[P1-C-0159] Eccentric calf raise exerciseの運動力学的解析
キーワード:eccentric culf raise, 運動力学的解析, 足関節パワー
【はじめに,目的】
歩行中の下腿三頭筋は足関節を安定させ,身体重心を前方に移動する際に重要になる。PerryはこれをAnkle rockerと呼んでいる。またNeumannによると下腿三頭筋の筋力低下は,歩行時の踵離れの遅れの原因としている。下腿三頭筋の筋力低下に対する運動療法としてCalf raiseは臨床で多く用いられる。また工藤らは,背屈位から足関節底屈を行うEccentric calf raise(ECR)の筋動態は歩行時の筋動態と類似性が高いことを報告している。しかし,これらのトレーニングは負荷の設定が難しく,アキレス腱損傷や下腿三頭筋の肉離れなどの外傷後では,トレーニング開始時期が不明確である。そこで,本研究ではCalf raiseの運動力学的解析から,運動負荷を定量的に分析することを目的とした。
【方法】
対象は整形外科疾患のない健常成人33名(男25名,女8名,平均年齢24±5.8歳)とした。運動課題は股・膝関節を伸展位とし,足関節底背屈中間位から最大底屈運動を繰り返す運動をNormal calf raise(NCR),前足部のみを高さ6cmの段に乗せ,足関節背屈位から足関節最大底屈運動を繰り返す運動をECRとした。試行頻度は60bpmとして,メトロノームで管理した。直径15mmの反射マーカを両側肩峰,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭に貼付した。三次元運動解析システム(アニマ社製MA2000)とアニマ社製Force plateを同期し,NCRとECRを各10試行連続で行い,安定して試行できた3試行の分の足関節の角度,モーメント,パワーを計測した。なお足関節モーメントは対象者の身長と体重で正規化し,3施行分の足関節角度と足関節モーメント,足関節パワーのデータを加算平均した。さらに足関節モーメントと運動時間の力積(FTI)を算出し,NCRとECRの比較を行った。統計学的手法には,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
最大背屈角度はNCRで-8.1±4.8度,ECRで9.0±5.0度で有意差を認めた。足関節モーメントはNCR,ECRともに,運動中常に底屈モーメントが働き,NCRでは足関節最大背屈位で足関節モーメントが一旦減衰し,再度上昇するのに対して,ECRではその減衰が少なくなった。最大底屈モーメントは,NCRで0.8±0.1Nm/kg/m,ECRで0.9±0.1Nm/kg/mと有意差を認めた。FTIはNCRで1.0±0.2N・s/kg/m,ECRで1.2±0.2 N・s/kg/mとなり,有意差を認めた。また足関節パワーは下降運動時に負の値となり,挙上運動時に正の値を示した。足関節パワーの最小値はNCRで-0.5±0.2W/kg/m,ECRで-0.9±0.6W/kg/mとなり,有意差を認めた。
【考察】
ECRは足関節最大背屈角度が正の値となっており,背屈域での運動が生じていた。足関節モーメントは常に底屈モーメントが働いていたが,NCRでは最大背屈付近で,底屈モーメントが減衰するが,ECRでは減衰が少なかった。足関節底屈モーメントは底屈運動開始時に最大値を示し,ECRの方が大きい値を示した。ECRとNCRの足関節底屈モーメントは有意差を認めたが,先行研究による歩行中の足関節最大底屈モーメントは約0.8Nm/kg/mで,ほぼ同様の底屈モーメントが求められる。そのため,独歩可能となった時点から両運動は筋力トレーニングとして実施可能になる。一方,力積を分析すると,ECRはNCRの約1.2倍であり,運動負荷はECRの方が1.2倍強い負荷がかかっていることが示唆された。また,我々は先行研究によりECR中の底背屈0度を超えた背屈相では腓腹筋は等尺性収縮を示すことを報告している。本研究では先行研究と同様の設定として,運動力学的分析を行った。足関節パワーは底背屈0度を超えた背屈相では負のパワーを示している。つまり,足関節底屈筋が遠心性収縮をしていると考えられる。我々の先行研究のデータは超音波画像診断装置を用いて,筋線維束のみを観察している。本研究の運動力学的データは筋線維束に加えて,腱や筋膜を加えた骨格筋として検討している。つまり,筋線維束の長さが変わらず,筋膜などの非伸縮性要素が伸張されたと考えられる。またFukunagaらは歩行中の踵離れを行う際の腓腹筋の筋線維束が等尺性収縮となっていることを示している。我々は先行研究でECRがこの動態と近い動態を示すことを証明しており,今回,歩行中の最大底屈モーメントともほぼ同等の値を示すことが明らかになった。すなわち,歩行中の踵離れを促す運動療法としてはECRが有効と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
