第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

地域理学療法4

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0310] 要介護高齢者の身体活動量に関する研究の動向と課題

光武誠吾1,2, 髙木英雄1 (1.介護老人保健施設杜の街リハビリテーション部, 2.早稲田大学スポーツ科学研究センター)

キーワード:身体活動量, 介護予防, 三次予防

【はじめに,目的】介護予防は,元気高齢者を対象とする一次予防や要介護の高リスク者を対象とする二次予防だけでなく,要介護者の重度化を予防する三次予防も充実させる必要性が高い。健康日本21(第2次)では高齢者の身体活動・運動対策の目標として,歩数の増加といった日常の身体活動量の増加が掲げられている。身体活動量の増加は,健康寿命の延伸や非感染症疾患の予防,社会生活機能の維持・増進を促す効果が認められており,身体活動量の増加を目指して心理的,環境的な介入が検討されている。本研究では,身体活動量に着目した三次予防対策を検討するため,要介護高齢者や施設入所高齢者の身体活動量を対象とした研究を既観し,課題を特定することを目的とした。
【方法】理学療法士4名のフォーカスグループを構成し,検索式の検討や論文の精査を実施した。日本語文献の検索には,医学中央雑誌(医中誌)を用い,検索式を「(“高齢者”/TI and“身体活動量”/TI)and(PT=会議録除く)」とした。英語文献の検索には,米国国立医学図書館が提供する文献データベースMEDLINEを用い,検索式を「(“physical activities”[Title]AND“elderly"[Title])OR(“physical activities”[Title]AND“older adults”[Title])OR(“physical activities”[Title]AND“aged”[Title])」とした。いずれのデータベースも2014年10月15日を最終検索日とした。採択基準は,①英語か日本語,②要介護高齢者もしくは施設入所高齢者を対象とする,③身体活動量を評価している,④査読付き掲載論文,とした。医中誌では41件,MEDLINEでは25件が検出され,重複していた論文は0件だったため,合計で66件の論文について検討した。フォーカスグループのメンバーがそれぞれ別にタイトルと抄録から論文の精査を行った上で,採択論文について議論した。採択基準をすべて満たした7件(医中誌:6件,MEDLINE:1件)を対象とし,本文の内容を精読した。
【結果】対象者の身体活動量自体の調査を目的とした研究が3件,他の健康項目との関連を検討した研究が2件,身体活動量の評価方法の開発に関する研究が1件,身体活動量の向上を目指した介入研究が1件であった。身体活動量自体の調査を目的とした研究では,通所リハビリテーションの利用者に対して,国際標準化身体活動質問票(IPAQ)が用いられ,脳卒中を呈さない要介護高齢者の身体活動量の低さが指摘されていた。また,在宅要介護高齢者では,睡眠時平均心拍数の125%以上の活動を身体活動とし,一日の中での身体活動量を比較することで,健康な高齢者よりも要介護高齢者は身体活動量が少ないことを報告していた。さらに,ナーシングホームと介護老人保健施設(老健)の入所者では,調査員が入所者の一日の活動内容とその活動に要した時間を評価し,算出した身体活動量から一日の総消費エネルギー量を求めていた。他の健康項目との関連を検討した研究では,身体活動量と栄養摂取状況,認知機能,身体形態,歩行能力との関連を検討していた。特別養護老人ホーム(特養)の入所者では,施設に設置したビデオカメラの映像により,一日の生活活動とその活動に要した時間から身体活動量が算出され,身体活動量の多さと下腿周径の太さや認知機能の高さの関連が認められていた。老健入所者では,身体活動量が歩数計で評価され,身体活動量と1分当たりの歩数には正の相関が認められたが,施設担当者が評価したセルフケアスコアとは負の相関が報告されていた。評価方法の開発に関する研究では,特養と老健の入所者を対象とし,行動記録に基づいた肢位強度法による身体活動量の評価方法の妥当性が確認されていた。介入研究では,在宅要介護高齢者を対象とし,本人の嗜好を優先した専門家の身体活動量の向上に対する助言が,肢位強度法による身体活動量の増加に有効であることが報告されていた。
【考察】要介護高齢者の身体活動量の評価方法については,調査員による一日の生活活動状況の把握や肢位強度法などが検討されているが,標準化された指標がないのが現状であった。また,要介護高齢者の身体活動量の増加を目指した介入研究は1件と科学的な検討が不足していた。今後,要介護高齢者の身体活動量を対象とした研究を取り組むにあたり,要介護高齢者の身体活動量の評価方法に関する妥当性や信頼性,実現可能性を検討した上で,身体活動量の増加を目指した心理的,環境的な介入方法に関する研究を蓄積していくことが望ましい。
【理学療法学研究としての意義】要介護高齢者の重度化予防を老健などの施設で,より効果的に実現する方法を検討する上で,要介護高齢者の身体活動量に関する研究の動向と課題を整理したことは意義深い。