[P2-A-0513] 高齢者の努力歩行がMental Chronometryに及ぼす影響
転倒と運動機能との関連
Keywords:高齢者, Mental Chronometry, 努力歩行
【はじめに,目的】
運動イメージの評価・研究では,fMRIなどの脳血流部位を特定する方法やイメージ動作と実際の運動出力を表現する方法がある。しかし,両者とも運動イメージの精度は推測していることには変わりはない。臨床場面で対象者一人の結果を解釈し評価治療として適応させていくには,計測結果から脳と行動との機能的関連からその意味づけを行う必要があり,様々な視点が必要である。
本研究では,運動イメージにおける時間的一致性を評価できるMental Chronometry(MC)に着目した。MCにおける過去の報告では,健常者は実際歩行と心的歩行との時間一致性がある一方,高齢者は時間的不一致が認められ,転倒との関連性も報告されている。
高齢者の歩行におけるMCは,通常歩行での研究が多く,イメージ時間が延長することが報告されているが,逆にイメージ時間が速くなる対象者おり,その質的要素の因子は明確になっていない。また,その時間的不一致は,身体運動の誤認識と解釈されているが,その一致性の程度と身体能力との関係性は明らかになっていない。
そこで本研究では,努力歩行におけるMCに着目し,転倒や運動機能との関係性を探ることを目的とした。
【方法】
対象は,自立した生活をしている地域在住高齢者54名(非転倒群:男性8名。女性32名,76.5±6.1歳,転倒群:女性14名,80.0±6.2歳)とした。転倒は,過去1年間の転倒の有無を調査し,歩行や動作時につまずいたり,滑ったりして,床・地面に手や殿部など身体の一部が接触した場合とした。
運動課題は,10m平地歩行とし,自由歩行と努力歩行とした。MCの計測は,椅坐位開眼で10m先にあるカラーコーンまで歩行するイメージ課題をストップウォッチにて対象者本人が計測した(心的歩行)。その際に,歩数の計測も求めた。実際の歩行時間は,ストップウォッチを用いて実際に10m自由歩行遂行時間と歩数を検査者が計測した(実際歩行)。また,運動機能評価として膝関節伸展筋力,開眼/閉眼片脚立位時間,Timed & Up Go Test,Ten Step Test(敏捷性検査)を計測した。
自由歩行と努力歩行の心的歩行と実際歩行の時間と歩数の絶対誤差算出した。絶対誤差は,二元配置分散分析(転倒因子×努力因子)を用いて検討した。また,自由歩行と努力歩行各々の時間一致を1秒以内と1秒以上との2群に分け,各運動機能評価項目をunpaird t testにて検討した。また,自由歩行と努力歩行において1秒以内の時間一致性と転倒の有無において,感度と特異度を算出した。
【結果】
心的歩行と実際歩行の時間と歩数の絶対誤差における二元配置分散分析の結果,転倒群において有意に高値を示した(p<0.01)。
時間一致の精度で群分けし,各運動機能について比較した結果,自由歩行においてはどの運動機能においても有意差は認められなかったが,努力歩行においては,すべての運動機能において時間一致の精度が高い群の方で有意に運動機能が高い結果を示した(p<0.05)。
時間一致の精度により転倒の有無の感度・特異度は,普通歩行の感度93%・特異度28%,努力歩行の感度100%・特異度42%であった。
【考察】
自由歩行と努力歩行ともに転倒群において,心的歩行と実際歩行の時間と歩数の不一致性が認められ,イメージ能力が転倒に影響していることが示唆された。
自由歩行では認められず,努力歩行において,時間一致の精度が高い群の方が有意に運動機能が高い結果を示したこと,努力歩行における時間精度による分類の感度・特異度が高いことは,従来の自由歩行のMCよりも努力歩行のMCの方が運動イメージの評価としての精度が高いことを示唆している。
運動イメージの利点は,実際に実行可能な動作に近い動作であればリスクなく,イメージの中で体験出来ることにある。結果から努力歩行の時間的精度が,運動機能的側面と影響があることから,対象者に運動イメージの評価・トレーニングを行う場合は,ある一定努力性の高い動作を要求する方が良い可能性があると思われる。
今後は歩行だけでなく,他の動作での検討や運動イメージ評価方法を組み合わせ,1回の評価だけでなく継続的な評価が必要であると考えている。
【理学療法学研究としての意義】
従来のMCでは,自由歩行が用いられることが多かった。しかし,本研究の結果から,歩行におけるMCは努力歩行での時間一致性を確認した方が,転倒との影響を探りやすく,その精度も高いことを見出した。また,努力歩行のMCの精度と運動機能とに関係があることから,努力性の高い動作のMCの精度を上げていくことが運動機能の向上に結びつく可能性があると考えている。
