[P1-B-0342] 男性慢性閉塞性肺疾患患者のバランス能力に関する研究
~COPD総合評価別の差異に着目して~
Keywords:慢性閉塞性肺疾患, COPD総合評価, バランス能力
【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,様々な炎症性サイトカインにより,全身症状を伴う疾患であることは周知のとおりである。その影響として,特異的な筋委縮の進行や,転倒リスクの増加などがあり,それに伴うCOPD患者のバランス能力に着目することは重要である。しかし,COPD診療においてバランス能力が評価される機会は少なく,COPD患者のバランス能力に関する先行研究はまだまだ少ない現状にある。これまで,我々は,Global initiative for chronic obstructive lung disease(GOLD)の病期別に,バランス能力の差異について検証し,病期進行とともにバランス能力が低下することを報告してきた。
本研究の目的は,2011年に発表されたCOPD総合評価(グレード分類)別にCOPD患者のバランス能力,身体能力の差異について検証することとした。
【方法】
研究デザインは,診療記録を用いた多施設共同横断研究とし,研究セッティングは,「NPO法人はがくれ呼吸ケアネット」登録施設リハビリテーション室とした。
対象は,病状安定期の男性COPD患者124名(年齢73.2±8.8歳,%FEV155.7±23.2%)とした。除外対象は,重篤な内科的合併症の有する者,歩行に支障をきたすような骨関節疾患,脳血管疾患を有する者,著明な認知症を有する者,測定データの公表に同意が得られなかった者とした。
主要指標は,バランス能力の指標として片脚立脚時間,Timed Up and Go Test(TUG)とし,副次指標は,呼吸機能(FVC,%FVC,FEV1,%FEV1,FEV1.0%),呼吸筋力(MIP,MEP),握力,膝伸展筋力,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),6分間歩行距離(6MWD),漸増シャトルウォーキング距離(ISWD),長崎大学呼吸ADL質問票(NRADL),健康関連QOL(St George’s Respiratory Questionnaire;SGRQ)とした。
統計学的分析方法として,グレード分類別のTUG,片脚立位時間の差の検定は,一元配置分散分析で検定し,Post-hoc検定としてTukey検定を用いて分析した。また,サブ解析として,バランス能力と身体能力との関係を,ピアソンの積率相関係数を用いて分析した。なお,統計学的有意水準は5%とし,相関係数0.4未満は棄却した。統計解析ソフトは,SPSS version20(Windows版)を使用した。
【結果】
グレード分類別では,グループAが32名,グループBが37名,グループCが7名,グループDが48名であった。各グループ間のバランス能力の差は,片脚立位時間,TUGが,グループAに対してグループB(p<0.01,p<0.01),グループD(p=0.01,p=0.03)で有意に低下していた。
次に,バランス能力と身体機能,身体能力の関係では,片脚立位時間,TUGと,MEP(r=0.40 p<0.001,r=-0.43 p<0.001),握力(r=0.40 p<0.001,r=-0.49 p<0.001),膝伸展筋力(r=0.45 p<0.001,r=-0.47 p<0.001),CS-30(r=0.56 p<0.001,r=-0.67 p<0.001),6MWT(r=0.56 p<0.001,r=-0.66 p<0.001),ISWT(r=0.57 p<0.001,r=-0.66 p<0.001),との間に有意な相関を認めた。また,TUGと,MIP(r=-0.44 p<0.001),NRADL(r=-0.59 p<0.001)に有意な相関を認めた。しかし,片脚立位時間とMIP,NRADL,SGRQ,TUGとSGRQとの間に有意な相関は認めなかった。
【考察】
グレード分類とCOPD患者のバランス能力ではグループAに対して,グループB・Dで有意に低下していた。COPDでは閉塞性換気障害と,呼吸困難感の最大要因である肺の過膨張が起こり,横隔膜は平坦化する。最近の研究で,横隔膜や腹横筋は体幹の安定化と呼吸の維持を図る二つの作用を持つことが明らかにされており,姿勢制御機構としての呼吸筋の役割についての重要性が報告されている。横隔膜の平坦化という病態から横隔膜などのlocal muscleの機能低下が生じ,バランス能力の低下へと繋がったのではないかと考える。また,COPD患者のバランス能力は運動耐容能との関係性も示唆された。最後に本研究の限界として,グループCの対象数が7名と少なかったことから,解析精度に疑問が生じること,身体活動量に関する測定指標が含まれていなかったことが考えられる。
【理学療法研究としての意義】
