[P2-A-0516] 観察学習効果におけるワーキングメモリを要する持続的な注意機能の影響
Keywords:観察学習, 注意機能, ワーキングメモリ
【はじめに,目的】
運動を学習する際,手本となる運動を観察することを手掛かりに運動を習得していくことを観察学習といい,さまざまな運動パフォーマンス効果が報告されている(例えば,Garrison, et al. Neurorehabil Neural Repair, 2010)。観察学習中は運動関連領域のほか,ワーキングメモリ機能を担う,前頭前野背外側部が活動することが知られている(Decety, et al. Brain, 1997)。通常,観察学習は手本観察を通じて自身の運動をシミュレーションし,その運動を保持する。このため,手本の運動に持続的な注意を払いながら観察することが必要となる。つまり,観察学習のためには,手本に対して持続的に注意を払いながら自身の運動をワーキングメモリとして保持することが必要であると考えられる。本研究では,観察学習時にワーキングメモリ機能を要する持続的注意能力の関連について検討した。
【方法】
参加者は健常若年成人20名であった(平均年齢21.5±0.8歳)。運動課題として,2つの5センチの鉄球を左手(非利き手)の掌で回す課題を用いた。手続きは,観察前のプレ測定として,10回転させるのに要する時間を測定した。プレ測定後,1分間の手本となる習熟した鉄球回し映像を観察してもらった。その後,10回転の鉄球回し課題を行ってもらった。この“観察→鉄球回し”の手続きを3回繰り返し,最後の課題に要した時間をポストの値として測定した。この時間の測定には,参加者が鉄球を回している最中の動画を,動いているストップウォッチと共に撮影する方法を用いた。撮影した動画のストップウォッチの数値から鉄球回しの開始と終了時間および鉄球落下によるタイムロスを計測し,実際に課題に要した時間を算出した。注意能力測定は,Trail Making TestのPart AとPart Bの時間を測定した。鉄球回し課題における従属変数は,ポストの測定値,ポストの改善率とした。TMTの従属変数は,Part A時間,Part B時間とした。統計解析は,(1)各種鉄球回し課題の測定値と各種TMTの間の相関分析,(2)Corrigan, et al. J Clin PsycholPart, 1987に基づき,Part A時間,Part B時間の早い群5名と遅い群5名のポストの改善率をt検定で分析した。なお,有意水準は全て5%とした。
【結果】
相関分析の結果,Part B時間とポストの時間(r=0.64)に有意な相関を認めた。一方で,Part Aはポスト時間や,ポストの改善率ともに関連しなかった。次に,Part A時間,Part B時間のそれぞれ上位と下位5名ずつの改善率のt検定の結果,Part Bが早い群は,遅い群より有意に鉄球回しの改善率(p=0.02)及び,ポストのパフォーマンス(p=0.04)が高かった。一方で,Part Aによる群分けでは,改善率,ポストのパフォーマンスともに有意な差は認められなかった。
【考察】
Part B時間とポストの鉄球回しパフォーマンスに有意な相関を認めた。一方でPart A時間とは運動パフォーマンスとの関連を認めなかった。これらの結果は,ポストにおける学習効果は,Part Bに含まれる特有の要素が影響を与えていると考えられる。Part Bの特徴は,Part Aにも共通する注意能力を反映するということに加え,二つの異なる系列がどこまで進んでいるか保持するために,ワーキングメモリの能力も反映するということである(Arbuthnott, et al. J Clin Exp Neuropsychol. 2000)。つまり,観察学習を効果的に行うためには,ワーキングメモリに関連した持続的な注意能力が重要であることが示唆される。 実際に,Part B時間が早い群は,遅い群よりも,鉄球回しパフォーマンスの改善率が高かった。この結果からも,ワーキングメモリに関連した注意の持続ができる者の方が,観察学習効果が得られやすいということが支持される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,観察学習における認知機能の重要性に関する情報を提供できると考えている。