第50回日本理学療法学術大会

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運動制御・運動学習4

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0497] 若年者と高齢者における動作スピードの違いが筋の同時収縮に与える影響

岩本義隆1, 新小田幸一2, 緒方悠太1, 武田拓也1, 阿南雅也2, 高橋真2 (1.広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学専攻博士課程前期, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門)

キーワード:同時収縮, 表面筋電図, 高齢者

【はじめに,目的】
我が国では高齢者人口が総人口に占める割合が25%を超え,超高齢社会と化した。高齢者は若年者と比較して,筋力を始めとする様々な身体機能が低下することが報告されている。動作中に主動作筋と拮抗筋が同時に活動する現象は筋の同時収縮とよばれており,高齢者では筋の組み合わせが協同収縮系に従わず筋の同時収縮が増大すると報告されている。加えて,高齢者における動作中の足関節周囲筋の同時収縮の増大は動的バランス課題のパフォーマンスを低下させると報告されている。しかしながら,動作特性が筋の同時収縮に及ぼす影響に関しては明らかにされておらず,姿勢制御における身体重心(以下,COM)速度が筋の同時収縮に与える影響は定かではない。
そこで本研究では,若年者と高齢者における動作中の筋の同時収縮を動作スピードの異なる2つの条件間で比較し,高齢者の姿勢制御に関してこれまでとは異なる視点から考察することで高齢者の転倒予防法考案の一助とすることを目的として行う。

【方法】
被験者は,課題動作に影響を及ぼす既往および現病歴のない健常若年者15人(男性8人,女性7人:平均年齢22.7±1.6歳),健常高齢者16人(男性7人,女性9人:平均年齢73.5±2.9歳)であった。被験者は立位で荷重をつま先へと移動させる姿勢制御課題を2条件で行った(快適スピード条件,最大スピード条件)。被験者には2基の床反力計(テック技販社製)上で静止立位をとり自らのタイミングで体を前方へ傾け課題を開始するよう指示した。動作は足関節の動きのみで行い,踵が床から離れないよう規定した。
動作中の運動学データは各解剖学的標点47点に貼付した赤外線反射マーカおよび赤外線カメラ6台からなる3次元動作解析システムVicon MX(Vicon社製)を用いて取得し,運動力学データは床反力計2基より取得した。得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を使用して,COM前後方向座標(COMy),COM前方最大速度(COM-Vymax)を算出した。筋の同時収縮は表面筋電計KM-Mercury(メディエリアサポート企業組合社製)を用い利き足のヒラメ筋および前脛骨筋より取得した筋電図学データから得られる同時収縮指数(以下,CCI)によって評価した。CCI算出は,Falconer(1985)らの方法を参考にした。解析区間は静止立位時を基準とし,身体重心が前方に移動し始めた瞬間より最も前方へ到達した瞬間までとした。統計学的解析はSPSS Ver.22.0(IBM JAPAM社製)を用いて,若年群および高齢群における2条件間のCCIの差の検定を行い,各群内のCCIとCOM-Vymax,条件間のCCIの相関関係を検討した。なお,有意水準は5%未満とした。

【結果】
快適スピード条件,最大スピード条件の両条件において,高齢群では若年群と比較してCCIは有意に高値を示した(p<0.05,p<0.05)。若年群ではCCIは2条件間でCOM-Vymaxと有意な正の相関を示し(快適スピード条件:ρ=0.52,p<0.05,最大スピード条件:ρ=0.61,p<0.05),2条件間のCCIにも有意な正の相関を認めた(ρ=0.67,p<0.05)。一方で,高齢群においては2条件間のCCIには有意な正の相関を認めたものの(ρ=0.58,p<0.05),どちらの条件においてもCOM-Vymaxとの間に有意な相関を認めなかった。

【考察】
加齢とともに歩行や姿勢制御課題の際にヒラメ筋と拮抗する前脛骨筋の同時収縮が増大することは,過去の報告とも合致しており本研究の結果を支持している。本研究では,若年群では正の相関を認めたものの高齢群では認めなかった。また2条件間のCCIには正の相関が存在しており,両群では動作スピードが筋の同時収縮に与える影響が異なる可能性が示唆された。さらに,両群の快適スピード条件においてCCIが高い者は,動作スピードに関わらず同時収縮を増大させて姿勢制御を行っていることが考えられた。姿勢制御の際に本研究で扱っていない変数が同時収縮の増大に関与している可能性もあり,さらなる研究が必要であるが,筋の同時収縮に関して加齢の影響だけではなく被験者の特徴的な姿勢制御戦略による因子の検討が重要であることが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
本研究は,足関節周囲筋の同時収縮に関して若年者と高齢者を動作スピードの違いの観点から捉えることで,筋の同時収縮は個人の特徴的な姿勢制御戦略であることが示唆され,我々理学療法士は個々の患者に対してこれを評価することが必要であることを示したことに意義がある。