際のLM活動を低下させたり,その選択的活動性を低下させたりすることが懸念される。本研究の目的は,バードドッグにおける下肢拳上角度がLMの活動度および選択的活動性に与える影響を筋電図学的に明らかにすることである。
【方法】
対象は整形外科的疾患のない大学生30名(男性15名,女性15名:平均年齢21.0±0.9歳,平均BMI20.5±1.9)とした。測定肢位は,バードドッグ左下肢拳上角度が左股関節屈曲0°,屈曲15°,屈曲30°,伸展10°とした。筋電図導出筋はLocal筋であるLMとGlobal筋である腰腸肋筋胸部線維(以下:ICLT)とし,いずれも左側の筋に統一した。筋電位の導出には表面筋電計Nicolet VikingIV(Nicolet社)を用い(サンプリング周波数は20kHz,Band pass filter:20~1kHz)とした。計測は5秒間行い,波形の安定した中間3秒間を積分し積分筋電図(IEMG)を得た。これに先立ち最大随意等尺性収縮における筋電図積分値(MVIC)を記録し,IEMGを除いて%MVICを算出した。また,LMの選択的活動性を抽出するためにICLTに対するLMの活動度合いを示すL/G ratio(LM%MVIC/ICLT%MVIC)を求めた。
統計処理にはいずれも一元配置分散分析を用いた。さらに有意差が認められた場合にはBonferroni法による多重比較を行った。統計ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。
【結果】
LM%MVICは,①屈曲0°:29.7±11.4%②屈曲15°:22.6±9.6%③屈曲30°:18.2±7.5④伸展10°:32.7±11.1であった。L/G ratioは,①屈曲0°:2.6±2.2②屈曲15°:2.8±2.2③屈曲30°:2.7±2.1④伸展10°:2.4±1.9となった。



【考察】
LMの活動度(%MVIC)は,屈曲0°に対して屈曲15°および屈曲30°では有意に低下した(p<0.05)。屈曲0°と伸展10°との間に有意差は認められなかった。LMの選択的活動性(以下:L/G ratio)は全群間に有意差は認められなかった。本研究からLM%MVICは,股関節過伸展では影響を受けないが,股関節屈曲角度が大きくなるに従い低下することが明らかになった。また,L/G ratioは股関節屈伸角度に影響されないことが明らかになった。言い換えると,下肢拳上角度が不足してもLMの選択的活動性は保たれるが,LM自体の活動度が有意に低下するということになる。バードドッグエクササイズにおいて拳上下肢の自重により発生する骨盤後傾モーメントに対する拮抗作用としてLMが作用すると考えられる。LMの活動性低下は,下肢拳上角度が不十分なほどアーム長が短くなるため発生する骨盤後傾モーメントが小さくなるためだと考えられる。Hettingerの法則に従うと,筋肥大を目的とした場合低負荷ではより長い筋収縮時間が必要とされることから,LMの強化を考えた場合拳上度合いが低い場合には拳上保持時間を延長する必要がある。また,C.A.Richardsonらによると関節の安定には25%MVIC程度の関節周囲筋活動が必要とされる。このことと本研究結果を考え合わせるとバードドッグエクササイズにおける拳上下肢の肢位は水平位とすることが望ましい。また一方で,腰痛患者においてはLMが選択的に萎縮し筋力低下している。萎縮し脆弱になっているLMに対して拳上下肢の拳上度合いを変化させることでかかる負荷を調節することができるとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究からバードドッグエクササイズにおける拳上下肢の拳上角度とLMの活動性が明らかとなったことにより,その効率的な適用方法を論ずることができるようになった。