第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0266] 下垂足を呈する回復期脳梗塞患者に対し歩行神経筋電気刺激を4週間継続した症例

小山貴之, 照喜名将吾, 河上智, 飯尾晋太郎 (浜松市リハビリテーション病院)

Keywords:機能的電気刺激, 片麻痺, 歩行練習

【はじめに,目的】
機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation;以下FES)を用いた治療は,脳卒中治療ガイドライン2009にて推奨グレードB,理学療法診療ガイドライン(第1版)で推奨グレードBとされ,脳卒中片麻痺患者の歩行障害に対する治療法として効果が示されている。歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイド®(帝人ファーマ社製;以下ウォークエイド)は装着者の歩行パターンに合わせた電気刺激が可能な装置であり,腓骨神経への電気刺激によって歩行中の足関節背屈を補助し,下垂足・尖足患者への歩行改善効果が期待されている。
G.Morone(2012)らは亜急性期脳卒中患者20名を対象にウォークエイドを使用した無作為化比較試験を行なっており,週5回4週間の介入で10m歩行速度に有意な改善が得られたと報告している。しかし,本邦では臨床研究が始まった段階であり,治療効果の報告は少なくエビデンスに乏しいのが現状である。
今回,リハビリテーション病院に入院された発症後約1ヶ月の脳梗塞患者に対し,通常の理学療法に加え週5回4週間のウォークエイド治療を行った。治療を継続することで歩行能力の改善を認めたため,その結果を報告する。
【方法】
症例は50代男性,右上肢の脱力を自覚し急性期病院受診。MRIにて左放線冠の新規脳梗塞(BAD-type)と診断。同日,完全麻痺まで進行するも,その後,徐々に麻痺は改善。発症から27病日に,当院リハビリテーション病院へ転院となった。転院時,起居移乗動作は自立,歩行はT字杖を使用して屋内見守りで可能であったが,右遊脚期に分回し及び足関節下垂足を認めHeel contactの消失がみられた。Br.Stage右上肢II手指II下肢IV,表在感覚は左右差なく深部感覚は軽度鈍麻,modified Ashworth Scale(以下MAS)は右下腿三頭筋・後脛骨筋1+と軽度の亢進を認め,足関節背屈可動域(右/左)膝伸展位5°/10°であった。
ウォークエイドを用いた歩行練習は発症後39病日から開始し,通常理学療法(40~60分/日)に加え20分間行い,週5回,4週間継続した。評価は1週間毎に実施し,Br.stage,Fugl-Meyer(下肢),足関節背屈可動域,足関節背屈筋力バランス能力の指標として前後左右の最大重心移動範囲で作る矩形面積,6分間歩行,10m最大速度歩行を計測した。10m最大速度歩行は,即時的な治療効果を検証するためにウォークエイド治療前後で1回毎に測定し,全20回の記録を対応のあるt検定(危険率0.05)で比較検証した。尚,筋力はミュータス(アニマ社製)を用いて測定し,3回の平均値を算出した。矩形面積はパナソニック社製のデジタルミラーを使用し立位にて計測した。
【結果】
4週間の治療により,Br.stageは変化なく,Fugl-meyer(下肢)は治療開始前25/34点から4週後27/34点へとはわずかな改善が認められた。麻痺側足関節背屈筋力は,治療開始前1.2N(非麻痺側6.5N)から1週後1.7N(6.1N)・2週後3.6N(6.4N)・3週後4.1N(6.4N)・4週後4.5N(6.2N)と改善し,最大重心移動範囲で作る矩形面積は治療開始前73.7cm2から1週後133.6cm2・2週後167.1cm2・3週後186.6cm2・4週後216.2cm2へと増大した。6分間歩行距離は治療開始前195mから1週後237.5m・2週後227.5m・3週後237.5m・4週後252.5mへと向上した。10m最大速度歩行(所要時間・歩数)は,治療開始前14.4秒(24歩)から1週後9.8秒(19歩)・2週後9.6秒(20歩)・3週後7.4秒(18歩)・4週後7.1秒(20歩)と歩行速度・歩行率に改善がみられ,全20回の治療前後での比較においても治療前9.4±1.8秒・治療直後9.0±1.3秒(p<0.05)と有意差が認められた。
【考察】
今回,通常の理学療法に加えウォークエイドを使用した歩行練習を4週間継続することで麻痺側遊脚時の足関節内反尖足が改善し歩行能力の改善がみられた。これは,ウォークエイドを用いた歩行練習を行う事で足関節背屈筋力の向上し,また,歩行時に適切なタイミングで筋収縮の学習がなされたことに起因すると考えた。本症例の経過を追うことで,回復過程の時期にウォークエイド治療を併用することで治療効率を高められる可能性が示唆された。今後,症例数を増やすことでウォークエイドによる治療効果を多角的に評価・分析する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
1症例を通して4週間毎日10m歩行の定量評価を行うことで,ウォークエイドの使用による治療効果が示された。下垂足に対する治療方法として,手術・装具処方に加え,選択肢の1つとして検討出来るのではないか。