運動イメージの評価・研究では,fMRIなどの脳血流部位を特定する方法やイメージ動作と実際の運動出力を表現する方法がある。しかし,両者とも運動イメージの精度は推測していることには変わりはない。臨床場面で対象者一人の結果を解釈し評価治療として適応させていくには,計測結果から脳と行動との機能的関連からその意味づけを行う必要があり,様々な視点が必要である。
本研究では,運動イメージにおける時間的一致性を評価できるMental Chronometry(MC)に着目した。MCにおける過去の報告では,健常者は実際歩行と心的歩行との時間一致性がある一方,高齢者は時間的不一致が認められ,転倒との関連性も報告されている。
高齢者の歩行におけるMCは,通常歩行での研究が多く,イメージ時間が延長することが報告されているが,逆にイメージ時間が速くなる対象者おり,その質的要素の因子は明確になっていない。また,その時間的不一致は,身体運動の誤認識と解釈されているが,その一致性の程度と身体能力との関係性は明らかになっていない。
そこで本研究では,努力歩行におけるMCに着目し,転倒や運動機能との関係性を探ることを目的とした。
【方法】
対象は,自立した生活をしている地域在住高齢者54名(非転倒群:男性8名。女性32名,76.5±6.1歳,転倒群:女性14名,80.0±6.2歳)とした。転倒は,過去1年間の転倒の有無を調査し,歩行や動作時につまずいたり,滑ったりして,床・地面に手や殿部など身体の一部が接触した場合とした。
運動課題は,10m平地歩行とし,自由歩行と努力歩行とした。MCの計測は,椅坐位開眼で10m先にあるカラーコーンまで歩行するイメージ課題をストップウォッチにて対象者本人が計測した(心的歩行)。その際に,歩数の計測も求めた。実際の歩行時間は,ストップウォッチを用いて実際に10m自由歩行遂行時間と歩数を検査者が計測した(実際歩行)。また,運動機能評価として膝関節伸展筋力,開眼/閉眼片脚立位時間,Timed & Up Go Test,Ten Step Test(敏捷性検査)を計測した。
自由歩行と努力歩行の心的歩行と実際歩行の時間と歩数の絶対誤差算出した。絶対誤差は,二元配置分散分析(転倒因子×努力因子)を用いて検討した。また,自由歩行と努力歩行各々の時間一致を1秒以内と1秒以上との2群に分け,各運動機能評価項目をunpaird t testにて検討した。また,自由歩行と努力歩行において1秒以内の時間一致性と転倒の有無において,感度と特異度を算出した。
【結果】
心的歩行と実際歩行の時間と歩数の絶対誤差における二元配置分散分析の結果,転倒群において有意に高値を示した(p<0.01)。
時間一致の精度で群分けし,各運動機能について比較した結果,自由歩行においてはどの運動機能においても有意差は認められなかったが,努力歩行においては,すべての運動機能において時間一致の精度が高い群の方で有意に運動機能が高い結果を示した(p<0.05)。
時間一致の精度により転倒の有無の感度・特異度は,普通歩行の感度93%・特異度28%,努力歩行の感度100%・特異度42%であった。
【考察】
自由歩行と努力歩行ともに転倒群において,心的歩行と実際歩行の時間と歩数の不一致性が認められ,イメージ能力が転倒に影響していることが示唆された。
自由歩行では認められず,努力歩行において,時間一致の精度が高い群の方が有意に運動機能が高い結果を示したこと,努力歩行における時間精度による分類の感度・特異度が高いことは,従来の自由歩行のMCよりも努力歩行のMCの方が運動イメージの評価としての精度が高いことを示唆している。
運動イメージの利点は,実際に実行可能な動作に近い動作であればリスクなく,イメージの中で体験出来ることにある。結果から努力歩行の時間的精度が,運動機能的側面と影響があることから,対象者に運動イメージの評価・トレーニングを行う場合は,ある一定努力性の高い動作を要求する方が良い可能性があると思われる。
今後は歩行だけでなく,他の動作での検討や運動イメージ評価方法を組み合わせ,1回の評価だけでなく継続的な評価が必要であると考えている。
【理学療法学研究としての意義】
従来のMCでは,自由歩行が用いられることが多かった。しかし,本研究の結果から,歩行におけるMCは努力歩行での時間一致性を確認した方が,転倒との影響を探りやすく,その精度も高いことを見出した。また,努力歩行のMCの精度と運動機能とに関係があることから,努力性の高い動作のMCの精度を上げていくことが運動機能の向上に結びつく可能性があると考えている。