Calf raiseの運動力学的により,独歩可能時から運動療法として実施できることが明らかになった。
歩行中の下腿三頭筋は足関節を安定させ,身体重心を前方に移動する際に重要になる。PerryはこれをAnkle rockerと呼んでいる。またNeumannによると下腿三頭筋の筋力低下は,歩行時の踵離れの遅れの原因としている。下腿三頭筋の筋力低下に対する運動療法としてCalf raiseは臨床で多く用いられる。また工藤らは,背屈位から足関節底屈を行うEccentric calf raise(ECR)の筋動態は歩行時の筋動態と類似性が高いことを報告している。しかし,これらのトレーニングは負荷の設定が難しく,アキレス腱損傷や下腿三頭筋の肉離れなどの外傷後では,トレーニング開始時期が不明確である。そこで,本研究ではCalf raiseの運動力学的解析から,運動負荷を定量的に分析することを目的とした。
【方法】
対象は整形外科疾患のない健常成人33名(男25名,女8名,平均年齢24±5.8歳)とした。運動課題は股・膝関節を伸展位とし,足関節底背屈中間位から最大底屈運動を繰り返す運動をNormal calf raise(NCR),前足部のみを高さ6cmの段に乗せ,足関節背屈位から足関節最大底屈運動を繰り返す運動をECRとした。試行頻度は60bpmとして,メトロノームで管理した。直径15mmの反射マーカを両側肩峰,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭に貼付した。三次元運動解析システム(アニマ社製MA2000)とアニマ社製Force plateを同期し,NCRとECRを各10試行連続で行い,安定して試行できた3試行の分の足関節の角度,モーメント,パワーを計測した。なお足関節モーメントは対象者の身長と体重で正規化し,3施行分の足関節角度と足関節モーメント,足関節パワーのデータを加算平均した。さらに足関節モーメントと運動時間の力積(FTI)を算出し,NCRとECRの比較を行った。統計学的手法には,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
最大背屈角度はNCRで-8.1±4.8度,ECRで9.0±5.0度で有意差を認めた。足関節モーメントはNCR,ECRともに,運動中常に底屈モーメントが働き,NCRでは足関節最大背屈位で足関節モーメントが一旦減衰し,再度上昇するのに対して,ECRではその減衰が少なくなった。最大底屈モーメントは,NCRで0.8±0.1Nm/kg/m,ECRで0.9±0.1Nm/kg/mと有意差を認めた。FTIはNCRで1.0±0.2N・s/kg/m,ECRで1.2±0.2 N・s/kg/mとなり,有意差を認めた。また足関節パワーは下降運動時に負の値となり,挙上運動時に正の値を示した。足関節パワーの最小値はNCRで-0.5±0.2W/kg/m,ECRで-0.9±0.6W/kg/mとなり,有意差を認めた。
【考察】
ECRは足関節最大背屈角度が正の値となっており,背屈域での運動が生じていた。足関節モーメントは常に底屈モーメントが働いていたが,NCRでは最大背屈付近で,底屈モーメントが減衰するが,ECRでは減衰が少なかった。足関節底屈モーメントは底屈運動開始時に最大値を示し,ECRの方が大きい値を示した。ECRとNCRの足関節底屈モーメントは有意差を認めたが,先行研究による歩行中の足関節最大底屈モーメントは約0.8Nm/kg/mで,ほぼ同様の底屈モーメントが求められる。そのため,独歩可能となった時点から両運動は筋力トレーニングとして実施可能になる。一方,力積を分析すると,ECRはNCRの約1.2倍であり,運動負荷はECRの方が1.2倍強い負荷がかかっていることが示唆された。また,我々は先行研究によりECR中の底背屈0度を超えた背屈相では腓腹筋は等尺性収縮を示すことを報告している。本研究では先行研究と同様の設定として,運動力学的分析を行った。足関節パワーは底背屈0度を超えた背屈相では負のパワーを示している。つまり,足関節底屈筋が遠心性収縮をしていると考えられる。我々の先行研究のデータは超音波画像診断装置を用いて,筋線維束のみを観察している。本研究の運動力学的データは筋線維束に加えて,腱や筋膜を加えた骨格筋として検討している。つまり,筋線維束の長さが変わらず,筋膜などの非伸縮性要素が伸張されたと考えられる。またFukunagaらは歩行中の踵離れを行う際の腓腹筋の筋線維束が等尺性収縮となっていることを示している。我々は先行研究でECRがこの動態と近い動態を示すことを証明しており,今回,歩行中の最大底屈モーメントともほぼ同等の値を示すことが明らかになった。すなわち,歩行中の踵離れを促す運動療法としてはECRが有効と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
Calf raiseの運動力学的により,独歩可能時から運動療法として実施できることが明らかになった。