通常,観察学習を行う際,セラピストは手本を観察させることによって自身の運動シミュレーションの想起を期待する。本研究では,観察に基づく運動シミュレーションを行うために,その基盤となるワーキングメモリとして保持するための注意能力の重要性を示した。 したがって,観察学習を行う際に,より有効な学習効果を得るためには,例えばPart Bのようなワーキングメモリに関連する注意持続能力を同時に向上させる介入を実施することが必要となりうると示唆される。今後は,ワーキングメモリに関連する注意持続能力の向上させる介入を観察学習に組みこんだ学習効果について検討する予定である。
運動を学習する際,手本となる運動を観察することを手掛かりに運動を習得していくことを観察学習といい,さまざまな運動パフォーマンス効果が報告されている(例えば,Garrison, et al. Neurorehabil Neural Repair, 2010)。観察学習中は運動関連領域のほか,ワーキングメモリ機能を担う,前頭前野背外側部が活動することが知られている(Decety, et al. Brain, 1997)。通常,観察学習は手本観察を通じて自身の運動をシミュレーションし,その運動を保持する。このため,手本の運動に持続的な注意を払いながら観察することが必要となる。つまり,
【方法】
参加者は健常若年成人20名であった(平均年齢21.5±0.8歳)。運動課題として,2つの5センチの鉄球を左手(非利き手)の掌で回す課題を用いた。手続きは,観察前のプレ測定として,10回転させるのに要する時間を測定した。プレ測定後,1分間の手本となる習熟した鉄球回し映像を観察してもらった。その後,10回転の鉄球回し課題を行ってもらった。この“観察→鉄球回し”の手続きを3回繰り返し,最後の課題に要した時間をポストの値として測定した。この時間の測定には,参加者が鉄球を回している最中の動画を,動いているストップウォッチと共に撮影する方法を用いた。撮影した動画のストップウォッチの数値から鉄球回しの開始と終了時間および鉄球落下によるタイムロスを計測し,実際に課題に要した時間を算出した。注意能力測定は,Trail Making TestのPart AとPart Bの時間を測定した。鉄球回し課題における従属変数は,ポストの測定値,ポストの改善率とした。TMTの従属変数は,Part A時間,Part B時間とした。統計解析は,(1)各種鉄球回し課題の測定値と各種TMTの間の相関分析,(2)Corrigan, et al. J Clin PsycholPart, 1987に基づき,Part A時間,Part B時間の早い群5名と遅い群5名のポストの改善率をt検定で分析した。なお,有意水準は全て5%とした。
【結果】
相関分析の結果,Part B時間とポストの時間(r=0.64)に有意な相関を認めた。一方で,Part Aはポスト時間や,ポストの改善率ともに関連しなかった。次に,Part A時間,Part B時間のそれぞれ上位と下位5名ずつの改善率のt検定の結果,Part Bが早い群は,遅い群より有意に鉄球回しの改善率(p=0.02)及び,ポストのパフォーマンス(p=0.04)が高かった。一方で,Part Aによる群分けでは,改善率,ポストのパフォーマンスともに有意な差は認められなかった。
【考察】
Part B時間とポストの鉄球回しパフォーマンスに有意な相関を認めた。一方でPart A時間とは運動パフォーマンスとの関連を認めなかった。これらの結果は,ポストにおける学習効果は,Part Bに含まれる特有の要素が影響を与えていると考えられる。Part Bの特徴は,Part Aにも共通する注意能力を反映するということに加え,二つの異なる系列がどこまで進んでいるか保持するために,ワーキングメモリの能力も反映するということである(Arbuthnott, et al. J Clin Exp Neuropsychol. 2000)。つまり,
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,観察学習における認知機能の重要性に関する情報を提供できると考えている。通常,観察学習を行う際,セラピストは手本を観察させることによって自身の運動シミュレーションの想起を期待する。本研究では,