第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習4

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0506] 足底知覚探索課題が立位姿勢制御に及ぼす影響

―練習時の姿勢の違いに着目して―

髙橋理紗, 池田由美 (首都大学東京大学院人間健康科学研究科)

キーワード:足底感覚, 知覚探索課題, 姿勢制御

【はじめに,目的】
足底は身体で唯一床と接触する部分であり,特に足底の体性感覚は立位姿勢制御に深く関与している。立位姿勢での知覚探索課題により立位重心動揺を有意に減少させるとの報告はあるが,臨床的に立位保持が困難な場合が多く存在する。このような現状に対し,比較的保持の簡単な座位姿勢での立位姿勢制御能力の向上を目的とした介入が必要になると考えた。よって本研究では立位,座位姿勢といった異なる練習姿勢での足底知覚探索課題が立位姿勢制御能力に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は整形外科疾患,神経疾患のない大学生16名(平均年齢±標準偏差:22±0.76歳)とし,無作為に8名ずつ課題実施群とコントロール群に割り振った。課題実施群は4区画(左右の前足部と後足部)に硬度の異なるスポンジを無作為に組み合わせて板に貼り,5枚のプレートを作成した。プレートの前後向きを変えて合計10パターンのプレートを無作為に提示し,左右同時に前足部と後足部の足底部で探索させた。被験者には座位姿勢と立位姿勢にて4種類のスポンジの硬さを硬い順に判断し回答させ,10回施行した。座位姿勢では股関節・膝関節90°屈曲位で行い,立位・座位ともにスポンジの硬度探索課題時には足底部を浮かせず,閉眼で実施した。課題実施群は,先に座位姿勢で課題を実施し,その後1週間以上空けて立位姿勢で課題を実施する被験者と,その逆の順序で実施する被験者に無作為に分けた。コントロール群は探索課題の代わりに5分間安静椅子座位にて国家試験問題を解かせた。
姿勢制御能力は閉眼立位にて,重心動揺計(グラビコーダー,アニマ社製)を用いて測定し,得られた値のうち総軌跡長,単位時間軌跡長,外周面積を分析の対象とした。バランス能力はFunctional reach test(以下FRT)を5回測定し,後半3回を測定値として用いた。介入前後の重心動揺計測値について,各群内ではt検定を用いて比較し,群間の比較においては一元配置分散分析と多重比較を行った。FRTの値は3回分の平均値を採用し,各群内での介入前後においてt検定を用いて比較した。統計処理にはIBM SPSS Statistics21を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
重心動揺計測値:介入前と比較し介入後,座位群では総軌跡長(29.6±7.6→24.2±3.1cm)と単位時間軌跡長(0.98±0.25→0.8±0.1cm/s)が,立位群では総軌跡長(30.7±8.9→26.0±7.2cm)と単位時間軌跡長(1.0±0.3→0.86±0.24cm/s),外周面積(1.77±0.95→1.31±0.54cm2)が有意に減少していた(p<0.05)。介入前の計測値では3群間で有意差は認められなかった。介入後の3群間の比較では座位群と立位群ともにコントロール群に比べて介入後の総軌跡長,単位時間軌跡長,外周面積が有意に減少した(p<0.05)が,座位群と立位群との間には有意な差は認められなかった。FRT:介入後に座位群・立位群で有意に増加した(p<0.05)が,コントロール群では有意差は認められなかった。
【考察】
本研究において,足底知覚探索課題を座位姿勢で実施しても立位制御能力の向上を図ることができた。また,動的な姿勢制御能力の評価であるFRTでは座位群,立位群ともに介入後に測定値の増加が認められたことから,静的姿勢制御能力のみならず動的な姿勢制御能力も向上することがわかった。
知覚探索課題を通して足底から入ってくるスポンジの硬さに注意を向けて感じとり,比較して硬い順へと判断し,言語化するという一連の認知過程を繰り返したことによって立位姿勢を制御するといった学習を行うことができたと考える。さらに,バランス能力を司る小脳は新しい運動行動が組織化されている時や学習過程が活性化されている時に最大限に関与してくる。つまり,今回の知覚探索課題では日常生活において注意を向けることの少なかった足底に対して硬度を弁別するといった新しいルールの学習であったことから,認知過程が活性化され,小脳が運動の組織化に関与したことによって座位群,立位群ともに立位姿勢制御能力が向上したのではないかと推測する。また,本研究では硬度の違いを比較する過程を踏んでいたことが,座位姿勢で実施した足底知覚探索課題が立位姿勢制御へと転移し,姿勢制御能力の改善が得られたと推測する。
【理学療法学研究としての意義】
臨床的に立位保持の困難な対象者に対しても,座位保持が可能になった比較的早期から,立位姿勢制御能力の向上を図るアプローチの一つのとして足底知覚探索課題が有効であると考える。