本研究は,男性COPD患者のグレード分類別にバランス能力を明確にする事ができた研究となった。このことは,COPD患者の転倒のリスク管理,理学療法プログラム立案など臨床的にも有益と考える。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,様々な炎症性サイトカインにより,全身症状を伴う疾患であることは周知のとおりである。その影響として,特異的な筋委縮の進行や,転倒リスクの増加などがあり,それに伴うCOPD患者のバランス能力に着目することは重要である。しかし,COPD診療においてバランス能力が評価される機会は少なく,COPD患者のバランス能力に関する先行研究はまだまだ少ない現状にある。これまで,我々は,Global initiative for chronic obstructive lung disease(GOLD)の病期別に,バランス能力の差異について検証し,病期進行とともにバランス能力が低下することを報告してきた。
本研究の目的は,2011年に発表されたCOPD総合評価(グレード分類)別にCOPD患者のバランス能力,身体能力の差異について検証することとした。
【方法】
研究デザインは,診療記録を用いた多施設共同横断研究とし,研究セッティングは,「NPO法人はがくれ呼吸ケアネット」登録施設リハビリテーション室とした。
対象は,病状安定期の男性COPD患者124名(年齢73.2±8.8歳,%FEV155.7±23.2%)とした。除外対象は,重篤な内科的合併症の有する者,歩行に支障をきたすような骨関節疾患,脳血管疾患を有する者,著明な認知症を有する者,測定データの公表に同意が得られなかった者とした。
主要指標は,バランス能力の指標として片脚立脚時間,Timed Up and Go Test(TUG)とし,副次指標は,呼吸機能(FVC,%FVC,FEV1,%FEV1,FEV1.0%),呼吸筋力(MIP,MEP),握力,膝伸展筋力,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),6分間歩行距離(6MWD),漸増シャトルウォーキング距離(ISWD),長崎大学呼吸ADL質問票(NRADL),健康関連QOL(St George’s Respiratory Questionnaire;SGRQ)とした。
統計学的分析方法として,グレード分類別のTUG,片脚立位時間の差の検定は,一元配置分散分析で検定し,Post-hoc検定としてTukey検定を用いて分析した。また,サブ解析として,バランス能力と身体能力との関係を,ピアソンの積率相関係数を用いて分析した。なお,統計学的有意水準は5%とし,相関係数0.4未満は棄却した。統計解析ソフトは,SPSS version20(Windows版)を使用した。
【結果】
グレード分類別では,グループAが32名,グループBが37名,グループCが7名,グループDが48名であった。各グループ間のバランス能力の差は,片脚立位時間,TUGが,グループAに対してグループB(p<0.01,p<0.01),グループD(p=0.01,p=0.03)で有意に低下していた。
次に,バランス能力と身体機能,身体能力の関係では,片脚立位時間,TUGと,MEP(r=0.40 p<0.001,r=-0.43 p<0.001),握力(r=0.40 p<0.001,r=-0.49 p<0.001),膝伸展筋力(r=0.45 p<0.001,r=-0.47 p<0.001),CS-30(r=0.56 p<0.001,r=-0.67 p<0.001),6MWT(r=0.56 p<0.001,r=-0.66 p<0.001),ISWT(r=0.57 p<0.001,r=-0.66 p<0.001),との間に有意な相関を認めた。また,TUGと,MIP(r=-0.44 p<0.001),NRADL(r=-0.59 p<0.001)に有意な相関を認めた。しかし,片脚立位時間とMIP,NRADL,SGRQ,TUGとSGRQとの間に有意な相関は認めなかった。
【考察】
グレード分類とCOPD患者のバランス能力ではグループAに対して,グループB・Dで有意に低下していた。COPDでは閉塞性換気障害と,呼吸困難感の最大要因である肺の過膨張が起こり,横隔膜は平坦化する。最近の研究で,横隔膜や腹横筋は体幹の安定化と呼吸の維持を図る二つの作用を持つことが明らかにされており,姿勢制御機構としての呼吸筋の役割についての重要性が報告されている。横隔膜の平坦化という病態から横隔膜などのlocal muscleの機能低下が生じ,バランス能力の低下へと繋がったのではないかと考える。また,COPD患者のバランス能力は運動耐容能との関係性も示唆された。最後に本研究の限界として,グループCの対象数が7名と少なかったことから,解析精度に疑問が生じること,身体活動量に関する測定指標が含まれていなかったことが考えられる。
【理学療法研究としての意義】
本研究は,男性COPD患者のグレード分類別にバランス能力を明確にする事ができた研究となった。このことは,COPD患者の転倒のリスク管理,理学療法プログラム立案など臨床的にも有益と考える。