[P1-B-0201] 腰部脊柱管狭窄症術後の早期理学療法介入の有効性
―全身筋肉量と体幹筋力からの検討―
キーワード:腰部脊柱管狭窄症, 筋肉量, 体幹筋力
【はじめに,目的】
腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)に対する手術治療には,除圧固定術と除圧術がある。当院では,固定術として腰椎後方侵入椎体間固定術(以下除圧固定),除圧術として棘突起縦割椎弓切除術(以下除圧)を施行している。近年,脊椎手術の後療法が短縮化され,在院期間も短くなっているなかで,当院では手術による侵襲や周術期の活動量の低下による体幹筋の筋肉量と筋力の低下を防ぐために,術後早期の理学療法による体幹筋の筋力強化訓練を行ってきた。これまでの報告では,術後3か月以降の身体機能を評価している報告は散見されるが,術後早期の理学療法の介入による3か月以内の身体機能の変化は明らかになっていない。そこで今回我々は,LCSの術前,術後3か月間の体幹筋肉量と筋力から術後早期介入の有用性を検討した。
【方法】
対象は,2013年11月から2014年10月のLCS手術の後,術前後評価を行うことができた,除圧固定群10名(男性6名,女性4名,平均68.0±10.9歳),除圧群14名(男性10名,女性4名,平均66.4±9.8歳)であった。理学療法の方法は,手術前に間歇跛行の評価として,6分間の歩行と固定式自転車走行時の腰部および下肢症状の出現を記録した。術後は原則翌日より端座位訓練を開始し,全身状態の回復にあわせて歩行訓練を行った。除圧固定術は2週間,除圧術は1週間の入院期間中に歩行訓練,等尺性体幹筋トレーニングを指導した。退院時に自宅で行うトレーニングを指導し,術後1か月および3か月の来院時に再指導とともに評価を行った。調査項目は,術前,術後1ヶ月,術後3ヶ月目の全身筋肉量,体幹筋力である。全身筋肉量は,身体組成計InBody 230(BIOSPACE社製)で測定し,筋肉量を身長の二乗で除した値を用いた。体幹筋力は徒手筋力測定器mobie (酒井医療社製)を用い,座位にて体幹伸展と屈曲の等尺性筋力を測定し,筋力を体重で除した値を用いた。統計解析ソフトは,Rコマンダー2.8.1を用いた。2群の術後経過の比較には2要因の分散分析法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
除圧固定群では,筋肉量は術前,術後1か月,術後3か月の順に9.12±1.86,9.33±1.45,9.22±1.53 kg/m2,屈曲筋力は0.28±0.04,0.24±0.06,0.27±0.07 kg/体重,伸展筋力は0.3±0.12,0.3±0.08,0.33±0.09 kg/体重であり術前,術後1ヶ月,術後3ヶ月目において有意な変化は認めなかった。また,除圧群では,筋肉量は9.61±1.42,9.6±1.29,9.42±1.06 kg/m2,屈曲筋力は0.28±0.08,0.26±0.08,0.26±0.07 kg/体重,伸展筋力は0.36±0.07,0.34±0.09,0.37±0.08 kg/体重であり除圧固定術を行った患者と同様に有意な変化は認めなかった。また,除圧固定群と除圧群のそれぞれの時期の比較においても有意な差は認めなかった。
【考察】
先行研究では,術後の理学療法の効果判定で全身筋肉量に着目したものは少なく,体幹筋力の評価として徒手筋力検査が用いられてきた。検者の徒手筋力検査は客観性に乏しいと思われる。武政らは,手術侵襲,術後臥床や腰部安定のためのコルセット着用により体幹伸展筋力が術前と同様まで回復するのに6か月間かかると報告している。しかし,今回の結果では除圧固定群,除圧群共に術前から術後3ヶ月の期間で筋肉量,屈曲伸展筋力の低下を認めなかった。当院では術後3日目よりリハビリテーションを開始し術後1~2週間に運動療法および退院後の運動指導を行ったことから,早期からの理学療法介入が,体幹筋力低下の予防につながったのではないかと考える。一方で術後1ヶ月から3ヶ月の期間では筋肉量,屈曲伸展筋力の向上を認められなかった。この期間は,術後1ヶ月の際に自宅で行えるエクササイズを指導するのみで理学療法士の介入を行っていない。術後1ヶ月から3ヶ月の間の回復は患者によって差があった。この期間は術後の安静度も軽快し,患者の身体活動が上がる時期だと予測される。この時期に,より身体機能の向上を図るために患者個人に合わせた運動指導などの介入を行うことが望ましいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
腰椎術後の早期理学療法介入は,術後1ヶ月の時点での体幹筋力低下を防ぐことが可能であった。しかそれ以降理学療法介入を行わなかった結果,その後の全身筋肉量,体幹筋力の向上は認められないということを明らかにした。この結果は,今後術後早期からの経過を良好なものとするための,運動療法や患者教育方法を検討する研究へと繋がる。
腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)に対する手術治療には,除圧固定術と除圧術がある。当院では,固定術として腰椎後方侵入椎体間固定術(以下除圧固定),除圧術として棘突起縦割椎弓切除術(以下除圧)を施行している。近年,脊椎手術の後療法が短縮化され,在院期間も短くなっているなかで,当院では手術による侵襲や周術期の活動量の低下による体幹筋の筋肉量と筋力の低下を防ぐために,術後早期の理学療法による体幹筋の筋力強化訓練を行ってきた。これまでの報告では,術後3か月以降の身体機能を評価している報告は散見されるが,術後早期の理学療法の介入による3か月以内の身体機能の変化は明らかになっていない。そこで今回我々は,LCSの術前,術後3か月間の体幹筋肉量と筋力から術後早期介入の有用性を検討した。
【方法】
対象は,2013年11月から2014年10月のLCS手術の後,術前後評価を行うことができた,除圧固定群10名(男性6名,女性4名,平均68.0±10.9歳),除圧群14名(男性10名,女性4名,平均66.4±9.8歳)であった。理学療法の方法は,手術前に間歇跛行の評価として,6分間の歩行と固定式自転車走行時の腰部および下肢症状の出現を記録した。術後は原則翌日より端座位訓練を開始し,全身状態の回復にあわせて歩行訓練を行った。除圧固定術は2週間,除圧術は1週間の入院期間中に歩行訓練,等尺性体幹筋トレーニングを指導した。退院時に自宅で行うトレーニングを指導し,術後1か月および3か月の来院時に再指導とともに評価を行った。調査項目は,術前,術後1ヶ月,術後3ヶ月目の全身筋肉量,体幹筋力である。全身筋肉量は,身体組成計InBody 230(BIOSPACE社製)で測定し,筋肉量を身長の二乗で除した値を用いた。体幹筋力は徒手筋力測定器mobie (酒井医療社製)を用い,座位にて体幹伸展と屈曲の等尺性筋力を測定し,筋力を体重で除した値を用いた。統計解析ソフトは,Rコマンダー2.8.1を用いた。2群の術後経過の比較には2要因の分散分析法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
除圧固定群では,筋肉量は術前,術後1か月,術後3か月の順に9.12±1.86,9.33±1.45,9.22±1.53 kg/m2,屈曲筋力は0.28±0.04,0.24±0.06,0.27±0.07 kg/体重,伸展筋力は0.3±0.12,0.3±0.08,0.33±0.09 kg/体重であり術前,術後1ヶ月,術後3ヶ月目において有意な変化は認めなかった。また,除圧群では,筋肉量は9.61±1.42,9.6±1.29,9.42±1.06 kg/m2,屈曲筋力は0.28±0.08,0.26±0.08,0.26±0.07 kg/体重,伸展筋力は0.36±0.07,0.34±0.09,0.37±0.08 kg/体重であり除圧固定術を行った患者と同様に有意な変化は認めなかった。また,除圧固定群と除圧群のそれぞれの時期の比較においても有意な差は認めなかった。
【考察】
先行研究では,術後の理学療法の効果判定で全身筋肉量に着目したものは少なく,体幹筋力の評価として徒手筋力検査が用いられてきた。検者の徒手筋力検査は客観性に乏しいと思われる。武政らは,手術侵襲,術後臥床や腰部安定のためのコルセット着用により体幹伸展筋力が術前と同様まで回復するのに6か月間かかると報告している。しかし,今回の結果では除圧固定群,除圧群共に術前から術後3ヶ月の期間で筋肉量,屈曲伸展筋力の低下を認めなかった。当院では術後3日目よりリハビリテーションを開始し術後1~2週間に運動療法および退院後の運動指導を行ったことから,早期からの理学療法介入が,体幹筋力低下の予防につながったのではないかと考える。一方で術後1ヶ月から3ヶ月の期間では筋肉量,屈曲伸展筋力の向上を認められなかった。この期間は,術後1ヶ月の際に自宅で行えるエクササイズを指導するのみで理学療法士の介入を行っていない。術後1ヶ月から3ヶ月の間の回復は患者によって差があった。この期間は術後の安静度も軽快し,患者の身体活動が上がる時期だと予測される。この時期に,より身体機能の向上を図るために患者個人に合わせた運動指導などの介入を行うことが望ましいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
腰椎術後の早期理学療法介入は,術後1ヶ月の時点での体幹筋力低下を防ぐことが可能であった。しかそれ以降理学療法介入を行わなかった結果,その後の全身筋肉量,体幹筋力の向上は認められないということを明らかにした。この結果は,今後術後早期からの経過を良好なものとするための,運動療法や患者教育方法を検討する研究へと繋がる。