第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

地域理学療法5

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0324] Bedridden patientsに対する運動療法はIL-15を上昇させる

壹岐英正1,2, 山田晃司2,3, 寺西利生2,3, 冨田昌夫2, 渡邊靖之1, 澤俊二2,3 (1.医療法人瑞心会渡辺病院リハビリテーション科, 2.藤田保健衛生大学大学院保健学研究科リハビリテーション学領域, 3.藤田保健衛生大学医療科学部)

キーワード:寝たきり, 運動療法, 肺炎予防

【はじめに,目的】寝たきり者(Bedridden patients:以下Brp)は医療・介護関連肺炎に罹患しやすい。その感染対策として,宿主の免疫能向上が急務である。ところで適度な運動が免疫能を向上させる報告は多いが,Brpに対する報告はない。そこでBrpに対する運動療法の免疫応答について明らかにすることを目的とした。

【方法】対象は,老人保健施設を利用しており,脳血管疾患発症後6ヶ月以上を経過した10名とした。なお対象者の選定条件は,1)日常生活活動がFunctional Independence Measureの運動項目が全て1点であること,2)離床時間が週20時間以内であること,3)経管栄養を主な栄養摂取方法としていることの3点とした。
運動療法の方法は,坐位および臥位での下肢屈伸運動を自動介助運動で行った。運動負荷量は,「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012)」による中等度の負荷であるkarvonenの係数0.4として算出し処方脈拍数を設定した。なおバイタルサインの測定は,運動療法開始前,坐位での運動中,臥位での運動中,運動終了後5分の時点で測定した。運動療法実施時間は約20分とし,実施時刻は,実施前後の測定に影響する因子が少ない時刻帯として,午前9時前後に実施した。
免疫応答として,炎症関連サイトカインであるIL-6,IL-8,IL-10,IL-15についてELISA法を用い,その発現量を定量化した。検体は唾液サンプルを用いた。なお唾液での免疫応答測定の妥当性については,我々の報告(壹岐ほか2014)で確認している。検体は,スポンジを舌下へ1分以上挿入し採取した。採取頻度は,サイトカインの発現時間を考慮し,開始前,介入30分後,1時間後,3時間後とした。
効果判定として,血圧,脈拍,および呼吸数の変動を,介入前,坐位5分時,臥位5分時,終了5分後について比較検討した。また各サイトカインについて,介入前を基準とした変化量を,介入30分後,1時間後,3時間後各々について比較検討した。なお統計学的事項として,正規分布する場合は球形性の検定を行い,分散分析による有意差を認めた場合Bonfferoni法による対応のあるt検定を行った。正規分布しない場合はFreadmanの検定を行った。なお統計解析にはIBM SPSS Statistics 22.0を用い,有意水準を5%未満とした。

【結果】運動療法によるバイタルサインの変化について,血圧に有意な変動は見られなかった。脈拍は介入前および終了後と比較し,坐位5分時に有意な上昇を認めた(p<0.05)。しかし処方脈拍数には達しなかった。また呼吸数は介入前および終了後と比較し,坐位5分時および臥位5分時で有意な上昇を認めた(p<0.05)。
免疫応答は,IL-6,IL-8,IL-10について,時間毎の有意差は認めなかった。しかしIL-15は開始前と比較し,3時間後において有意な上昇を認めた(p<0.05)。

【考察】運動療法の負荷量について,今回の介入では処方脈拍数に達しなかった。これは対象者の随意性の低さから十分な負荷が得られなかったためと考えられる。しかし坐位5分時において,脈拍と呼吸数は介入前および介入後と比較して有意な上昇を得た。つまりBrpにおける坐位で自動介助運動は,負荷量は少ないが有意な心拍変動を得られることがわかった。また今回の介入において,リハビリテーション医学会が定めた「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」(2006)に抵触する事例がなかったことからも,Brpに対する運動療法の有効性を示すことができる。
次に免疫応答について,IL-15において開始前と比較し3時間後において有意な上昇を認めた。IL-15はインターフェロンγ産生能をもつCD8+T細胞を増殖させることから,細菌感染時の菌排除に関与する。つまり医療・介護関連肺炎予防としての免疫力向上に関与する可能性を示唆すると考えられる。以上よりBrpに対する運動療法は,医療・介護関連肺炎の予防に関与する可能性を示唆することが考えられる。
今後は今回測定したIL以外のサイトカインについて網羅的解析を行い,医療・介護関連肺炎予防に関連する物質を詳細に分析するとともに,対象数を増加し,効果の一般化を図りたいと考える。

【理学療法学研究としての意義】本邦の高齢化に伴い,Brpの増加は容易に予想される。Brpに対する運動療法が医療・介護関連肺炎を予防する可能性を示すことは重要である。