第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

スポーツ1

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0166] 予測条件の違いが片脚ジャンプ動作に与える影響

成功試技と失敗試技との比較

河内淳介1, 浅川大地2, 佐々木沙織1, 川越誠1, 坂本雅昭2 (1.せせらぎ病院附属あさくら診療所リハビリテーション科, 2.群馬大学大学院保健学研究科)

キーワード:ジャンプ, 予測条件, 失敗試技

【はじめに,目的】
スポーツによるACL損傷は着地後40ms以内で生じると報告されており,ジャンプやカッティング動作においては,適確なアライメントをフィードフォワード的に生成し,着地を迎える必要があると考えられる。先行研究において,予測条件の難易度の増加により,片脚ジャンプ時の体幹前傾・側屈角度が増加することを報告した。またこの角度変化は着地時に比べジャンプ前に著明で,ジャンプ前に崩れたアライメントをジャンプ中に修正している可能性が示唆された。一方,着地に失敗した試技では,この修正が不十分であった可能性がある。そこで本研究では,予測条件の違いが片脚ジャンプ時の体幹アライメントに与える影響について,成功試技と失敗試技との比較を行うことを目的とした。
【方法】
測定対象は健常男性20名(平均年齢21.6±1.0歳)とした。開始姿勢は両上肢を腰に当て,利き足を支持側とした片脚立位とした。非支持側の下肢は膝関節軽度屈曲位とした。運動課題として左右への片脚ジャンプ・着地を行った。ジャンプ距離は身長の40%とし,着地地点にテープで枠を示し,その枠内に着地した。予測条件は,ジャンプ開始までのカウント,ジャンプ方向の事前指示の有無の2点とし,カウント・方向指示あり(条件1),カウントなし・方向指示あり(条件2),カウント・方向指示なし(条件3)の3条件とした。試技は各条件において対側方向への成功試技が3回となるまで実施し,その間に3回以上失敗試技があった者を解析対象とした。失敗試技の定義は,着地後3秒間姿勢を保持できなかったもの,示した枠内から足部が外れて着地したもの,着地後足部が移動したもの,手が腰から離れたものとした。ランドマークは両側の肩峰前方,上前腸骨棘,支持側の肩峰側方,大転子,膝関節外側裂隙とした。ハイスピードカメラ(サンプリング周波数:120Hz)で側方と前方より動作の撮影を行い,得られた画像からジャンプ前膝関節最大屈曲時,足尖離地時,足尖接地時の3時期で体幹前傾角度,体幹側屈角度を計測した。統計学的解析にはSPSS21.0を使用し,各条件の測定時期毎に,成功試技と失敗試技間の体幹角度を対応のあるt-testにて比較した。有意確率は5%未満とした。
【結果】
測定対象20名中,本研究の解析対象は条件1が3名,条件2が4名,条件3が4名であった。失敗理由の割合は,着地後3秒間姿勢を保持できなかったものが70%,着地後足部が移動したものが21%,枠内に着地できなかったものが10%であった。体幹前傾角度では,成功試技と失敗試技間で有意差は認められなかった。体幹側屈角度では,条件3において,失敗試技が成功試技に比べ大きくなる傾向があり,ジャンプ前膝関節最大屈曲時(p<0.01),足尖離地時(p<0.05)においてそれぞれ有意差が認められた。
【考察】
今回の結果から,予測条件の難易度の増加によるジャンプ前の体幹側屈角度の増加が,着地動作の成否に影響を与えている可能性が示唆された。一方,接地時には有意差がみられないことから,失敗試技においても,ジャンプ前の体幹側屈はジャンプ中に修正されていると考えられるが,結果的に失敗試技となっている。本研究における動作課題の失敗理由は着地後に3秒間姿勢を保持できなかったものが多くを占めており,その大半がジャンプ方向である非支持側へバランスを崩していた。このことは支持側へ傾斜した体幹をジャンプ中に修正する過程において非支持側への体幹の加速度が増加し,それを着地後に制御できなかった可能性を示唆している。今後はジャンプ前の体幹側屈とジャンプ中あるいは着地後の体幹加速度の関連,その際の運動課題の成否を調べることで,仮説の検証が可能であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において,予測条件の難易度の増加によるジャンプ前のアライメントの崩れが,着地動作の成否に影響を与える可能性が示唆された。今後,動作前の姿勢制御やその修正過程における他要因との関連を検討していくことで,スポーツ場面におけるACL損傷リスクの評価や予防プログラム立案の一助となると考える。