第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法3

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0252] 脳卒中後片麻痺者の機能評価と屋外歩行能力の獲得状況

―障害者支援施設における入所者について―

藤井智, 松葉貴司, 田邊侑佳, 山下智子 (横浜市総合リハビリテーションセンター)

キーワード:脳卒中, 機能評価, 実用歩行

【はじめに,目的】
当センター障害者支援施設では,障害者に対して社会参加の具体化,単身生活の準備などを目標に,理学療法士を含むリハビリテーションチームにより生活能力の維持向上を図るためのプログラムを提供している。屋外歩行能力の向上は,障害者の自立のためには必要な要件となっており,実用的な移動能力の分類はリハビリテーションプログラムにおける目標設定,評価尺度として重要である。今回,理学療法を実施した障害者支援施設の入所者について,小林らが作成した「実用的歩行能力分類」を用いて退所時の歩行能力について調査し,この分類の有用性について若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は,障害者支援施設の入所者のうち,平成25年4月~H26年9月の間に退所した脳卒中片麻痺者で,入所時に,装具・杖の使用の有無を問わず屋内10m歩行が監視又は自立している26人(男22人,女4人)である。平均年齢44.8±7.5歳,右片麻痺10人,左片麻痺16人,平均羅患期間8.1±2.0ヶ月で,Barthel Index得点は,平均82.3±7.4点,平均入所期間は6.1±2.5ヶ月であった。これらの対象者について,「実用的歩行能力分類」を用いて「下肢Br. Stage」,「10m最大歩行速度」,「6分間歩行距離」,「最大一歩」,「サイドステップ数」,「膝伸展筋力」,「片脚立位時間」を記録より後方視的に調査した。「実用的歩行能力分類」は,class0が「歩行不能」,class1が「介助歩行」,class2が「平地・監視歩行」,class3が「屋内・平地自立」,class4が「屋外・近距離自立」,class5が「公共交通機関限定自立」,class6が「公共交通機関自立」である。
【結果】
入所時の「実用的歩行能力分類」は,class2が14人,class3が8人,class4が4人で,退所時は,class3が6人,class4が5人,class5が4人,class6が11人と,全員が1段階以上の改善を示していた。「下肢Br. Stage」は,IIIが19人,IVが6人,Vが1人で,入退所時で変化があったのは1人のみであった。以下に退所時の身体機能をclass分類別に示す。「10m最大歩行速度」は,class3は22.3±5.7秒,class4は35.0±16.8秒だが,class5は9.9±3.0秒,class6は9.7±1.9であった。「6分間歩行距離」でも,class3は148.9±35.6m,class4は187.5±47.8mだが,class5は333.2±74.6m,class6は341.9±76.2mであった。「最大一歩」は,class3は麻痺側先行60.4±14.7cm,非麻痺側先行54.8±10.6cm,class4は麻痺側先行56.0±17.2cm,非麻痺側先行53.4±17.6cmだが,class5は麻痺側先行78.2±15.4cm,非麻痺側先行70.4±8.8cm,class6は麻痺側先行77.2±15.1cm,非麻痺側先行80.4±1.8cmであった。「サイドステップ数」は,class3が3.5±2.3回,class4が3.4±1.3回だが,class5は8.0±1.4回,class6は8.4±2.6回であった。「膝伸展筋力」の平均は,麻痺側が0.2±0.1kgf/kg,非麻痺側が0.6±0.1kgf/kgで,「片脚立位時間」の平均は,麻痺側が0.8±0.9秒,非麻痺側が32.1±22.7秒だが,class毎の明確な違いはみられなかった。
歩行練習の持続的距離は,class6が2km以上であるのに対し,class5が1~2km,class4が0.5~1km,class3が0.5km未満といった傾向であった。class5以下では,高次脳機能障害などの理由で,移動に制約を受ける人が66.7%を占めていた。
【考察】
今回,障害者支援施設の脳卒中片麻痺者について「実用的歩行能力分類」を用いて,退所時の歩行状況と身体機能を調査した。
小林らは,classが高いほど「10m最大歩行速度」と「6分間歩行距離」の能力は高くなるが,class5とclass6の差は小さいと報告している。今回の調査でも,同様な傾向がみられたが,公共交通機関を利用するclass5,6と屋外歩行のみに留まるclass4との間では,「最大一歩」や「サイドステップ数」でも差が生じることが新たな要素として分かった。公共交通機関の利用では,駅構内でエスカレーターへの乗降に一歩足を踏み出す力や,ホームなどで人を避けながら歩く俊敏力などが求められるため,高い値を示していたと思われる。
また,class6における歩行練習の距離から,公共交通機関の利用には,2km以上の持続性が必要なことが示唆された。したがって,日々の運動の中に,ある程度連続した歩行距離を設ける視点も大切だと考える。
さらにclass分類には,高次脳機能障害や意欲も影響を受けていたため,これらの要素の客観的評価を加えていくことも重要だと考える。
【理学療法学研究としての意義】
慢性期脳卒中片麻痺者の実用的歩行能力の向上に関する機能評価とその有用性を検討する材料となる。