第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法6

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0273] 急性期脳卒中片麻痺患者における視覚的フィードバックが動的座位バランス機能に及ぼす影響

森公彦1, 大畑光司2, 脇田正徳1,2, 有馬泰昭1, 山上菜月3, 金光浩1, 長谷公隆1 (1.関西医科大学附属枚方病院, 2.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 3.藤田保健衛生大学病院)

キーワード:脳卒中, 座位, 視覚的フィードバック

【はじめに,目的】急性期脳卒中片麻痺患者における動的座位保持能力は,日常生活動作の獲得に重要である。脳卒中片麻痺患者の座位バランス機能は,視覚や体性感覚の重要性が報告されており,不安定な床面による体性感覚情報の変化や閉眼による視覚情報の遮断は身体動揺を増大させる。高齢者や下肢切断者において鏡の使用により身体情報を視覚的にフィードバックすることで,立位時の側方不安定性が減少することが報告されている。また,脳卒中片麻痺患者では座圧中心(COP)の視覚的フィードバック(VFB)によって静的座位の安定性が向上することが報告されている。しかし,座位保持が重要な課題となる急性期脳卒中片麻痺患者において随意的に行われる体幹側方傾斜運動の制御がVFBによりどのように変化するかは明らかにされていない。本研究の目的は,VFBが急性期脳卒中片麻痺患者の動的座位バランス機能に及ぼす影響を調査することである。
【方法】対象は,急性期脳卒中片麻痺患者13名(右片麻痺8名,左片麻痺5名,平均年齢66.5±16.0歳,発症平均期間16.0±16.7日)とした。測定項目は,端座位でのCOP側方偏位量,体幹・下肢筋活動,身体機能とした。測定課題は,重心動揺計(アニマ社製,グラビコーダGP-620)を用いてプレート上での安定静止座位を開始肢位とし,対象者に上下肢で支持することなく麻痺側および非麻痺側に随意的に体幹をできる限り傾斜させて5秒間保持させた。この課題を全身が投映される鏡を用いて視覚的フィードバックを付加する条件(VFBあり)と視覚的フィードバックを付加しない条件(VFBなし)の2条件で実施した。重心動揺計から求められる開始肢位から安定した最大側方傾斜肢位までのCOP移動距離をCOP偏位量とし,身長で補正した。VFBありとVFBなしでのCOP偏位量の差を変化量として求め,VFBありでCOP偏位量が増加する場合を正とした。体幹・下肢筋活動の測定では,表面筋電図(Noraxon社製,Tele MyoG2およびDELSYS社製,Trigno Wireless Systems)を用いて,両側外腹斜筋,多裂筋,大腿筋膜張筋,大腿直筋の8筋を対象とした。筋電図解析は,フィルター処理と整流化を行い,VTRで最大傾斜中の2秒間の筋活動平均値を算出した。身体機能は,下肢機能としてFugl-Meyer Assessment(FMA)の運動項目(FMA運動)と感覚項目(FMA感覚)および合計点(FMA合計),座位での体幹機能としてTrunk Impairment Scale(TIS)を用いて測定した。麻痺側,非麻痺側傾斜時のCOP偏位量および体幹・下肢の筋活動における,VFBありとVFBなしの差をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。VFBによるCOP変化量と身体機能の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】対象者の身体機能の平均は,FMA合計31.2±13.3,FMA運動22.5±10.6,FMA感覚8.6±3.7,TIS15.5±5.8であった。COP偏位量はVFBによって麻痺側,非麻痺側ともに有意な変化を認めなかったが,非麻痺側には増加傾向を示した(p=0.086)。VFB付加による非麻痺側COP変化量は,FMA合計(r=0.59,p<0.05),FMA感覚(r=0.70,p<0.01)と有意な正の相関関係を認めたが,FMA運動(r=0.44),TIS(r=0.24)とは有意な関連を認めなかった。VFB付加による麻痺側COP変化量は,身体機能と有意な関連を認めなかった。体幹傾斜時のVFBによる筋活動の変化では,非麻痺側傾斜に対する麻痺側大腿筋膜張筋の筋活動のみ有意に増加した(p<0.05)。
【考察】急性期脳卒中片麻痺患者では,麻痺側下肢の感覚機能が高い症例でVFBによって重心を非麻痺側へより偏位させられた。さらに,体幹傾斜を制御するためには,方向特異的に傾斜と反対側の体幹・下肢筋活動を高める必要があるが,中でも非麻痺側傾斜時の麻痺側大腿筋膜張筋の筋活動がVFBによって高まることが明らかとなった。これは,VFBによって視覚と体性感覚の統合が可能となり,麻痺側大腿筋膜張筋の筋活動を高められた結果として非麻痺側へのCOPは増加傾向を示したと示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究により,脳卒中片麻痺患者の動的座位バランス機能に影響を与えるVFBおよびその基盤となる身体機能と体幹・下肢筋活動パターンとの関連性が明確になった。特に,VFBを用いた非麻痺側傾斜の制御に麻痺側の感覚が影響することは,急性期脳卒中片麻痺患者の座位バランス機能の改善において重要な情報を提供するものと考えられる。