第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法3

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0251] 脳卒中患者の自立可否におけるリーチ動作との関係性―TUGを用いた検討―

飯田健治, 村上貴史 (汐田総合病院リハビリテーション課)

キーワード:脳卒中, リーチ, 歩行

【はじめに,目的】
歩行は日常生活において頻繁に用いられる移動手段のひとつであり,歩行に関する研究は散見される。これらの研究では転倒の予測として動的バランスとの関係性を示唆する内容も多い。Shumway CookらはTUGにおける転倒予測のカットオフとして13.5秒と報告している。また動的バランスの指標のひとつに前方へのリーチ動作であるFunctional Reach(以下:FR)がある。FRは信頼性が高く,歩行にとの関連性が示されている。加えて歩行では側方への重心移動も必要な一要因であり,近年では反復したリーチ動作能力における報告もみられている。しかし,反復リーチ動作を含めた各種リーチ動作能力と歩行能力に関する報告は少ない。そこで,本研究はTimed Up and Go test(以下:TUG)における各種リーチ動作との関係性を検討した。また,TUGのカットオフから各種リーチ動作の比較を行った。
【方法】
対象は病棟内歩行が介助なしで可能な,初発脳卒中片麻痺患者38名とした。平均年齢は66.7±9.8歳,対象の内訳は男性27名,女性10名である。また麻痺側による内訳では右麻痺は13名,左麻痺は25名である。整形外科的疾患,既往歴に脳卒中もしくは初発での発症で高次脳機能障害を有するものは除外した。本研究では補装具の使用は認めた。評価項目は下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下:下肢BRS),TUG,FR,30秒間FR反復回数,側方リーチ距離,30秒間側方リーチ反復回数の計6項目とした。TUGは座面の高さが45cmの椅子の背もたれに寄り掛かった肢位から開始した。開始の合図で起立し,3m先にある目印を回って着座するまでの時間を快適歩行速度で計測した。方向転換は非麻痺側下肢が軸となる方向とした。FRならびに側方リーチ動作は最大リーチ距離および30秒間反復回数を計測した。FRは立位にて実施した。開始肢位は非麻痺側肩関節屈曲90°,肘関節伸展,前腕回内,手指伸展位とした。動作時は,手指を見てもらい体幹の過度な屈曲および回旋は禁じ両足底接地位にて計測した。側方リーチもFR同様に立位にて実施した。開始肢位は非麻痺側肩関節外転90°,肘関節伸展,前腕回内,手指伸展位とした。動作時,頭部の非麻痺側への回旋は認めたが胸郭は可能な限り水平位に保持してもらい,FR同様手指を見てもらい両足底接地位にて計測した。最大リーチ距離は開始肢位とリーチ肢位における第3指の移動距離とした。また30秒間反復回数は最大リーチ距離の地点において目印となるものを用意し,30秒間それに触れる課題を実施した。その際30秒間において開始肢位とリーチ肢位が繰り返され,かつ目印となるものを触れた回数を計測した。下肢BRSを除く5項目は無作為にて順序を決定し,2回の計測の平均を代表値とした。統計解析はTUGと各リーチ動作の関係をピアソンの積率相関係数で検討した。またTUGの値を13.5秒で自立群および非自立群の2群に分類し,対応のないt検定を用い検討を行った。なお,各々有意水準は5%未満とした。
【結果】
本研究において下肢BRSでの内訳はstageIV:8名,stageV:17名,stageVI:13名であった。またTUGにおけるカットオフで2群に分けた際,自立群は21名で非自立群は17名であった。TUGと各リーチ動作との関係ではFRおよび側方リーチ距離では5%水準で,30秒間FR反復回数および30秒間側方リーチ反復回数では1%水準で相関がみられた。また対応のないt検定では,各リーチ動作にて2群間に有意差が認められた。特に自立群は非自立群と比較し,全てのリーチ動作において有意な増加が認められた。
【考察】
歩行は一般に前方および側方への身体重心制御の変化に関与する。本研究では前方のみならず,側方への反復した身体重心制御が歩行能力に影響すると示唆された。また,非自立群では特に反復回数が有意に少ない結果であった。反復したリーチ課題では開始肢位からリーチ肢位へ,またリーチ肢位から開始肢位に戻るとともに同一動作を複数回行わなければならない。そのため反復した回数が多い程,身体重心制御の変化に対し反復動作が円滑に行えると考えられる。重心移動能力および姿勢修正能力では転倒恐怖感や生活活動量と関係が強いとの報告もある。過去に転倒経験があり,日常生活において活動量が低いと反復した動作遂行が困難であると推察される。このことから,反復した動作が歩行自立可否における一要因の可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
先行研究では反復したリーチ動作および歩行能力を検討した報告は少ない。本研究では脳卒中患者のリーチ動作から,転倒予測にて歩行自立可否を検討する上での一助になるのではないかと考える。